『嘱託産業医』の相談箱

 

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臨床産業医オフィス

 

<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>

 

産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者

 

飯嶋正広

 

 

産業医の企業の健康経営参加について(続々編)

 

今月の4月3日の記事のタイトルは「私が産業医活動を続けているわけ」で、書き忘れていたことが一つありました。

それは、私自身の健康維持のため、ということでした。毎日のほとんどをクリニックでの外来診療で過ごすとなると、必然的に「座りっぱなし」の時間が長くなるという問題が発生します。この「座りっぱなし」のライフスタイルが健康リスクを大いに高めることが注目されています。

 

「週5日間、1日3時間立つ時間を確保すれば、年に10回フルマラソンを走るのと同じくらいのカロリー消費量を得られる」と、英ユニヴァーシティ カレッジ ロンドンでスポーツ医学を専門とするマイク ルースモア氏は主張しています。こうしたライフスタイルを打破するために、「水氣道」や「聖楽院」の活動を継続することも役立っていますが、医師としての業務に直結する産業医活動は、クリニックを離れて企業を訪問することになるために、私自身が「座りっぱなし」となりがちな日常業務から解放されることに役立っています。

 

 

6.健康的な働き方をサポートする


オフィスづくりの取り組み方

オフィスでは、健康への影響の高い空気環境や騒音、照度などにはガイドラインが設けられています。(事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について)事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令(令和3年厚生労働省令第188号。以下「改正省令」という。)が令和3年12月1日に公布され、一部の規定を除き、同日から施行されました。

 

また、労働基準法第34条で、労働時間が 6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分 8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩を与えなければならない、と定めています。この規則も、『座りっぱなし』の解放のためにも積極的に役立てることができると思います。

 

こうした規則はデスクワーク中心の職場の増加と共に整備が進んできています。ここで、デスクワークとは、机に向かって作業をこなす仕事のことです。 事務仕事を意味して使用される場合が多く、特にパソコンで行う業務はデスクワークに該当します。

 

ほかにも、プログラマーやエンジニア、グラフィックデザイナー、ライターなど、机に向かってクリエイティブな作業をしている職種もデスクワークに含まれる仕事です。

しかし、身体の不調の原因のひとつと考えられる「座り過ぎ」については、近年ようやく関心が高まりつつあります。

とりわけ日本人は世界一の「座り過ぎ」大国という、望ましくない調査結果もあります。2012年にシドニー大学が実施した調査によると、世界20カ国の総坐位時間の平均が300分(5時間)/日、日本は420分(7時間)/日と平均より2時間、1.4倍も長いという結果でした。

そして日本は、20カ国中で座っている時間が、サウジアラビアと並んで一番長い国であることが示されました。問題になるのは、長時間座り続けることで血流や筋肉の代謝が低下し、心筋梗塞、脳血管疾患、肥満、糖尿病、がん、認知症など健康に害を及ぼす危険性が指摘されていることです。

 

1日に座っている時間が4時間未満の成人と比べ、1日に11時間以上座っている人は死亡リスクが40%も高まるといわれています。

 

WHO(世界保健機関)の発表では、喫煙は世界で500万人以上、飲酒は300万人以上の死因といわれています。2011年の報告では、座り過ぎも「世界で年間200万人の死因になる」という発表されました。いまや“座りすぎ”も喫煙や飲酒と同じように健康リスクを脅かす問題の一つであると認識する必要があるようです。

 

なお長時間机の上で作業をした後に肩や首、腰などが痛み、どっと疲れを感じるのは、長時間体を動かさなかったことで筋肉が縮小してしまうからといわれています。 筋肉の凝りや強い痛みが生じて体を動かしにくくなり、疲労感が倍増します。 また血液の流れが滞るのも疲労蓄積の一因でしょう。

 

1日の座位時間が4時間未満の人に比べ、座位時間が長くなるにしたがってリスクが高まるという調査があります。本来、人の身体は30分以上「不動」の状態に耐えられるつくりをしていません。 30分以上座った状態が続くと、血流が悪くなったり、血栓ができたり、不快に感じたりします。 そのため、30分以上同じ姿勢を続けないことが大切です。

 

そのほか、座り過ぎのために、ふくらはぎを動かす機会が減ることによる健康リスクが指摘されています。

 

ここからは、健康的な働き方をサポートするオフィスづくりについてご紹介します。

 

●回遊しながら自ら選べる多様な「場」を

オフィスの中に、従来の「執務デスク+会議室」という環境ではなく、業務や気分に応じて選べる多様な場を用意します。従業員は自律的に業務や気分に適した場を自ら選ぶことで、オフィス内を自由に回遊します。

 

●姿勢の自由度が担保されるようにひとつの姿勢に固定しないような選択肢があるとよいでしょう。

自ら選んだ場で、立ったり座ったり、チョイ掛けしたり、くつろいだ姿勢をとったりと、いろいろな姿勢をとることができる自由度を拡張します。また、様々な姿勢が意識的に取れるよう、高さや天板の角度が変えられるデスク、背もたれの角度が変えられるソファやハイカウンターなどの選択も有用でしょう。

 

●無意識に身体を動かすことができているように

同じ姿勢が長く続くことがないよう、集中作業しているときにも、無意識のうちに身体を動かすことができる事務機器や家具を選びます。

 

たとえば、集中したデスクワークにおいても、身体の動きを妨げずに前傾や後傾、左右の動きや身体のひねりに追随するグライディングチェアなら無意識に座っているだけで、筋肉が動くことをサポートし、座りながら運動できます。

 

 

7.まとめ

健康経営は働き方改革の推進とともに注目されており、将来的な収益性の向上に繋がる計画的な投資です。政府が取り組む健康経営制度に認定されることで、さらに効果を高めることもできます。とはいっても、健康経営の基本は、各人の自主的な自己健康経営がベースになりそうです。