わが国医学界・医療界の忌々しき課題<特論5:我が国の医学と医療の現状> 

 

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わが国医学界・医療界の忌々しき課題

 

特論5<我が国の医学と医療の現状> 

 

続々・勇気ある学会発表、新型コロナワクチン副反応例3発表!

(第32回日本リウマチ学会関東支部学術集会抄録集から)

 

今回は3例目の症例報告から勉強させていただきます。

 

O2-5:SARS-CoV-2ワクチン初回接種後に発症した難治性成人発症Still病(AOSD)の一例

<自治医科大学附属埼玉医療センターリウマチ膠原病科、矢部寛樹ら>

2-5SARS-CoV-2

 

3例目もリウマチ・膠原病・免疫関連疾患です。
 

この症例は、初回COVID-19ワクチン接種後6日後に副反応が発症した症例です。第2例目の演題同様に、ワクチンの銘柄は記載されていません。
 

なお、基礎疾患としてEvans 症候群(自己免疫性溶血性貧血+特発性血小板減少症)、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群など、複数の自己免疫性疾患の合併が記載されています。

 

このような基礎疾患を持つ患者に、新型コロナワクチンを接種することに対して、私個人としては慎重であるべきだと考えております。

 

賛否については、ワクチン接種によるメリットとデメリットをどのように比較衡量すべきかにかかってきます。

 

 

成人発症Still病(AOSD)とは、原因不明の発熱(不明熱)をきたす代表的な重要疾患です。単に成人スティル病とも呼ばれています。

 

この疾患よりさらに知られていないスティル病という病気に類似する病態で、16歳以上の成人に発症するのが、この成人発症Still病(AOSD)です。
 

ただし、これには小児のスティル病が成人になって再発した場合と、成人期に新たに発症した場合の両方があります。ですから、小児スティル病と成人スティル病との境界は明確ではないと考えてもよさそうです。

 

日常診療において、この疾患を診断するのは容易ではありません。

 

診断のためには、除外診断が必須だからです。つまり、感染症(敗血症、伝染性単核症)、悪性腫瘍(悪性リンパ腫)、膠原病などが除外項目として限定列挙され、これらの疾患との鑑別のための精密検査が必要になります。

 

この疾患を疑う鍵としては、1)原因不明の発熱を呈する若者、2)発熱時に出現するサーモンピンク色の皮疹(頸部、体幹、四肢近位部)が重要です。
 

この疾患については成人スティル病分類基準(旧厚生省成人スティル病研究班、1992年、その後一部改訂)によって診断を進めることがコンセンサスになっています。

 

診断の根拠となる項目は〔大項目〕4項目、〔小項目〕4項目からなり、第一段階として〔大項目〕2個以上を確認することが診断の前提条件となります。
 

 

それでは、〔大項目〕を確認していきましょう。

 

❶ 発熱<39℃以上、1週間以上持続;弛張熱>

 

❷ 関節痛(2週間以上持続)

 

❸ 定型的皮疹(体幹・四肢近位部にサーモンピンク皮疹、ケブネル現象)

 

❹ 好中球比率上昇(≧80%)を含む白血球増加(≧10,000/μl)

 


〔大項目〕抄録については4項目のうち3項目についての記載が認められます。

 

文字数のスペースに十分な余裕があるため、❹についての記載が欲しいところです。

 

また❶、❷では症状持続期間の記載があればなお良いと思われました。

 

リウマチ膠原病科の専門医は内科医の中でも皮膚病変の観察所見を明確に記載できることが望ましいですが、皮疹の所見として<紅斑>に留め<サーモンピンク疹>とまでは記載しなかったのは、確定診断のために慎重な態度の表れであるとも感じられますが、皮膚科専門医のコンサルを受けていない可能性も考えられます。

 

ただ、その場合でも、ケブネル現象(健常皮膚に摩擦や日光などの刺激を加えると、病変部と同様の変化を生じる現象)の確認は日常診療でも可能なはずです。

 

この徴候は乾癬、扁平苔癬、扁平疣贅、自家感作性皮膚炎などで陽性となります。
 

以上より、完全ではありませんが、〔大項目〕のうち3項目が該当しているため、次に〔小項目〕を照合してみます。

 

❶ 咽頭痛

 

❷ リンパ節腫脹あるいは脾腫

 

❸ 肝機能異常

 

