『嘱託産業医』の相談箱

 

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臨床産業医オフィス


<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>

 

産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者

 

飯嶋正広

 

 

<先月から、当面の間、職場の健康診断をテーマとして、産業医紹介エージェント企業各社が提供しているコラムを材料として採りあげ、私なりにコメントを加えています。>

 

産業医紹介サービス企業各社が提供する<健康診断>コラム

 

No2.ファースト・コール提供資料から(その2)

 

長時間労働がもたらすリスクと企業における解決策

 

2022-05-27

長時間労働が起こる原因

 

厚生労働省の『令和2年版 過労死等防止対策白書』によると、長時間労働が必要になる理由のうち、「業務量が多い」「仕事の繁閑の差が大きい」などが3〜4割を占めています。これらは、従業員数や作業効率を考慮せずに、無理な業務量を割り振ったり、短納期のスケジュールを設定したりすることに起因すると考えられます。

 

また、現在、少子高齢化によって生産年齢人口が減少しており、企業の人手不足感が高まっています。現場が人手不足になることで従業員一人あたりの業務量が増えることから、労働時間の増加につながります。

 

人手不足のなかで生産性を高めていくには、いかに効率的に業務を行えるかが重要です。しかし、紙媒体の書類をベースとしたやり取りや物理的な環境に依存する労働環境では、業務効率が悪くなり、結果的に労働時間の増加につながる可能性があります。

 

これらを踏まえると、残業時間を把握して長時間労働の把握や業務体制の見直しを行い、業務量やスケジュールを調整することが必要といえます。

 

出典:

内閣府『令和元年度 年次経済財政報告』/中小企業庁『第2章 生産性向上の鍵となる業務プロセスの見直し』/厚生労働省『令和2年版 過労死等防止対策白書』

長時間労働がもたらすリスクと自殺者の状況

 

 

長時間労働は、労働負荷が大きくなるだけではなく、次のような理由から従業員の心身の疲労につながり、健康障害や事故などを引き起こすリスクがあります。

 

▼心身の疲労につながる要因として考えられること

 

睡眠時間の不足

家庭生活や余暇時間の不足

仕事に対する精神的負担

 

実際に、厚生労働省の『平成28年版過労死等防止対策白書』では、残業時間が長いほど疲労の蓄積度とストレスが高いと判断される人が多いことが分かっています。

 

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画像引用元:厚生労働省『平成28年版過労死等防止対策白書』

 

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画像引用元:厚生労働省『平成28年版過労死等防止対策白書』

 

 

長時間労働によって睡眠不足や疲労の蓄積が起これば、業務中の事故・ケガを引き起こすおそれがあります。また、過重労働は脳・心臓疾患、精神障害などの重大な病気や過労死につながるリスクもあります。

 

 

産業医からのコメント

 

長時間労働が必要になる理由のうち、「業務量が多い」「仕事の繁閑の差が大きい」などが3〜4割を占めていると、厚生労働省の『令和2年版 過労死等防止対策白書』は報告しています。これは、実のところ、私たちのような医療機関も例外ではありません。

 

そこで、残業時間を把握して長時間労働の把握や業務体制の見直しを行い、業務量やスケジュールを調整することが必要であることが示唆されています。

 

平成元年7月から31年4月までのおよそ30年間にわたり、外来医療機関としての高円寺南診療所(当時)は、フリー・アクセスを基調として、予約診療は極力制限してきましたが、まさに「業務量が多い」、そして「仕事の繁閑の差が大きい」という二重の要因で、大きな負荷がかかり、ややもすれば重大な事故に繋がり兼ねないリスクの増大を意識せざるを得ませんでした。

 

こうした背景もあって、令和元年5月の改元とともに、医療機関名称を「杉並国際クリニック」に改称し、医療コンセプトを地域医療機関としてではなく、広域の専門医療機関として大胆に舵を切りました。そして、次第に、フリーアクセス制から、原則予約制とし、さらに、会員制に移行しました。

 

このような大胆なシステム改革に伴い、それまで、予測不能だった日常業務が、予測可能となり、診療のための事前の準備をすることができるようになりました。つまり、計画的・効率的な医療サービスを提供することによって、毎回の診療内容の質的向上を図ることに成功しました。

 

幸いにも、このような体制が予め定着していたため、新型コロナパンデミックに対しても無事に診療業務を継続することができたということができます。

 

医療の質の向上の礎は、何といっても相互の信頼関係の強化・促進です。
  

それによって、「業務量が多い」「仕事の繁閑の差が大きい」と言った長時間労働の二大要因が発展的に解消され、さらに、時間的、精神的な余裕を生み出すこともできました。それを、新たな創造的な取り組みに充当しているところです。
 

このような経験を医師自らが経験することによって、嘱託産業業務に対しる説得力のある、かつ効果的なサポートが可能になってきているのを実感しているところです。