臨床産業医オフィス
<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>
産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者
飯嶋正広
産業医講話シリーズNo9:労働生理(疲労・睡眠・生体恒常性)
第2回講話:疲労の検査法・予防と回復方法
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はじめに
こんにちは、前回に引き続き「労働生理」についてお話しします。今回は、疲労の検査法、予防方法、そして回復方法について詳しく掘り下げていきます。前回お話しした内容と合わせて、日々の健康管理に役立ててください。
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3. 疲労の検査法
疲労は主観的な感じ方だけでなく、科学的に測定することができます。ここでは、いくつかの代表的な検査法とそのメカニズムについて詳しく説明します。
フリッカー検査:
この検査では、一定の速度で点滅する光を見て、その点滅が見えなくなる速度(クリティカル・フリッカー・フュージョン:CFF)を測定します。目の疲労がたまると、視覚神経の反応が遅くなり、点滅が一つの光として認識されやすくなります。具体的には、視覚情報処理の速度や正確性が低下するため、CFF値が下がることから目の疲労度を評価します。
2点弁別閾検査:
皮膚に2つの点を同時に接触させ、その2点を別々に感じることができる最小の距離(弁別閾)を測定します。疲労が蓄積すると、感覚器官の敏感さが低下し、2点を1点として感じるようになります。この検査は、疲労による感覚神経系の鈍化を評価するために用いられます。
エネルギー代謝率(RMR):
RMRは、体がどれだけエネルギーを消費しているかを示す指標で、特に作業中のエネルギー消費を測定します。労働強度が高いほど、エネルギー消費量が増加しますが、疲労が蓄積すると基礎代謝が低下し、エネルギー効率が悪化します。RMRの測定は、体の疲労状態とエネルギー消費のバランスを評価するのに役立ちます。
作業能率:
作業能率を評価することで、疲労がどの程度作業効率に影響を与えているかを測定します。疲労が蓄積すると、集中力や判断力が低下し、作業ミスや遅延が増えることが確認されます。これにより、疲労の影響が生産性に及ぼす影響を把握することができます。
心拍変動解析:
心拍変動(HRV)は、心拍のリズムの変動を測定することで、自律神経系の活動状態を評価します。自律神経系には、交感神経系と副交感神経系という2つの主要な神経が含まれています。交感神経系は、活動やストレスに対して体を準備させる「戦闘モード」を司り、心拍数を増加させます。一方、副交感神経系は、リラックスや休息に関わる「休息モード」を司り、心拍数を減少させます。疲労やストレスが蓄積すると、交感神経系が過剰に働き、副交感神経系の働きが低下するため、HRVが低下する傾向があります。HRVの解析により、精神的および肉体的な疲労度を客観的に評価することができます。
厚生労働省「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」:
これは、労働者自身が簡単に疲労度を自己診断できるツールです。具体的には、質問に答えることで、自分の疲労度やストレスレベルを把握できるように設計されています。これにより、過労や慢性疲労の兆候を早期に発見し、適切な対策を取ることが可能になります。
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4. 疲労の予防
次に、疲労の予防についてお話しします。疲労はたまる前に予防することが大切です。ここでは、適切な休憩と軽いストレッチの具体例を紹介します。
適切な休憩の必要性
休憩を適切に取ることは、疲労の蓄積を防ぐために非常に重要です。1時間に1回程度、5~10分の休憩を取ることが推奨される背景には、疲労の蓄積速度と回復速度の関係があります。作業を続けると、筋肉や神経系に疲労が蓄積し始めますが、一定時間作業を続けるとその蓄積速度が急速に高まります。一方、短い休憩を頻繁に取ることで、蓄積した疲労を効率的に回復することができます。休憩を取ることで、筋肉の緊張が緩和され、血流が改善されるため、体全体がリフレッシュされるのです。
具体的なストレッチ方法
軽いストレッチは、血流を促進し、筋肉の緊張を緩和するのに効果的です。以下に、デスクワーク中でも簡単にできるストレッチをいくつか紹介します。
1. 首のストレッチ:
首を左右にゆっくりと倒し、各方向で10秒間キープします。その後、前後にも同じようにゆっくりと倒してストレッチします。これにより、首や肩の筋肉の緊張を緩和します。
2. 肩回し:
両肩を大きく回すことで、肩甲骨周りの筋肉をほぐします。肩を前に10回、後ろに10回回すようにしましょう。
3. 背伸び:
両手を組んで頭の上に持ち上げ、ゆっくりと背伸びをします。この時、つま先立ちになるとさらに効果的です。体全体を伸ばすことで、血流が促進され、体がリフレッシュされます。
4. 太もものストレッチ:
椅子に座ったまま、片足を伸ばし、足先を手でつかむように前屈します。左右それぞれ10秒ずつ伸ばすことで、太ももの筋肉をほぐします。
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5. 疲労の回復
最後に、疲労の回復方法についてです。疲労回復の三大因子は休息・休養・睡眠です。
休息:
仕事中にこまめに休憩を取ることが重要です。ただし、休憩中にスマホやPCを見ると、目や脳がさらに疲れてしまうことがありますので、リラックスできる環境で休息を取ることが大切です。
休養:
週末や休日には、仕事から離れてリラックスすることが必要です。趣味や家族との時間を楽しむことで、精神的なリフレッシュが図れます。
睡眠:
十分な睡眠は、体と心の疲れを回復させるために不可欠です。睡眠の質を高めるためには、寝る前の1時間はリラックスする時間を持ち、スマホやPCの使用を控えることが推奨されます。さらに、一定のリズムで生活することで、体内時計を整え、深い眠りを確保することができます。
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まとめ(第2回)
今日は、疲労の検査法や予防・回復方法について詳しくお話ししました。各検査法のメカニズムや、休憩とストレッチの重要性を理解し、実践していただくことで、体と心の健康をより良く保つことができます。日々の小さな対策が大きな違いを生むことを忘れず、ぜひ今日お話しした内容を日常生活や仕事の中で取り入れてみてください。何か質問があれば、遠慮なく聞いてください。ありがとうございました。
参考文献:
1. 厚生労働省. (2020). 労働安全衛生法に基づく労働者の健康管理
2. Malik, M. (1996). Heart rate variability: Standards of measurement, physiological interpretation, and clinical use. European Heart Journal, 17(3), 354-381.
3. Borg, G. A. (1982). Psychophysical bases of perceived exertion. Medicine & Science in Sports & Exercise, 14(5), 377-381.
4. Smith, A. P., & Smith, H. A. (2017). Workload, fatigue, and performance in the workplace. Psychology Press.
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