最新の薬物療法

 

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認定内科医、認定痛風医

アレルギー専門医、リウマチ専門医、漢方専門医

 

飯嶋正広

 

総合診療が必要となってきた高齢者糖尿病

 

高齢者糖尿病の増加は、人口の高齢化に伴う社会問題になってきています。

それは、加齢に伴い次第にセルフケアが困難になる傾向があるからです。

 

高齢者糖尿病は、とくに、認知症と、フレイルを来しやすく、その他、転倒、うつ、低栄養等の老年症候群を約2倍来しやすくなります。

 

フレイルとは、もともと「か弱さ」や「こわれやすさ」を意味する言葉です。そして、フレイル高齢者とは「こわれやすい高齢者」、すなわち健康寿命を失いやすい高齢者であり、健康を保つための配慮が今まで以上に必要な人々です。

 

こわれやすいものは大切に扱う必要があり、通常の対応とは区別しなければなりません。 フレイル高齢者には一層の配慮が必要です。

 

また認知症に関しては、糖尿病の方はそうでない方と比べると、アルツハイマー型認知症に約1.5倍なりやすく、脳血管性認知症に約2.5倍なりやすいと報告されています。また、糖尿病治療の副作用で重症な低血糖が起きると、認知症を引き起こすリスクが高くなると言われています。

 

また、認知症とフレイルに共通の危険因子は、高血糖の他に、低血糖、大血管障害、低栄養、身体活動量低下が挙げられています。

 

人は誰でもが等しく年を取っていきますが、それでも加齢変化の個人差は大きいです。とりわけ加齢に伴って病気または心や体の状態の問題が複雑に関連しあうことにより生じる、高齢者に多くみられる症状のことを老年症候群といいます。

 

たとえば、ふらつく、つまずいてこけそうになる、だるい、眠れない、やせてくるなどの症状がそうですが、最初はたいした問題ではないけれど、だんだん生活の質や活動度が落ちてしまいます。

 

いずれにしても認知機能が低下すると糖尿病薬の内服や注射、食事や運動の管理がうまくできなくなり、糖尿病の悪化につながりやすいので問題になっています。

 

そのため、対策としては、栄養、運動、社会参加等の共通の対策を講じつつ、適切な血糖管理をはじめ、血管性危険因子の治療を継続していくことが必要です。

 

・食事療法では、目標体重を用いた適正なエネルギー(カロリー)量や充分な蛋白質やビタミン類を摂取できるようにします。


・運動療法は多要素の運動を週2回以上行うことが勧められています。

要素の運動とは、有酸素運動を基本としつつもレジスタンス(抵抗)運動その他を含む運動を意味します。

 

 

杉並国際クリニックでは、こうした目的に対して理想的な生涯エクササイズである水氣道®を週に4回(月・火・金・土)実践指導しています。

 

水氣道®では、季節ごと(3カ月に1回)のフィットネスチェック体組成・体力評価票(2022改訂版)や定期健康診断等とともに認知機能、フレイル・サルコペニア、ADL,心理状態、薬剤、社会状況を総合的に評価しています。

 

体組成

 

 

・薬物療法では、低血糖、転倒等の有害事象のリスクが小さい治療を選択します。

高齢者糖尿病では、腎機能低下が大きな問題になるため、推定糸球体濾過率(eGFR)などを指標として腎機能を定期的に評価し、薬物選択と用量調節を行っています。
  

 

重症低血糖のリスク評価も不可欠であり、低血糖やシックデイの対処に関する教育を患者だけでなく介護者にも行います。

 

シックディとは糖尿病患者が調子を崩す日のことです。

 

具体的には糖尿病の治療中に発熱、下痢、嘔吐をきたし、または食欲不振のため食事が取れない状況のことです。このような場合、血糖コントロールが良好な患者でも糖尿病性昏睡に陥る可能性があるため、十分な注意が必要です。高齢者の場合、意識障害が認知症の進行と思われることもあるため注意が必要になります。
  

高齢者糖尿病の血糖管理目標は、認知機能、ADL等の評価に基づいたカテゴリー分類と年齢、重症低血糖のリスクが危惧される薬剤使用の有無等を考慮して設定します。
  

血糖コントロール目標のカテゴリー分類を簡易に行なうために、8つの質問票からなるDASC-8(日本老年医学会2018)を活用することができます。
  

また、服薬アドヒアランス低下に対する対策として、服薬内容の単純化を検討します。 服薬回数が少なくて済む薬剤への変更や1包化、配合剤の使用、インスリンの脱強化作用(2型糖尿病の場合)など可能な方法を検討します。