院長ご挨拶

飯嶋 正広

 

 

杉並国際クリニックは、平成元年開設以来、四半世紀以上にわたり「体と心のトータル・ケア」を提供してきました。その目的のため西洋医学と東洋医学の両面での知識・技術・経験を駆使して診療にあたっています。

 

私どもは、平成元年に当地において開設以来、足かけ30年にわたり専門性の高い「体と心のトータル・ケア」を提供し、今後のわが国のめざすべき地域に根差した診療所の確立を目指してきました。

 

  令和の新時代を迎えた今、30年に及ぶ私どもの医療活動の成果を総括してみますと、残念ながら地域医療の拠点としての組織体制を確立することはできませんでした。一方で幸いなことに専門性の高い「体と心のトータル・ケア」を提供できる基本体制を整えることは達成できたものと自負しております。

 

以上の結果に至った背景には、生涯現役を目指し、当院に継続的に通院し、ともに健康の維持増進に努めてこられた患者の皆様に共通する、私どもに対する期待があったからだと認識しております。

 

 

ところで厚生労働省が概観しているように、日本は、諸外国に例をみないスピードで高齢化が進行しています。65歳以上の人口は、すでに3,000万人を超えており(国民の約4人に1人)、2042年の約3,900万人でピークを迎え、その後も、75歳以上の人口割合は増加し続けることが予想されています。このような状況の中、団塊の世代(約800万人)が75歳以上となる2025年(令和7年)以降は、国民の医療や介護の需要が、さらに増加することが見込まれています。

 そこで厚生労働省は、2025年(令和7年)を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進していると宣言しています。

 

私どもは、しかしながら、以上のような厚生労働省のマニフェストは行政的令色(リップサービス)に過ぎないことを30年の経験で学習してきました。なぜならば、厚生労働省は、国策の趣旨に則って努力している医療機関を支援するどころか、かえって苦境に陥らせるような具体的政策や行政指導を強行してきたからです。

 

そもそも国民は政府や行政機関が描く青写真や思惑通りに動くものではありません。もっとも、それは行政の責任ではなく、日本国民の医療に対する意識の低さこそが問題であることを謙虚に反省すべきだと思います。

 

令和の時代を迎えても、私たち国民が、なお行政的令色に惑わされたまま現状を傍観し続けるならば、国民の願う平和や安心は実現できないばかりでなく、悲惨な結果をもたらすであろうことを憂えるばかりです。

 

国民の意識変革なしでは厚生労働省が主導する地域包括ケアシステムは失敗に終わらざるを得ないでしょう。このままの勢いで、要介護者が増加していくならば、年金制度のみならず介護保険、医療保険と次々にドミノ倒しのように制度崩壊をもたらすことになるでしょう。

 

 

それでは、皆様は将来に向けてどのような対策を立てたら良いのでしょうか?

 

それは、必ずしも難しいことではありまありません。皆様方がご自分に相応しい医療機関を積極的に選択すれば良いだけのことです。民主主義の世にあって他者が与えてくれるような絶対的な価値観などは存在しないからです。

 

たとえば日曜日や休日に受診したい方は、そのような患者さんのニーズに対応できるよう努力している医療機関があります。また、通院困難な方には往診や在宅医療のニーズに対応すべく活躍している医療機関もあります。患者さんの要望通りの診断書や検査や治療対応をすることで人気を博している医療機関もあります。一生涯タバコを吸い続けたいと願っている愛煙家の皆様には、みずからタバコを嗜んでおられるドクターもいらっしゃいます。

 

このようにわが国では、特に東京都内のような大都会では、患者の皆様は医療機関や医師を自由に選択できる特権をもっているので大いに活用されたら良いのではないでしょうか。

 

ただし杉並国際クリニックは、以上のようなケースに該当するような皆様のご要望にまで応えることはできません。

週末等はあえて休診にしても提供する医療の質を維持向上するために関連医学会等に参加します。

私どもの環境では在宅医療と介護予防との両立は困難なので、介護予防を優先します。

 

