血小板が減少すると、皮下出血や粘膜出血を来します。
健常人では、止血機構が正常なので、出血傾向や血栓傾向はみられません。
その理由は、血栓形成作用と抗血栓形成作用が均衡しているからです。
もし、このバランスが崩れると出血傾向や血栓傾向が生じます。
出血傾向は血栓形成作用より抗血栓形成作用が優勢出る場合に生じ、その原因は、血小板数の低下・機能異常、凝固因子の欠乏・機能異常、線溶系の亢進です。
さて、血小板数の減少により出血傾向を呈するものには、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)があります。
国際的には一次性免疫性血小板減少症(primary immune thronbocutopenia)という病名に置き換えられています。
重症度分類でステージⅡ以上のITPは指定難病の対象となります。
ITPでは、骨髄において自己血小板に対する抗体が産生され、抗体に感作された血小板が早期に網内系で破壊されます。
つまり、ITPは血小板の寿命が短縮する病気であり、正常の寿命は7~10日であるのに対して、急性期では3日以下となります。
また、赤血球数は通常正常範囲ですが、鉄欠乏性貧血を示すことがあります。
除外診断が主体で、自己血小板抗体の標的抗原は、GPⅡb-ⅢaおよびGPⅠb-Ⅸであることが明らかにされているので診断に有用ですが、残念ながらこの自己抗体測定検査は普及しておらず、また保険適応もないのが問題です。
またPAIgGは自己抗体のみならず、非特異的IgGも測定するため診断的意義は低いです。
一方ITPの原因として、ヘリコバクター・ピロリ菌があります。
国内における高齢者のITP患者の約半数はヘリコバクターピロリ菌と関連があるため、『成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド2011年版』では、診断後緊急時を除き、まずピロリ菌検査(尿素呼気試験、便中ピロリ抗原)をすることが求められています。
ヘリコバクターピロリ抗体陽性の場合は2010年に承認されたヘリコバクター・ピロリ除菌療法を行うと血小板増加が期待でき、奏功することがあります。
骨髄検査:
巨核球数が増加傾向となり、巨核球の大きさも増大傾向を示します。
ITPにおいて、個々の血小板の機能は亢進傾向にあるため、血小板数が5万/μL以下になっても、必ずしも著しい出血は生じません。
ステージⅠ:
無症状もしくは皮下出血(点状出血・紫斑・斑状出血)、血小板数5~10万/μL
ステージⅡ:
無症状であっても、血小板数5万/μL未満
粘膜出血(歯肉出血、鼻出血、下血、血尿、月経過多を含む)
ステージⅢ:
無症状であっても、血小板数2万/μL未満
皮下出血があれば、血小板数5万/μL未満
重症出血(生命を脅かす危険のある脳出血や重症消化管出血)があればステージⅣ以上
さらに血小板数2万/μL未満でステージⅤ
治療:
ITPの治療は血小板数と出血症状によって決まります。
急性型ITP(血小板数≦2万/μL)では短期ステロイド投与(ステロイドパルス療法)の適応となります。
緊急時には血小板輸血が基本ですが、血小板数<1万/μLで、広範な紫斑や明らかな粘膜出血があるケースでは、大量免疫グロブリン静注療法およびステロイド療法を行います。
なお、免疫グロブリン製剤の投与は、
無症状+血小板数>3万/μL(ステージⅠおよびⅡの軽症型):無治療
無症状+血小板数2~3万/μL(ステージⅡの進行型):注意深い経過観察
血小板数<2万/μL、あるいは重篤な出血症状:少なくとも血小板数>3万/μLを保てるように治療する
1次:ステロイド(プレドニゾロン経口投与)
2次:脾摘(術前に血小板数を上昇させたり、著明な血小板数低下をきたしたりしたときの治療として免疫グロブリン製剤投与が行われます)
3次:トロンボポイエチン(TPO)受容体作動薬、免疫抑制剤(アザチオプリンなど)
TPO受容体作動薬の効果は、脾摘の有無とは無関係であり、また内因性TPOとは構造が全く異なるため、抗体産生は誘導されません。
なお、ITPに対して血漿交換は無効です。
<妊娠合併ITP>
妊婦の5~12%が15万/μL未満の血小板減少を来します。そのうち70~80%が妊娠性血小板減少で、妊娠2期の後半から3期に7~15万/μLの軽~中等度の血小板減少症です。
ただし、8万/μL未満の場合は経過観察と原因検索が必要です。
妊娠中のITPの治療は、血小板数を妊娠中は3万/μL以上、分娩時は5万/μL以上を維持することを目標とします。
妊娠中にITPを合併した場合には、出産に備え、血小板を増加させておくことが必要です。
妊娠合併ITPで安全に使用できる薬剤は副腎皮質ステロイドと免疫グロブリン製剤です。
ステロイドは中止せず継続します。ただし、胎児への影響や、帝王切開や会陰切開の縫合不全、感染のリスクを考え、緊急時でなければ、プレドニゾロン10~20mg/日で内服を開始し、血小板の反応をみて少量投与にとどめることが推奨されています。
副腎皮質ステロイドが無効または禁忌の場合や緊急時には、免疫グロブリン大量療法がおこなわれます。血小板数は投与後1週間程度で最大値となり、2~3週間で前値に戻ります。
なおTPO受容体作動薬は妊娠時に使用したデータは無く、胎児への影響も不明であるため、現時点では妊娠時に投与するのは勧められません。
また、ヘリコバクターピロリ抗体陽性の約60%が除菌により血小板が上昇しますが、除菌に用いるプロトンポンプ阻害薬と抗菌薬の妊婦と胎児に対する安全性と妊娠中の除菌の血小板増加効果は確立していません。
そのため、「妊娠合併特発性血小板減少性紫斑病診療の参照ガイド」では、除菌療法は分娩後に行うことが推奨されています。
参考:成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド2012年版(厚生労働科学研究班)
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