『嘱託産業医』の相談箱

 

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臨床産業医オフィス

 

<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>

 

産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者

 

飯嶋正広

 

 

産業医の企業の健康経営参加について

産業医が係る官庁は、法務省や厚生労働省(労働基準監督署など)ばかりでなく、最近では経済産業省なども重要になってきています。

 

1.健康経営とは

●健康経営とは

健康経営は、会社の経営と従業員の健康管理を統合し、従業員の健康が会社の業績向上につながるという考え方です。アメリカの臨床心理学者ロバート・ローゼン博士が「ヘルシー・カンパニー―人的資源の活用とストレス管理」(1992年)で提唱した理論です。経済産業省は、健康経営について「健康経営とは、従業員の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」と定義しています。
経済産業省は健康経営について「企業が経営理念に基づき、従業員の健康保持・増進に取り組むことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上へ繋がることが期待される」としています。

 

このように健康経営の推進により「従業員が肉体的にも精神的にも健康でなければ、会社の発展も不健康になる」という考えが浸透しつつあります。これまで、多くの企業経営は業績優先であり、従業員の健康が会社経営に欠かせない要素という認識は少数派でした。しかし、従業員の健康から始まる好循環を起こすためにも、健康経営の考えに基づいた具体的な取り組みが求められているのです。今後の日本経済の健全な維持・発展のためにも経営方針を巡る優先順位や価値観の大転換を迫られているといえるでしょう。

 

 

●健康経営が注目される背景

健康経営が注目される背景には、いくつかの要因があります。顕著なのは、労働人口の減少です。

 

人口減少の直接の原因となる少子高齢化による医療費は増大の一途をたどり、国の予算や会社の経費を圧迫しています。このような状況下では、労働力確保のために従業員の雇用延長等を積極的に実施する必要性が高まります。しかしながら、従業員の健康状態が悪化すると企業の生産性を低下させることになり、離職や優秀な人材の確保にも悪い影響を及ぼすというリスクを負わねばなりません。このような背景から、従業員の心身ストレス軽減など労働災害が減少させて疾病による欠勤なども減少し、業務効率の向上や医療費の削減を期待が高まり、健康経営の導入が推進されるようになってきました。健康経営は国を挙げた取り組みへと発展しており、働き方改革推進の本丸に位置づけられています。

 

 

2.政府が取り組む健康経営制度

●健康経営銘柄

経済産業省は、健康経営銘柄制度を設けています。東京証券取引所の上場会社から「健康経営」に優れた企業を選定する制度です。選定された企業は、優良な投資家にとって魅力ある企業として紹介されるため、資本が集まりやすくなります。

 

健康経営銘柄に選定されるためには、毎年8月から10月頃に行われる<健康経営度調査>に回答する必要があります。会社方針や組織体制・制度、施策実施・評価、法令順守など、経営から現場まで、各ポイントで健康への取り組みが行われているかを評価され選定されます。

 

 

●健康経営優良法人
健康経営優良法人認定制度は、優良な健康経営を実践している大企業や中小企業などを顕彰する制度です。この制度は健康経営に取り組む優良法人を「見える化」を図っています。2021年度は、大規模法人部門に1,801法人、中小規模法人部門に7,934法人が認定されています。

 

企業は、健康経営優良法人に認定されると社会的な評価を受けられ、健康経営優良法人のロゴマークの使用が可能となります。健康経営優良法人の認定を受けるためには、地域の健康課題に則した取り組みが必要です。また、<日本健康会議がすすめる健康増進>にも取り組まなければなりません。

 

 

●健康経営優良法人ホワイト500

健康経営優良法人では、大規模法人部門認定法人の中で、健康経営度調査結果の上位500法人をホワイト500として認定しています。この制度により、上場していない企業にもスポットを当てることができるようになりました。
3.健康経営の導入により期待できる4つの効果

 

 

1)健康経営への投資効果(大)

健康経営の導入には、少なからず費用が発生しますが、企業にとって従業員の健康維持や健康増進を行うことは、医療費の適正化や生産性の向上、企業イメージの向上等につながることから、そうした取り組みに必要な経費は単なる「コスト」ではなく、将来に向けた「投資」としてとらえることができます。

 

 

2)労働生産性の向上効果

従業員が、疾患を抱えながら仕事に取り組んだとしても、本来のパフォーマンスを発揮することは難しいと考えられます。会社を上げて健康経営に取り組み、従業員の健康管理を行うことで、より多くの従業員の健康状態が良くなります。健康な従業員が増えることで、社内に活気が出て仕事に取り組む姿勢も良くなり、労働生産性の向上効果が期待できます。

 

 

3)医療費の削減効果

健康経営を導入することで、従業員の疾患や疾病率が下がり、医療費の軽減につながります。また、従業員の健康状態が心身ともに良くなることで欠勤率や長期休業者数の低下が期待できます。

 

 

4)企業ブランドイメージの向上効果

健康経営を導入し必要な投資をおこなうことにより、健康経営優良法人に認められる可能性があります。健康経営優良法人に認定されることにより、従業員の健康維持や推進を経営的な視点で戦略的に取り組んでいる企業だと認められるのです。社会的評価を受けることができ、企業のブランドイメージの向上効果が得られるでしょう。

 

ブランドイメージが上がれば、求職者や取引先からの評価も高くなります。社会的信用や信頼を高めることも可能です。