医療はサービス業とされますが、誤解があるようです。医療におけるサービスとは受診者のニーズに無条件に応えることではなく、高度な専門性と倫理性に基づく労務の提供であるからです。禁煙は健康管理の根幹ですから今後も引き続き禁煙運動を継続していくことをお約束いたします。

 

 

以上のような杉並国際クリニックの新しいコンセプトは、これまでの実に多数におよぶ賢明な患者の皆様の御支援によってもたらされたものです。

 

つまり、これは高円寺南診療所の30年の歴史を通して、『生涯現役を目指し、要介護状態にならないための努力と工夫に心がけ、当院に継続的かつ計画的に通院し、ともに健康の維持増進に努めてこられた』皆様方と共に築き上げてきた精神的財産であるということができます。

 

杉並国際クリニックのコンセプトは、こうした患者の皆様の総意に基づくものであると同時に、今後、新たにご来院される皆様にも分かち合ってただきたい無形の財産であることを宣言したいと思います。

 

それでは、新体制の杉並国際クリニックはどのようなコンセプトを基礎とするものなのでしょうか?

 

私どもの医療の実践は、統合医療(全人的医療)のモデルは心身相関理論と独自の人格・環境・習慣病理論に基づくものです。その目標の実現のため西洋医学と東洋医学の両面での知識・技術・経験を駆使した独自の統合医療(全人的医療)を一歩一歩丹念に構築してきました。 

 

心身相関理論とは心身医学の基礎理論です。

 

ところで近年の医学および医療の業界は、EBM(Evidence-Based Medicine)がもてはやされています。EBMは、「科学的根拠に基づく医療」と訳されます。科学的根拠はエビデンスとも呼ばれ、人を対象とした研究(臨床研究)の結果を指します。科学的根拠に基づく医療の本質は、医療者の専門性と患者さんの希望とを総合して医療上の判断を行う考え方と定義されています。そして、1998~1999年に、厚生労働省・医療技術評価推進検討会でEBMを普及させるために、ガイドラインの作成に研究助成を行うことが決定されました。

 

たしかに、実際のEBMや診療ガイドラインは、治験に参加できるような単一疾患でしかも標準的な患者さんにとっては大きな効力を発揮しています。

しかし、杉並国際クリニック(旧、高円寺南診療所)に来院される多くの患者さんは心身両面での多数の疾患を背負っている複合的ケースであるため、EBMや診療ガイドラインを直接活用することができないことを経験しています。

 

EBMに基づく診療ガイドライン作成者ですら「医療者の専門性と患者さんの希望とを総合して医療上の判断を行う考え方」という本来あるべき理念を十分に実践できているのかは大きな疑問が残るところです。

 

令和の新時代とともに再び歩み始める杉並国際クリニックでは、「医療者の専門性と患者さんの希望とを総合して医療上の判断を行う考え方」を実践するうえで不可欠な統合医療(全人的医療)を今年もさらに推進していきたいと思います。

それは、多様な患者さんの一人一人の思考・行動パターンを含むお人柄や、日々の生活を取り巻く環境の因子を含めて病気の成り立ちや治療を考えに基づく医療です。

 

これは人格・環境・習慣病理論という私独自の医療観に基づくものです。

 

統合医療(全人的医療)を目指す杉並国際クリニックは、とりわけ、専門医療の隙間の病気など現代の標準的医療制度が抱える限界や不備や矛盾、そのため居場所や行き場所を見失い悩み苦しむ弱者である患者の皆様とともに30年間歩み続けることができました。

 

 

健康は自己責任ばかりでは守れません。

自然環境や人的・社会的環境の悪化や劣化は、個人の努力ばかりでは如何ともし難いものがあります。

 

喘息やアトピー性皮膚炎をはじめ花粉症やダニアレルギーなどのアレルギーの病気国民病であるとともに環境問題とも密接な関係があります。

 

線維筋痛症や慢性疲労症候群など原因不明とされるリウマチ様疾患も解決すべき課題です。幸い、生活リズム調整療法鍼灸療法心理療法さらには杉並国際クリニックオリジナルの新しい画期的な心身医学療法として、水氣道®聖楽療法が効果を発揮しています。これらの独自のシステムがもし保険収載されれば、多くの患者さんを救済することが可能となることでしょう。

