『嘱託臨床産業医』の相談箱

 

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臨床産業医オフィス


<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>

 

産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者

 

飯嶋正広

 

 

産業医による就業上の措置に関する意見のあり方について(No4)

 

―体制や人材に関する課題-

 

産業医による事後措置は、国内の産業保健活動における主な日常業務の一つです。しかしながら、多くの場合、企業文化・慣習、医師の方針、労働者の健康状態、業務内容などを総合的に考慮しながら実施されており、事後措置の適用範囲、内容、手順について共通の認識が存在しているとまでは言えません。

 

就業上の措置に関して規程又はマニュアルが整備されていても、実際に就業上の措置の意見を述べる際の判断の根拠としては、臨床医又は産業医としての個人的経験が主体であり、各学会のガイドライン等も参考にすることが多いです。つまり、就業上の措置に関する客観的で直接的な情報源は整備されていないのが現実です。

 

各学会のガイドライン等が必要であると感じられるケースは、治療後の患者が適切な時期に適切な職場復帰ができることが望ましいとされる中で、就業者に医療を施す際の産業医判断です。就業の可否を求められる臨床医と職場復帰を判断する産業医の両者にとって、適切な職場復帰のアドバイスを行うための診療ガイドラインは非常に有用です。しかし、国内の公開ガイドラインでの就労措置の記載について内科系ガイドラインでは、国内では 97 ガイドライン中わずか 3 ガイドラインのみに就労措置の記載があるのみで就労措置についての考慮が依然として不十分です。

 

繰り返しになりますが、労働安全衛生法では、すべての事業者に健康診断の実施と、その結果に基づき、 有所見者に対して必要な措置について医師の意見を聴かなければならないと規定されています。この義務規定は50人未満の産業医選任義務のない小規模事業場にも適用されており、地域産業保健センター事業の活用を図ることが望ましいとされているが、現在の予算・マンパワーではすべての実施は困難で、事後措置の実施率は約 1/3 に留まっているようです。

 

なお企業外労働衛生機関としては、産業医契約のない小規模事業場の労働者の判定を行うためには、1)ある程度職場の状況が把握でき、2)労働者本人との面談ができることが必要で、3)面談に必要なマンパワーの確保と適正な収入が得られる必要があります。しかし、判定方法や基準も曖昧なため、医師の産業医経験・技量によるところが大きく、判定するスキルを持った医師が不足している、また、そもそも事業者側に就業判定の必要性について周知がされておらずニーズがないという課題が残されています。

 

 

まとめ

適切な事後措置が実施されるためには、

①適切な手順、

②就業と健康状態の関係に関するエビデンスの利用、

③事業場や労働者の実情にあった運用、

④適切な対応ができる医師(産業医)等の確保、

⑤ 事後措置の重要性に対する事業者の理解

 

が不可欠です。