外国語といえば、多くの日本人にとって、英語が第一外国語であろうかと思います。
私もご多聞に漏れず、英語が最初でした。
私は一般家庭の育ちであったために、中学校の英語の授業が最初でした。
当時、地方都市では中学・高等学校6年間一貫制の学校は、まだ少なかった頃の話です。英語の先生が教室に入ってくるなり英語であいさつし、クラスメート全員が英語で応答したのにはカルチャーショックを受けたのでした。
どのようにしたら、クラスメートから取り残されないで済むか、どう勉強を進めて行ったら良いのか皆目見当がつきませんでした。
しかし、幸いなことに英語のテキストは薄くて文字が少なく、絵が豊富でした。しかも、ソノシートというビニール製のレコードが別売されていたので、これを活用して物まね練習を始めることを思いつきました。
当時、すでに流行りつつあったカセットテープに較べて便利だったのは、巻き戻しの時間の節約です。
繰り返して聴いて勉強するうえで、巻き戻し時間はストレスフルですが、レコードプレーヤーでは、針のついたアームをちょいと移動させる一瞬だけで済むのが強みだったと今でも思います。
そうして、結局、薄っぺらな英語の教科書の本文を全部暗唱する訓練を取り入れました。まるで英語の歌を覚えるようなノリでどんどん覚えていったのでした。
この頃、言葉というのは音楽なのだ、という悟りを得ることができました。外国語と外国音楽はその頃から一組のものとして認識するようになっていったように思います。
テキストの英文を一字一句間違えずに覚えたかどうかの確認のためには、ノートに書きだしてテキストと照らし合わせてみるのが一番でした。こうして、中学2年生の終わり頃までには、中学英語の教科書の本文は丸暗記できていました。
高校受験から免れていたためか、中学生時代はいろんな本を読むことができました。
そして、高校生になると、選択制でドイツ語の勉強をする機会がありました。
このとき楽しんだのがドイツ・リート(ドイツの芸術歌曲)でした。
音源はカセットテープでした。その頃になると、英語以上にドイツ語の歯切れよさを心地よく感じたものでした。
私が最初に覚えたドイツリートは、ベートーベンの「Ich liebe dich(あなたを愛す)」でした。
その後、医学生になって以降は専ら英語の修行でしたが、これは仕事柄、現在までも続けています。
フランス語は医学生の頃から、イタリア語は開業医となってからのお付き合いですが、その間、スペイン語や中国語の勉強をしたこともあります。
このくらいで打ち止めにしておくのが常識人というものなのでしょうが、還暦を越えてロシア音楽に興味を覚え、何と昨年になって、ロシア声楽の大家である、現在の師匠、岸本力先生に入門したのでした。
ロシア語そのものについては、毎年4月や10月になるとNHKのラジオやテレビのテキストを手にするのですが、1か月も持たず、そのつど挫折、ということを繰り返しておりました。
そこで、これは原点に戻って、「言葉は音楽だ、音楽なのだから歌で覚えてみよう!」というヤンチャな動機でした。
武蔵野音大の別科を受験する頃には、何とか2曲程度のロシア歌曲が歌えるようになったのですが、甚だお粗末なレベルであったので、日本歌曲とイタリア歌曲の2曲で受験したのでした。
晴れて合格して、4月から毎週の個人レッスンを受けることにより、前期の終わりころには合計6曲、夏休みを経て11月の大学院受験までに合計8曲のロシア声楽曲と1曲のオペラアリアを人前(とはいっても、音大の試験官の先生方)で披露するまでになったのは奇跡に近いと思います。
提出曲の6曲すべてをロシア声楽曲に統一することに決めたのは、しかしながら、岸本先生ではなく、私自身なのでした。
物事をしっかり学び取るためには、教えてくださる先生ご自身にその気になっていただくことに越したことはない、と考えたからです。そして、それは大正解だったように思います。
毎回、とても情熱的なレッスンを受けることができました。そして、自分自身が先生以上に熱心でなくてはならない、という思いがこみ上げてくるものなのだからです。
岸本先生は声楽実技試験当日の直前までサポートしてくださいました。ロシアの歌曲やアリアを歌うためには、岸本先生独自の発声練習が大きく効いて来ることが分かっていましたから、とても有難いことでした。
合格発表の翌日には、正式の合格通知が届きましたので、ここに掲載いたします。
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