 

こうした有効な手立てがあるにもかかわらず、現行の保険診療の枠組のみでは治療効果が不十分な疾患を患っている皆様は、決して特殊で例外的な方々ではありません。

 

むしろ時代の先駆者ともいうべき皆様で、ますます増加の一途にあるように思われます。

 

また、現役世代の皆様は、効率重視の競争社会にあって、メタボリックシンドロームなど生活習慣病をはじめ、ストレスに伴う身体疾患(心身症)などに見舞われがちです。

 

さらに、超高齢社会を迎えて、認知症をはじめ、フレイル・サルコペニアなど医療と介護とにまたがるような大きな課題が日常化しています。

 

高齢者の病気は、ますます複雑化・多様化し、また個別化してきています。そのため、複数の専門診療科を受診しても適切な対応が取れなくなりつつあるのが現状です。

疾患単位の専門領域の寄せ集めで、科目間の連携が十分に機能していない一般的な総合病院型の大量生産的マニュアル医療には限界や矛盾が増えてきたように思われます。

 

それに伴い、たとえば高齢者のポリファーマシー(多剤服用)という医療課題が大きく浮上してきました。厚生労働省は個別専門医に対しても、高齢者が複数持つ疾患の治療優先順位に配慮したり、リスク・ベネフィットバランスを検討したりすることを求めていますが、実効性に欠ける掛け声に過ぎません。

かといって寄せ集め的な総合診療でも効果不十分であり、やはり心身医療をベースとする統合医療(全人的医療)を導入しなければ解決できない医療問題であると考えています。

 

とはいっても、病院とクリニックとの連携は大切さを増すばかりです。

 

今年は、医学の基盤である内科を中心に、最新の臨床医学の進歩に取り残されることがないよう、一層心がけてまいります。

 

そこで昨年までの<日々の臨床>を改め、«最新の臨床医学»というタイトルで、毎日を曜日ごとに決めた領域ごとに内科の各領域を皆様と共に勉強していきたいと思います。

 

この現状にいち早く気づいて、また、ご縁があって、いま、この文書をお読みになっている皆様は幸いとなることでしょう。

 

「いま、ここで」の苦痛から少しでも解放されるように支援することは、第一線の医療機関(クリニック)にとって大切な使命です。

 

しかしながら、超高齢社会にあっては、皆が少なくとも5年後、10年後の将来を見据えて、全人的健康のための備え(健康創生)に基づく健康管理による要介護状態や重大な病気の予防が必要です。

 

これの重要性に気づいて生活や行動の変革を行えば、多くの皆様が苦痛に加えて苦悩の老後を送らなくて済むようになります。

 

こうして誕生したのが、新しい独自なクリニック外活動です。

 

水氣道®での心身の鍛錬聖楽院における芸術活動は、杉並国際クリニックから日本国内のみならず、全世界に向けて提唱している新しい心身医学療法です。

 

心身医学全人的医療の中心的な要素です。

これらは、順調に成長を続け素晴らしい成果を上げています。

 

これからの時代を賢明に生きていくためには既存の権威を盲信せず、世俗の権力に媚びず、弱者同士が一致協力し合って現実の困難を乗り越え、創造的で芸術的な資質を発揮して生産的かつ創造的にたくましく生きていくことが肝要であると確信しています。

 

そうしたかつての弱者の群れの中から、人間愛に満ち、勤勉で優秀な人材が育ちはじめ、私たちのチーム医療や関連する活動にもたくましく積極的に参画し、社会に貢献してくれています。

 

 

最後に、今年は高円寺南診療所30年の歴史の総括を完了した後、

新たに『杉並国際クリニック』として、皆様と共に新しい時代を迎えたいと願っております。

 

疾病の地球規模化やますます盛んになっていく国際交流を背景として、英語をはじめとする諸外国語による診療をさらに充実・発展させていきたいと思います。外来における統合医療(全人的医療)の国際的モデルたらんとすることは、従来からの皆様にとっても、より質の高い医療を提供できることに繋がるものと信じております。

 

 

令和元年5月7日

 

 

院長 飯嶋正広