故郷(茨城)探訪

 

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常陸國住人 

飯嶋正広

 

常陸国の万葉集歌を味わう(その3)

 

高橋虫麻呂の歌は、万葉集に36首もあります。虫麻呂の歌には、鳥を歌った歌や、地方の伝説を歌った歌が多いです。

 

筑波山を詠んだ歌もあります。

 

虫麻呂のこの歌のタイトルは、<筑波山にのぼらざりしことを惜しむ歌>となっています。しかし、折口信夫の著書「万葉集」によると、ホトトギスを聞きたかった虫麻呂の負け惜しみの歌であるとのことです。

 

自分たちは(筑波山に登ったので)ホトトギスの声を聞くことができたと自慢する知人たちに対して、それは虚言であって、もし自分が筑波山に登ってもホトトギスを聞くことはできなかったに違いない、と言い放ったもののようです。

 

無理にでも、そのように決め込んでおかないと悔やまれてならない、ということなのかもしれません。

 

いささか頑固で負け惜しみが強く、かつ、そんな自分を素直にさらけだすことのできる虫麻呂のお人柄がしのばれてきます。ひょっとすると、実際にホトトギスの声を聴くことができなかった知人たちが、わざと虫麻呂を悔しがらせようとからかったものとも考えられそうです。

 

第8巻 1497番歌

 

作者:

高橋虫麻呂 題詞:惜不登筑波山歌一首

 

左註:

(右一首高橋連蟲麻呂之歌中出)

 

原文:

筑波根尓 吾行利世波 霍公鳥 山妣兒令響 鳴麻志也其

 

訓読:

筑波嶺に我が行けりせば霍公鳥山彦響め鳴かましやそれ

 

かな:

つくはねに わがゆけりせば ほととぎす やまびことよめなかましやそれ

 

現代訳(飯嶋訳):

今回は私は筑波山に登れなかったけれど、もし登って行ったとしたら ホトトギスよ そのときに限っては山彦を木霊させるように盛大に鳴いておくれ

 

英訳(飯嶋訳):

I couldn't climb Mount Tsukuba this time,
but if I did, you cuckoo,
please make a grand chirp
so that we can hear the spiritual echo
of the mountain.

 

 

ほととぎすは、霍公鳥と記載されていますが、その別名が子規です。万葉集を絶賛した正岡子規も、おそらく、ホトトギスを愛し、そしてこの歌も好んでいたことでしょう。

 

子規は古今集を酷評したことでも知られていますが、その是非はともかく、そうした俳人子規の目には虫麻呂という歌人がどのように映っていたのでしょうか?

 

また、夏目漱石の漱石という筆名の由来が物語る作家の負け惜しみの強さ、についても、虫麻呂のそれに匹敵する代物だったかも知れない、などと勝手な想いを巡らせています。