武蔵野音大別科生の手記

 

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聖楽院主宰 テノール 

飯嶋正広

 

 

第5回レッスン(5月10日)から第8回レッスン(5月31日)まで

 

5月10日(第5回)のレッスンは、いずれもチャイコフスキーの歌曲

 

#1.<Oтчего?...(何故?)

 慣れないロシア語の発音に伴う活舌の悪さが次第に修正され、表現をのせてレガートに歌えるようになってきました。一応の基礎ができたため、毎週の稽古はいったん終結。今後は、演奏の機会などの必要に応じて、その際におさらいすることになります。

 

 

#2.<Cредь шумного бала.(騒がしい舞踏会の中で...)

ロシア語のアクセントと拍節感がそのまま楽曲になっているように感じられてきました。まだわずかですが、馴染みになってきたロシア語がちらほら見出され、その語感と意味、イメージが音楽と結びついていくようになることを目指したいところです。

 

 

#3.<Cеренада дон-жуана(ドン・ファンのセレナード)

この曲は、大局であり、私にとってはオペラ・アリアに匹敵するといっても過言ではありません。しかしながら、芸術歌曲であるため、丁寧にレガートに歌わなければならない作品です。焦らずコツコツ、じっくりと鍛錬していくしかありません。

5月17日(第6回)から3回連続で同じ稽古プログラムで進んでいます。

 

<Oтчего?...(何故?)>は上がりになったので、発声練習が済んだら、歌曲は2曲、残りの時間でアリア、という稽古内容が続いています。

 

 

#1.歌曲<Cредь шумного бала.(騒がしい舞踏会の中で...)

 

全体を5部に分け、1部ごとに場面を構築していくイメージで稽古をしています。それぞれの場面の歌詞のキーワードを大切に扱い、心身に馴染んできたら、その単語を含んだフレーズ全体を構築する、とう方向性で試みています。

 

 

#2.歌曲<Cеренада дон-жуана(ドン・ファンのセレナード)

 

岸本先生も仰っていましたが、チャイコフスキーの歌曲の中では特異なキャラクターをもつ大曲です。もちろんロシア語の歌曲ですが、「セビリャからグラナダまで」という歌詞にも現れているように、すこぶる南欧的な雰囲気の作品です。不慣れなロシア語を、幾分なりとも馴染んできたイタリア歌曲のように歌う感覚を身につけるには格好の作品かも知れません。

 

はじめて、この曲をいただいたときには、果たして自分のレパートリーの一つにできるかどうか定かではありませんでした。私のこうした印象もあながち見当違いではなかったことが判明したのは、岸本先生が私のためにこの曲を加えてくださったときに、果たして難しすぎるのではないか、と心配してくださっていた、とのことをうかがったからです。

 

それもそのはず。この作品は岸本先生にとっても記念となる曲であって、日本音楽コンクールとチャイコフスキーコンクールのファイナルの演奏曲で、これで優勝されたとのエピソードつきだからです。そして、一言「この曲は、コンクール向けの曲です」とのこと、熱のこもったご指導に感謝申し上げています。

 

 

#3. オペラ<「エフゲニー・オネーギン」第2幕から、「レンスキーのアリア(青春は遠く過ぎ去り)」
   

私にとって、最初のロシア語の作品です。この曲との出会いは、すでに5年以上を経ています。しかし、まったく歯が立たず、放置したまま、長いブランクがありましたが、岸本先生に師事することになってから、俄然、目標が明確になって、再チャレンジ中です。
   

しかし、私の歌唱法はどうしても余分な力が抜けないため、この曲本来の芸術的味わいを表現できるようになるためには、相当の稽古を要する見込みです。岸本先生の分析では、私がこの曲が「オペラのアリアであることを過剰に意識しすぎるために、レガートに歌うことが難しくなっている」ということですが、その通りでした。歌曲のように静かに丁寧に歌えるようにならなければなりません。
   

それから、「歌いだしの声が強すぎるので、たとえフォルテと表示されていても、ピアノから歌い始めるとよい」というアドバイスも大いに役立てて、稽古の際にはアタッコ(attacco:曲の出だし)を工夫したいたいと考えています。また、「息の上に声を載せる」(sul fiato)ことの大切さを教えていただきました。私の歌い方の悪癖としては、アタッコの仕方とも深い関係があることを薄々ながら気づいてはいました。私は「息と声を同時に発する」(con fiato)タイプであるために、第一声から硬い声ではじまるため、これがレガートで美しいフレーズの完成を阻んでいたということを明確に反省しなければなりません。

 

岸本先生のご指導は、専門用語を多用せずに教えてくださるので、とても親切です。むしろ、私自身がこれまで学んできた音楽用語と照らし合わせつつ、岸本先生にご確認いただくと、「専門的にはそのように言います」という風に保証してくださることもしばしばです。
    

「どんなに優れた原石でも磨かなければ本物にはなりません。声も同じです。ですから、これからしっかりと声に磨きをかけていきましょう。」との励ましの言葉をいただきました。