❹ リウマトイド因子(陰性)、抗核抗体(陰性)

 

 

残念ながら、抄録においては、これらの所見は記載されていません。

 

❶咽頭痛は多くの症例で認められるのため、この所見の記載は欲しいところです。

 
なお、成人スティル病分類基準には含まれていない重要な所見として、

臨床所見としては、心膜炎/心外膜炎や胸膜炎、

血液検査では血中フェリチンの増加が知られています。

 

抄録には、このいずれとも関連する所見も記載されています。

 

<右胸水貯留>は胸膜炎の存在を疑わせます。

血中フェリチン値(1000台)という数字について、基準値は、男性20~250ng/ml,女性10~80ng/ml.です。

 

この報告例は52歳の女性であるため、閉経後の女性では男性の基準値に近くなることを考慮しても250ng/mlを上限と見積もっても1000ng/mlを超える数値は、明らかな著増であることは確かです。

 

以上から、この症例は概ね成人スティル病としての基本的特徴を備えているとみてとれると思います。

 

しかし、リウマチ膠原病免疫疾患の多くは、原因不明とされ、さらに単純とは言い難い分類基準による手続きによって診断されます。

 

このことは、新型コロナワクチン接種による副反応という人為的な原因により発症する病態が、必ずしも従来の病態と厳密に一致するかどうかは疑問の残るところです。

 

言い換えれば、新型コロナワクチン接種による副反応は、未知の病態を形成する可能性がある、ということができるのではないかと考えます。

したがって、一例ごとの詳細な報告がとりわけ重要になってきます。

 

 

近年の医学研究において、エビデンスレベルという言葉が過剰にもてはやされている傾向があります。

 

これは、「エビデンス(科学的根拠、医学的根拠)の信頼性の強弱や指標のランク付け」のことをいいます。

 

たとえば、「その医学研究のエビデンスレベルは高い」とは、「その医学的根拠の信頼性は高い」という意味合いになります。

 

症例報告は、副反応報告は、一例ごとの丁寧な症例報告が極めて重要であるにもかかわらず、残念ながら五段階の最低レベルとして扱われています。

 

個々においては個性的で多様な反応とならざるを得ないこれらの症例は、細分類されて特殊な病態として分類されしまうことが問題になります。

 

その場合、個々の症例は貴重な意味を持つにもかかわらず、個性的であるがゆえに例外的かつ稀な発症との印象が植え付けられてしまいます。

 

したがって細分化された診断名が与えられてしまうと、情報の集積を待って高いエビデンスを獲得するために、誠実で地味な労力を前提としても、途方もない長い時間を要することになります。

 

成人発症スティル病の治療は重症度によって対応の目安が異なります。

 

軽症例:

ステロイド中等量(体重1㎏あたりプレドニゾロン0.5㎎)

 

重症例:

①ステロイド(体重1㎏あたりプレドニゾロン1.0㎎)
    

➁ステロイドパルス療法
   

③メトトレキサート(MTX)
   

④シクロスポリン

 

難治例:

トシリズマブ

 

 

この症例の女性(52歳)の体重の記載はありません。

 

仮に体重を50㎏とするならば、軽症例であっても中等量25㎎を要します。

 

<ステロイド剤の投与量の変化>

発症前:

プレドニゾロンとして4㎎(少量)

⇒エバンズ症候群、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群

 

★初回COVID-19ワクチン接種

12日後、プレドニゾロンとして15㎎(やや少量)

←ワクチンの副反応を想定

ステロイド(デキサメサゾンとして)点滴により症状改善

 

19日後、プレドニゾロンとして30㎎(中等量)

←成人発症スティル病と診断

 

その後3回の入退院後、プレドニゾロンとして20㎎(中等量より減量)

 

その後、症状再燃

←難治性成人発症スティル病と判断

 

 

抄録は最後に<本邦においてもCOVID-19ワクチンにより発症したAOSDの症例報告を散見する>ことに言及しています。

 

成人発症スティル病(AOSD)は、医師国家試験受験経験者であればだれでも認識しているくらいの病気です。

 

抄録が<新規かつまれな病態>と考えられると締め括っているのは、本来、この疾患は原因不明であるとされてきたところ、COVID-19ワクチン接種という原因が存在することによる<新規かつまれな病態>という意味で解釈すべきではないか、と考えます。