企業の衛生委員会における産業医の「衛生講話」
第15回:特論⑤視環境(その2)
「視環境」とは、人間の視覚に関わる物理環境のことでした。この物理環境の要素としては、採光、照明方法、光源の種類、照度や輝度のレベルと分布、グレア、彩色などがあり、「視環境」とは、これらの要素が総合的に構成された人間の視覚に関わる物理環境のことです。
もっとも、これは作業現場における評価要素なのですが、作業現場における「視環境」とである、採光や照明、彩色は、快適性や作業能率、健康に大きな影響を与えます。
「視環境」には、このように数多くの要素がありますが、なかでも重要な3項目である
❶照度、➋グレア(まぶしさ)、および❸彩色、について解説することにします。
❶ 照度
照度は、単位面積あたりに供給された光の量の指標です。
単位はルクス(lx)で、これは明るさの単位です。1ルクスは、1カンデラ(cd)の光源から1m離れた場所でその光に直角な面が受ける明るさのことです。
なお、カンデラは光源から出る光の強さを示す光度の単位で、ルクスは照らされた場所にどれだけ光が入っているかを示します。
照度の理解が作業環境管理の実務上大切なのは、労働安全衛生規則で作業基準が定められているからです。
一般的な事務作業で求められるのは300ルクス以上
付随的な事務作業で求められるのは150ルクス以上
なお、付随的な事務作業とは、事務作業のうち、文字を読み込んだり、資料を細かく識別したりする必要がないものが該当します。
➋ グレア(まぶしさ)
照明の光源やその反射が作業者の視野に入るとまぶしさを感じることがあります。
そして視界内に過度のまぶしさ(グレア)が生じると不快感や疲労を発生させてしまいます。
そこで、照明の光源やその反射が作業者の視野に入らないように、作業位置を工夫したり、天井や壁に光を当て、反射光により作業面を照らす間接照明を利用したりすることが望ましいです。
ここで、明かりのとりかたについて、大切なポイントを示します。
前方から明かりをとるときは、眼と光源を結ぶ線と視線が作る角度を30度以上にします。
これで、まぶしさを避けることができます。
❸ 彩色
これは、あまりよく知られていない「視環境」要素であり、私自身も混同していたほどの概念なので、私が実際にした質問について、英国人のデザイン専門家からいただいた回答を紹介することによって、概説し、私が補足説明を加えることにします。
<質問者:Dr.飯嶋>
彩色と明度と彩度の関係を教えてください。
<回答者:デザイン研究者>
彩色、明度、彩度は、いずれも色彩に関する重要な概念です。これらは、色の特性を記述するための基本的な要素です。
彩色 (Hue) :彩色は色相とも呼ばれ、色の種類や色の名前を表します。例えば、赤、青、緑などが彩色の例です。色相環を考えると、色相は円状に配置され、色相の値が変わると色の種類が変わります。
明度 (Lightness):明度は色の明るさまたは暗さを示します。明度が高い色は明るく、明度が低い色は暗いと感じられます。明度は、白と黒の間のグレースケールで表される色の明るさです。色の明るさが異なる場合、色相が同じであっても、色が異なるように見えます。
彩度 (Saturation):彩度は、色の鮮やかさまたは色の深さを示します。彩度が高い色は鮮やかで、彩度が低い色は薄くまたは灰色に近くなります。彩度が高い色は、色相の純度が高いことを意味し、彩度が低い色は、色相に灰色が混ざっていることを示します。彩度が0の色は、灰色の色相になります。
これらの概念は、色彩を分析したり、デザインしたりする際に重要です。
例えば、彩度を変更することで色の鮮やかさを調整したり、明度を変更することで色の明るさを調整したりすることができます。
これらの要素を組み合わせて、色彩のバリエーションや調和を作り出すことができます。
<補足説明>
「視環境」の要素として室内の彩色を扱う場合には、明度(色の明るさ)と彩度(色のあざやかさ)とを区別して、両者の兼ね合いで考える必要があります。
彩度を高くし過ぎると交感神経の緊張を招きやすいため、長時間にわたって過ごしたり、作業を続けたりすると疲労しやすくなる、ということを知っておくことがポイントです。一方、明度を高くすると、光の反射率が高くなって照度を上げる効果があります。
したがって、部屋の彩色は、眼より低い位置は濁色(低めの彩度)、眼より高い位置は明るい色(高めの明度)にするとよいとされています。