「全人的医療への挑戦 — 予防医学の現実と未来への希望」 第3回: 「全人的医療の必要性 — 心身両面のケアと社会経済的視点」

 

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はじめに


全人的医療とは、患者を単なる病気の集合体としてではなく、心身両面、さらには社会的・経済的背景を含めた一個の「人間」として捉え、包括的にケアを提供するアプローチです。この全人的医療は、特に予防医学の実践において重要な役割を果たします。しかし、第一線でこのアプローチを維持しようとする医療機関は、しばしば数多くの困難に直面しています。本エッセイでは、全人的医療の必要性と、その実践における課題について考察し、良心的な医療機関が直面する現実の厳しさについて掘り下げます。

 


全人的医療の理念と必要性


全人的医療の理念は、患者の身体的な疾患だけでなく、精神的な健康や社会的背景にも配慮し、患者が直面する問題を包括的に解決することにあります。このアプローチは、予防医学の実践において特に重要です。例えば、生活習慣病の予防には、食事や運動などの身体的な要因に加えて、ストレス管理や社会的なサポートの強化が不可欠です。全人的医療は、これら多面的な要素を総合的に評価し、患者一人ひとりに合わせた最適なケアを提供することを目指しています。


しかし、このような理想的な医療を提供するためには、医師や医療スタッフが患者一人ひとりに対して十分な時間をかけ、丁寧に対応することが求められます。加えて、患者の生活背景や経済状況を把握し、それに応じたケアプランを策定するためのリソースが必要です。

 


現実とのギャップ


しかし、全人的医療を実践するためには、現実的な制約が多く存在します。特に、保険診療制度においては、時間をかけて患者と向き合い、じっくりと話を聞き、包括的なケアを提供するための努力が、診療報酬にほとんど反映されないことが大きな問題です。多くの医療機関では、短時間で効率的に患者を診察しなければならず、じっくりと時間をかけて診療を行うことが、経済的に成り立たない状況にあります。


例えば、複雑な患者のケースを全人的に評価し、最適なケアプランを策定するためには、医師が患者の背景に深く入り込み、様々な要素を考慮する必要があります。しかし、これには多くの時間がかかり、その時間が診療報酬に十分反映されないため、現場の医師は経済的なプレッシャーにさらされます。このため、多くの医療機関では、短時間での診療に偏りがちであり、結果として患者が受けるケアの質が低下するリスクがあります。

 


社会経済的視点からのアプローチ


全人的医療を実現するためには、医療機関だけでなく、社会全体が予防医学と全人的ケアの重要性を理解し、それを支援するための制度やリソースの整備が必要です。例えば、診療報酬制度の見直しや、予防医学に対する経済的支援の強化が考えられます。また、地域社会全体が健康増進活動に取り組み、医療機関と連携して患者をサポートする体制を築くことも重要です。


現場の医療従事者は、限られたリソースの中でできる限りの努力を続けていますが、その努力だけでは全人的医療を維持することは難しいのが現実です。社会的な支援と制度の充実がなければ、真に患者中心のケアを提供することは困難です。

 


結論


全人的医療は、予防医学を成功させるために不可欠なアプローチですが、その実践には多くの困難が伴います。医療機関が良心的な医療を提供し続けるためには、社会全体の理解と支援が必要であり、現行の医療制度の中でどのようにそれを実現していくかが今後の大きな課題となります。次回は、保険医療制度と予防医学における支援基盤の欠如が与える影響について掘り下げていきます。

 

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このエッセイでは、全人的医療の必要性とその実践における課題について取り上げ、医療現場での苦闘について考察しました。次回のエッセイでは、保険医療制度と予防医学の支援基盤についてさらに詳しく探求していきます。