企業の衛生委員会における産業医の「衛生講話」⑲

 

前回はこちら


カスタマーハラスメント対策(その2)


令和6年7月18日(木)の杉並区役所安全衛生委員会

<産業医講話準備資料から>
テーマ「カスハラに対する有用な対応策や、職員がとるべき行動」

 

杉並区役所統括産業医 飯嶋正広

 

カスタマーハラスメントは、公共性の高い現場での悩みが大きいです。民間企業や小規模の専門職に従事する方々にとっても無視できない課題になってきています。

 

特に、医療・介護福祉・教育などの分野においては、かなり以前から問題になるケースが蓄積されているため、それなりのノウハウや対策もなされていることがあるという意味では先進的な現場であるともいえますが、ますますエスカレートしつつある現状においては、未経験の想定外のケースも増えつつあるように感じられまう。

 

講話の時間は限られていましたので、実際に以下のような質疑はなされませんでしたが、より広い読者の皆様のために、予め想定していた質問に対する私の準備回答を掲載することにいたします。

 


想定質問3:

日本におけるカスタマーハラスメント問題について、民間企業と比較して東京都特別区などの地方公共団体などの行政機関には、さらに、どのような課題や困難が想定されますか?

 

 

回答3:

日本におけるカスタマーハラスメント問題に関して、民間企業と比較して地方公共団体などの行政機関が直面する特有の課題や困難は以下の通りです。


1. 公共サービスの特性(公共性の高さ)行政機関としての東京都特別区は公共の利益を最優先するため、全ての区民に対して公平かつ丁寧な対応が求められます。これにより、民間企業よりも一層、区民の要求に応じる義務感が強くなりがちです。


2.法的・制度的制約(対応の柔軟性の制限)行政機関は法律や条例に基づいて運営されており、個別のケースに対する柔軟な対応が難しい場合があります。そのため、過度な要求やハラスメント行為に対して迅速かつ適切な対応を取るのが困難です。


3.利用者の多様性(区民の多様性)行政サービスは全ての区民を対象としているため、利用者の年齢、背景、ニーズが非常に多様です。この多様性が、特に高齢者や社会的弱者などの対応において特別な配慮を必要とする一方で、過度な要求やハラスメント行為が発生するリスクを高めています。


4.職員の精神的負担(精神的負担の増加)区職員は、区民の不満や苦情に日常的に対応する必要があり、これが積み重なることで精神的なストレスが増大します。民間企業に比べて、職員が区民対応に追われる時間が長くなる可能性があります。


5. 対応策の限界:民間企業ではハラスメント対策として顧客をブラックリストに載せたり、サービスの提供を拒否したりすることができますが、行政機関ではこのような対応が難しいです。公共サービスは基本的に全ての区民に提供する義務があるため、サービスを拒否することができないケースが多いです。


6.法的措置の難しさ(法的措置の実行困難)特に悪質なカスタマーハラスメントに対しては法的措置を検討することが必要ですが、行政機関の場合、訴訟や警察との連携などの手続きが煩雑であり、迅速な対応が難しいことが多いです。


7.職員の訓練と支援(とくに職員の訓練不足)行政機関の職員は、必ずしも全員が対人関係のプロフェッショナルではなく、ハラスメントに対する適切な対応法やメンタルケアに関する十分な訓練を受けていない場合があります。また、支援体制が不十分であることが多く、精神的なケアが行き届かないことがあります。


8.公開性と透明性の問題:行政機関はその活動が公に監視されているため、対応の一部始終が公開されることが多く、適切な対応が取られているかどうかについて厳しい目が向けられます。このため、対応の遅れやミスが批判の対象になりやすいです。

 

8月5日PDF