日々の臨床9月3日日曜日<免疫アレルギーと脳神経疾患>

神経・精神・運動器の病気

 

<免疫アレルギーと脳神経疾患>

 

最近の脳神経疾患の研究の進歩は目覚ましいものがあります。

 

皆様は、アレルギー専門医・リウマチ専門医というと

 

脳神経疾患とは全く無縁であるような印象をお持ちかも知れませんが、

 

そうではない、というお話をいたしましょう。

 

 

ここで、話題の脳神経疾患をいくつか列記してみます。

 

ギラン・バレ症候群、重症筋無力症、視神経脊髄炎、辺縁系脳炎、

 

これらのうち最初の2疾患は、高円寺南診療所でも経験症例があります。

 

しかも、アレルギー・リウマチに詳しい専門医であったことが早期発見・早期治療に繋げることができました。

 

 

最初のギラン・バレ症候群は抗ガングリオシドが関与します。

 

急性・多発性の根神経炎の一つで、主に筋肉を動かす運動神経が障害され、四肢に力が入らなくなる病気です。

 

重症の場合、中枢神経障害性の呼吸不全を来し、一時的に気管切開や人工呼吸器を要し、

 

厚生労働省の治療研究(難治性疾患克服研究事業)の対象となっています。

 

しかし、予後はそれほど悪くないためか医療給付(難病医療費助成制度)の対象ではありません。

 

 

次の重症筋無力症は抗アセチルコリン抗体が関与します。

 

アセチルコリンによる神経・筋伝達を阻害するために筋肉の易疲労性や脱力が起こる自己免疫疾患で、

 

日本厚生労働省により特定疾患に指定されている難病です。

 

 

3番目の視神経脊髄炎(NMO)は抗アクアポリン4<AQP4>抗体が関与します。

 

重度の視神経炎と横断性脊髄炎を特徴とする疾患です。

 

Devic病とも呼ばれています。

 

多発性硬化症(MS)、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)との異同が長らく議論されてきました。

 

2004年にメイヨークリニックと東北大学からNMOに特異的な自己抗体NMO-IgGが発表された。

 

2005年にその標的抗原が中枢神経の主要な水チャネルであり

 

脳神経の星細胞(アストロサイト)に密に発現しているアクアポリン(AQP)4であることが判明しました。

 

約9割は女性であり、発症年齢は30歳代後半とMSよりも高く、

 

再発は平均年に1回と多く、1/3の症例で片眼が失明しており3椎体以上の長い脊髄病変は9割の症例にみられるなど

 

NMOの臨床的な特徴が明らかとなりました。

 

2006年度に新たなNMOの診断基準が完成し、

 

診断基準では全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群など

 

膠原病や膠原病類縁疾患の徴候があった場合はその病変はNMOではなく、

 

膠原病や膠原病類縁疾患の中枢神経症状と考えます。

 

NMOをMSのような炎症性脱髄疾患に分類することが不適切と考えられるようになりました。

 

 

最後の辺縁系脳炎は抗NMDA受容体抗体が関与します。

 

辺縁系脳炎とは帯状回,海馬,扁桃体などの障害により精神症状,意識障害,けいれんなどの症状を呈し、原因は多岐にわたっています。

 

神経細胞の細胞膜抗原である,N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体に対する新規自己抗体が卵巣奇形腫に随伴する傍腫瘍性脳炎に特異的に存在することが報告されました。

 

抗NMDA受容体脳炎は重篤かつ特徴的な臨床経過をとり,

 

適切な免疫療法により回復可能な辺縁系脳炎であり,

 

神経内科領域はもとより,精神科,婦人科領域でも認知されるようになりました。

 

 

このように近年,自己免疫性の辺縁系脳炎に注目が集まっており,

 

新規抗原分子がいくつか同定され,その疾患概念は拡大しています。

 

自己抗体介在性辺縁系脳炎には特定の腫瘍が合併することがあり,

 

傍腫瘍性神経症候群としての側面も有しています。

 

このように、脳神経領域の病気を診療するにあたっては免疫・アレルギー学の知識が不可欠になっているのと同時に、

 

アレルギー専門医・リウマチ専門医は脳神経領域の病気に対してもますます無関心ではいられない状況になりつつある、

 

最先端の専門領域であることがご理解いただけるのではないか、と存じます。