『水氣道』週報

 

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声楽の理論と実践から学ぶNo.7


水氣道の稽古と声楽のレッスンの共通点(続・続・続々)

 

歌をうたうという芸術の神髄と水氣道(その3)

 

声楽というと、腹式呼吸が代名詞代わりですが、胸式呼吸の要素を排除するものではありません。むしろ腹式呼吸と胸式呼吸が統一的に連動しないとオペラのような大曲を歌いきることはとうてい叶いません。
 

水氣道も、これと全く同じです。腹式呼吸とか胸式呼吸とかを厳密に区別する健康上の実益が乏しいからです。そして、水氣道では、ごく自然な呼吸に委ねながら稽古を始めていくことになります。なぜならば、呼吸というものは意識しすぎると、リズムが崩れ、非効率的な動きになりかねないからです。
 

水位にもよりますが、水面が臍のあたりに達すると、腹腔に大きな水圧がかかってくるため、意識せずして腹式呼吸のパターンになります。また水位が乳首あたりの深さになると、腹腔ばかりでなく胸腔にもかなり大きな水圧の負荷がかかるため、おのずと腹式呼吸だけでなく胸式呼吸が働きだし、両者は一体となって、水中運動の継続を可能としてくれます。水圧という、自然で安全な加圧メカニズムによる有酸素運動が展開していくことになります。

 

胸式呼吸は肋骨の動きを主体とする呼吸法で、吸気時に働く筋肉は外肋間筋と吸気補助筋、呼気に働く筋肉は内肋間筋であります。 吸気時には外肋間筋と複数の吸気補助筋が強く収縮して、肋骨を大きく前上方に引き上げ、吸気を助けます。 呼気時には内肋間筋が収縮して胸郭を縮めて、呼気を助けます。

 

このとき、水圧も胸郭を縮める作用が働くため、呼気筋の働きを助け、陸上での呼吸よりも多くの呼気量を確保することができることになります。呼気時の呼吸補助筋としては内肋間筋と腹筋があります。胸腔よりも腹腔はさらに大きな水圧を受けているため、主たる補助呼気筋である腹筋が大いに鍛えられることになることは理解し易いのではないかと思います。

 

主な呼吸筋は、横隔膜と肋間筋です。横隔膜は胸腔の下端にあるドーム状の骨格筋で脊髄神経である頚神経叢か出る横隔神経に支配されています。横隔膜が収縮すると胸郭が広がり、胸腔内圧が低下するため吸気が行えます。肋間筋は肋間にある3層の薄い筋で内肋間筋・外肋間筋・最内肋間筋からなっています。外肋間筋は吸気時、内肋間筋および最内肋間筋は呼気時に、それぞれ肋間神経の働きで収縮します。

 

 

呼吸筋の働き
 

横隔膜も肋間筋も骨格筋で運動神経の支配を受けて随意的に収縮させられる随意筋です。そのため呼吸を一時的に止めたり、大きくしたりすることができます。
 

内肋間筋が収縮して肋骨が引き下げられると、胸郭が狭まり容積が減るため胸腔内圧は上がり、それに伴い呼気が発生します。これに対して、外肋間筋が収縮して肋骨が引き上げられると、胸郭が広がり容積が増えるため胸腔内圧が下がり、それに伴い吸気が発生します。ただし、安静呼吸では内肋間筋が収縮しないまま、外肋間筋や横隔膜が弛緩するだけで呼気が発生します。

 

外肋間筋の働きを補助する呼吸補助筋には、斜角筋、胸鎖乳突筋、肋骨挙筋、大胸筋、小胸筋、などがあり、これが吸気時に収縮して肋骨をもちあげる働きを補助します。

 

また、脊柱起立筋群により脊柱を後方に反らせると、肋骨の挙上を助けます。水中で前進するためには、バランスの取れた正しい姿勢でないと動けない仕組みになっているため、特段の意識や注意を払い続けなくても正しく美しい姿勢を維持し易くなります。 正しく美しい姿勢とは、呼吸するうえで妨げにならない呼吸であり、さらにいえば、効率の良い呼吸を助け支え継続し易くしてくれる姿勢のことを意味するのです。


こうして、正しい姿勢と正しい呼吸とが稽古を通して自然に一体化していくのが水氣道の素晴らしさの一つであることを、是非、心に留めておいてください。