『嘱託産業医』の相談箱

 

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臨床産業医オフィス

<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>

産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者

 

飯嶋正広

 

<先月から、当面の間、職場の健康診断をテーマとして、産業医紹介エージェント企業各社が提供しているコラムを材料として採りあげ、私なりにコメントを加えています。>

 

産業医紹介サービス企業各社が提供する<健康診断>コラム

 

No2.ファースト・コール提供資料から(その1)

 

長時間労働がもたらすリスクと企業における解決策

2022-05-27

長時間労働の是正は、働き方改革のなかでも喫緊の課題です。企業においても長時間労働を防ぐために、働き方の見直しが求められています。

そうしたなか、「自社における長時間労働の課題を把握できていない」「具体的な解決策が分からない」という担当者の方もいるのではないでしょうか。

この記事では、長時間労働に関する規制をはじめ、長時間労働が起こる原因やリスク、その解決策について解説します。

 

出典:厚生労働省『長時間労働削減に向けた取組』

 

 

目次
1. 1.長時間労働に関する規制
1. 1.1.法定労働時間
2. 1.2.法改正による時間外労働の上限規制
2. 2.長時間労働が起こる原因
3. 3.長時間労働がもたらすリスクと自殺者の状況
1. 3.1.疾患の発症や悪化への不安
4. 4.勤務問題を原因・動機とする自殺者の状況
5. 5.企業における長時間労働の解決策
1. 5.1.①従業員の労働時間を管理する
2. 5.2.②業務方法・取引慣行を見直す
6. 6.まとめ

 

 

長時間労働に関する規制

 

長時間労働に関する規制について、法定労働時間と法改正後の規制に分けて解説します。

 

 

法定労働時間

 

『労働基準法』第36条では、労働時間と時間外労働の上限規制が設けられています。

また、厚生労働省は、法律で定められた労働時間(法定労働時間)を超える労働に対して、“時間外労働=残業”としています。法令で定められている法定労働時間・休日は以下のとおりです。

 

▼法定労働時間・休日

 

法定労働時間:1日8時間および1週40時間

 

休日:毎週少なくとも1日、または4週4回以上

 

法定労働時間を超えて働かせる場合や法定休日に働かせる場合には、『労働基準法』第36条に基づく労使協定(36協定)の締結と所轄労働基準監督署長への届出が必要です。

 

出典:e-Gov法令検索『労働基準法』/厚生労働省『時間外労働の上限規制 わかりやすい解説』『働き方改革関連法のあらまし(改正労働基準法編)』『時間外労働の上限規制』

 

 

 

法改正による時間外労働の上限規制

 

2019年4月の改正労働基準法(働き方改革関連法)の施行(※)によって、時間外労働の上限規制が設けられました。

 

法改正前は、長時間労働に関する法律上の上限が定められていなかったことから、一定の時間を超えて労働を行っている企業に対して行政指導が行われるだけにとどまっていました。

 

しかし、法改正により、時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間となり、臨時的な特別な事情を除いて、これらの上限を超えて働かせることはできなくなりました。

 

 

改正前と改正後を比較すると、以下のようになります。

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画像引用元:厚生労働省『時間外労働の上限規制 わかりやすい解説』

 

 

 

さらに、臨時的な特別な事情があり、労使の合意がある場合でも、以下の項目を守る必要があります。

 

時間外労働が年720時間以内

 

時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満

 

複数月の平均が80時間以内(2ヶ月平均・3ヶ月平均・4ヶ月平均・5ヶ月平均・6ヶ月平均)

 

月45時間を超えるのは、年6ヶ月が限度

 

※大企業:2019年4月〜/中小企業:2020年4月〜

 

出典:厚生労働省『時間外労働の上限規制』『働き方改革関連法のあらまし(改正労働基準法編)』『時間外労働の上限規制 わかりやすい解説』『長時間労働削減に向けた取組』/e-Gov法令検索『労働基準法』

 

 

産業医からのコメント

私が現在担当している企業様は、主に長時間労働が問題になる企業と、主に高ストレス・メンタル管理が問題になる企業、それから、いずれも大きな問題がみられないが業務リスクの高い企業に3分類されます。

 

とりわけ長時間労働については、甚だしい場合は180時間超というケースもありましたが、衛生委員会が立ち上がり、毎月定例のミーティングを重ねることにより、徐々に改善していくようです。

 

そうした成功のカギは1)衛生委員会組織の構築と、2)議長、衛生管理者の積極的な関与、3)職員全体に対する周知徹底と、そのためのキーパースンとしての役割が期待される労働側委員の出席と積極的な意見交換です。

 

重要な法令として、2019年4月の改正労働基準法は、働き方改革関連法(時間外労働の上限規制についての改正)の目玉であり、中小企業であっても、2020年4月から施行されています。しかし、実際には、新型コロナ感染症対策等の影響もあって、企業内で十分に認識されているには至らず、実効が阻まれがちであるのが現状です。

 

労使の合意がある場合は、上限が緩和されがちでしたが、改正法では、これをより厳正に規制しています。
 

私は企業の現場の実態に応じて、柔軟に対応しています。

 

とくに多人数の長時間労働者が存在しているような企業の場合には、まず、時間外労働が月100時間以上の労働者に対して、時間数の多い方から優先的に産業医面談を実施させていただくようにしています。該当者全員に面談を実施するのが理想ですが、なかなかそのように行かないのが現実です。


そのため、産業医面談のウェイティングリストに抽出された労働者が、実際の面談に至る前に、時間外労働が月100時間未満を2カ月以上達成できた場合は、優先順位を遅らせ、さらなる自助努力と企業による支援を期待します。興味深いことに、この方式を地道に継続することによって、100時間超の時間外労働は徐々に減少していくことが多いです。

 

これとは逆に、産業医自身が油断しがちなのは、時間外労働時間が月45時間を超える程度の場合です。月45時間とはいえ、このラインをわずかでも超えるのは、年6ヶ月が限度とされています。今後は、労働者が個別に月45時間超えの月数を毎月カウントしてリスト化しいくシステムを企業側に提案したいと考えているところです。