日々の臨床 4月12日 水曜日

消化器系の病気

 

テーマ:劇症肝炎

 

 

<熱が出て、お腹が痛くて、頭がぼんやりする>という初診の患者さんの症状は、高円寺南診療所では、ごく普通です。

 

しかし、これが、ときとしては普通でない病気のことがあるので要注意です。

 

その病気は、生存率約50%で、特定のタイプに該当する場合の生存率は10~20%です。

 

 

高円寺南診療所では、初診時に血圧および脈拍体温の測定をしてから

 

診察室にはいっていただき、診察の際は呼吸を観察しています。

 

これらをバイタルサインといい、早期の的確な診断のためにとても重要です。

 

一般尿検査は、これに準じると考えます。

 

これらと同時に患者さんの訴え(主たる自覚症状)をもとに状況の変化を観察することにしています。

 

(残念なことですが、最近では、この最低のチェックすら協力的でない患者さんがいらっしゃいます。

 

現場の医療上の大きな問題であると苦慮しています。)

 

 

臨床医(医療の現場の医師)は五官(五感)をフルに働かせ、場合によっては第六感

 

(視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の五感を超えた不思議な感覚)ですら働かせなければならないことがあります。

 

たとえば、この患者さん、何となく肌が黄味がかっている(黄疸:視覚)、

 

赤紫色のあざがある(出血傾向:視覚)、むくみがある(浮腫:視覚・触覚)、

 

独特な口臭を放っている(肝性口臭:嗅覚)、

 

腹部を診察して肝臓が委縮している(肝萎縮:触覚・聴覚)などによって、

 

肝臓病による一連の症状であることの見当がつけば、

 

神経症状である意識障害の程度を見極めます。

 

羽ばたき振戦を認めれば肝不全による意識障害であることが推定できます。

 

 

外来にひとりで歩いて受診される方は、非昏睡型といって意識障害は軽度ですが、油断はできません。

 

初発症状が出現してから11~56日以内に昏睡に陥れば、亜急性型の急性肝不全(劇症肝炎)であり、

 

これが、先ほど触れた、生存率10~20%のタイプなのです。

 

黄疸が現れても全身倦怠感や食欲不振が改善しない場合には、

 

急性肝不全を予知しなければなりません。

 

原因の半分はウイルス性(主に、B型肝炎ウイルス)で、自己免疫性、薬剤性と続きます。

 

3ヶ月ほど前に会社の人間ドックを受けたという患者さんで、

 

その際に肝機能が正常だったからといって、肝障害の診断を受け入れない方があり困ったことがあります。

 

 

少し専門的な話になりますが、正常な肝臓に急性で高度な肝障害を生じ、

 

初発症状の出現より8週(56日)以内にPT延長(40%以下)ないし、INR1.5以上を示すものが急性肝不全(劇症肝炎)です。

 

PTとは、プロトロンビン時間のことで、外因系凝固活性化機序を反映する検査です。

 

PTが延長することと、INRが上昇することは同じ内容で、血液が凝固せず出血傾向となります。

 

 

この病気の合併症として、肺炎が最も重要であり、

 

他に、腎不全、脳浮腫、消化管出血などが死因につながります。

 

尚、治療法は、輸液による全身管理、血液透析、肝移植などです。