産業医講話シリーズNo10:労働ストレスと重要臓器 第1回講話:心臓の労働生理学

 

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はじめに


皆さん、こんにちは。今月は「労働ストレスと重要臓器」というテーマで、4回に分けて心臓・血液・肝臓・腎臓などの重要な臓器についてお話しします。今回の第1回目は「心臓」について詳しく見ていきます。心臓は、私たちの体を支える非常に重要な臓器であり、血液を全身に送り出し、また全身から血液を回収するという役割を果たしています。それでは、心臓の仕組みについて具体的に解説していきましょう。

 

 

1. 心臓の仕組みと働き


心臓は、こぶし大の臓器で、心筋という特別な筋肉でできています。心筋は、横紋筋の一種ですが、不随意筋であり、意思によって動かすことはできません。横紋筋の多くを占める骨格筋は随意筋であるのに対して、心筋は自律的に動く不随意筋という点が特徴です。この強い心筋の収縮力によって、全身に血液を送り出しています。


心臓は4つの部屋に分かれており、左心室と右心室、左心房と右心房で構成されています。ここで、重要な概念として「体循環」と「肺循環」があります。


体循環(大循環): 左心室から大動脈を通じて酸素を豊富に含んだ動脈血が全身に送られ、細胞に酸素や栄養を供給します。その後、二酸化炭素や老廃物を多く含んだ静脈血が大静脈を通って右心房に戻ってきます。


肺循環(小循環):

右心室から肺動脈を通じて肺へ静脈血が送られ、肺で二酸化炭素が放出され、酸素を取り込んだ動脈血が肺静脈を通じて左心房に戻ります。
ここで興味深いのは、肺動脈と肺静脈の役割です。


肺動脈:

通常、動脈は酸素を多く含む血液(動脈血)を送り出すものですが、肺動脈は例外で、ここを流れる血液は酸素が少なく二酸化炭素が多い静脈血です。心臓から肺へ向かうこの血管は動脈ですが、肺に酸素を補給する前の血液を運ぶため静脈血が流れています。


肺静脈:

一方、肺から心臓に戻る肺静脈では、通常の静脈と異なり、酸素を豊富に含む動脈血が流れています。これも通常の体循環と逆の現象で、心臓に戻る血液ですが酸素を多く含んでいるため、動脈血です。

 

 

2. 心臓の調節


心臓は、**洞房結節(ペースメーカー)**という部分が心拍を調節しており、自動的にリズムを刻んでいます。このリズムは、自律神経系によって調整されています。具体的には、以下の神経が関与しています。


交感神経:

体が活動的なとき(ストレス時や運動時)に活発に働き、心拍数を増やします。


副交感神経:

体がリラックスしているときに働き、心拍数を減らします。


心臓迷走神経:

心臓の副交感神経の主体で、心臓の拍動を抑える作用を持ちます。

 

 

 

3. 体循環と肺循環のリズム


体循環と肺循環は密接に関連しており、体循環の1周期に対して、肺循環も1周期を繰り返します。つまり、心臓が1回拍動するたびに、体循環と肺循環が同時に進行します。具体的には、心臓の右心室が肺に血液を送り出すと同時に、左心室が全身に血液を送り出すため、体循環と肺循環は同じ回数だけ繰り返されます。

 

 

 

4. 血液の循環とその役割


心臓がポンプとして働き、血液を全身に送ることで、酸素や栄養が細胞に届けられます。酸素を運ぶのは赤血球に含まれるヘモグロビンです。ヘモグロビンは肺で酸素を取り込み、全身の細胞にそれを供給します。そして、細胞で使用された酸素の代わりに二酸化炭素を回収し、肺へ運びます。ここで再び酸素と二酸化炭素の交換が行われ、循環が続きます。

 

 

 

キーワード解説


不随意筋:

意識的に動かすことができない筋肉で、心筋や消化管の筋肉がこれにあたります。


横紋筋:

心筋の特徴で、強い収縮力を持つ筋肉。体の骨格筋にも見られるが、心筋は自律的に働く。


冠動脈:

心臓自体に酸素と栄養を供給する血管。


洞房結節:

心臓の拍動をコントロールするペースメーカー。


交感神経・副交感神経:

自律神経系の一部で、心拍数や血圧を調整する。


心臓迷走神経:

副交感神経系に属し、心拍を抑制する役割を持つ。


体循環:

左心室から全身に血液を送る大きな循環。


肺循環:

右心室から肺へ血液を送り、酸素を補給する小さな循環。


動脈血:

酸素を豊富に含んだ血液。


静脈血:

二酸化炭素や老廃物を多く含んだ血液。

 

 

 

次回予告


今回は「心臓」についてお話ししました。次回は、血液について詳しく掘り下げます。血液の成分や、その働きについて理解を深めていただければと思います。質問があれば、どうぞお気軽にどうぞ。ありがとうございました。

 

参考文献


1. Guyton, A. C., & Hall, J. E. (2016). Textbook of Medical Physiology (13th ed.). Elsevier Saunders.


2. Ganong, W. F. (2005). Review of Medical Physiology. McGraw-Hill Medical.


3. 小山真一. (2003). 最新血液学 (3版). 医学書院.