からだの健康(心身医学)

 

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内科認定医、心療内科指導医・専門医 アレルギー専門医 

 

飯嶋正広

 

呼吸器病学とアレルギー学の接点

 

アレルギー舌下免疫療法の適応と限界と総合アレルギー専門医の役割(前編)

 

花粉症の季節になりました。花粉症以外に、アトピー性皮膚炎、喘息など複数のアレルギー疾患で困っている方の中には、精神的に参っているせいもあってか、不安、いらいら、攻撃性、抑うつ、神経過敏になりがちなようです。

 

ある30代の男性の症例を紹介します。この男性は、以前からアトピー性皮膚炎と喘息があるため、皮膚科と呼吸器内科を受診していました。5年前から2月になると鼻汁、くしゃみ及び目のかゆみで悩まされるため、耳鼻咽喉科と眼科も受診し、さらに熟眠障害を来したため、心療内科(実際には精神科)も受診していました。

 

そこで、5科の通院が困難なため、耳鼻咽喉科と眼科と呼吸器内科のかわりに、アレルギー内科を受診し、フェキソフェナジン(アレグラ®)を服用していました。

しかし、眠気のために仕事に支障がでるため、3年前に大学病院のアレルギー専門外来で、スギ花粉抗原による舌下免疫療法をはじめました。しかし、「季節の症状が一向に改善しないので、舌下免疫療法を止めて、眠気の出ない有効な治療法をはじめて、次の季節は楽に過ごしたい」との相談を受けました。

 

なお、当クリニック初診時には、鼻汁、くしゃみに加えて、両側の鼻閉を確認しました。

 

免疫血清学的所見:

IgE 135U/L(基準170以下)、特異的IgE検査(RAST):ハンノキ(クラス0)、スギ(クラス3)、ヒノキ(クラス2)、カモガヤ(クラス0)、ダニ(3)

 

大学病院のアレルギー専門医は、スギ花粉による花粉症の症状であると判断してスギ花粉抗原舌下免疫療法を開始したものと推定することができます。

スギ花粉症に対しては、多くの場合は、いまだに対症療法が広く用いられていて、症状のコントロールには有効性を発揮しています。外用剤としては抗アレルギー点眼薬、副腎皮質ステロイド点鼻薬、内服薬としては抗アレルギー薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)が選択肢となります。

 

この症例では、以前、抗アレルギー内服薬は鼻汁、くしゃみに有効でした。また、眼のかゆみに対しては抗アレルギー点眼薬が有効であったようです。

 

最初の担当医は、抗アレルギー薬のなかでも眠気の副作用が少ないことが特徴であるフェキソフェナジン(アレグラ®)を処方したにもかかわらず、服用により仕事に差し支える程度の眠気が生じています。そこで、スギ花粉症の原因療法であるスギ花粉抗原舌下免疫療法は確かに良い適応になります。

 

それでは、この症例では、なぜスギ花粉抗原舌下免疫療法が有効でなかったのでしょうか?そのような場合には、どのような対処法があるのでしょうか?

 

一つだけ言えることは、この症例は単なるスギ花粉症ではないということです。

スギ花粉症のある人の約7割にヒノキ花粉症が合併しますが、この症例も例外ではありませんでした。そのため、スギ花粉抗原舌下免疫療法だけでは、十分に花粉症を根治することはできません。

 

また、スギやヒノキなどの季節性花粉症だけではなく、通年性のダニアレルギーも合併しているため、年間を通して慢性アレルギー性鼻炎が基盤にある可能性があります。

そのようなタイプの方は、花粉症のシーズン以外の時期においてのアレルギー性鼻炎の症状に関しては鈍感になっている傾向があるように観察されます。特に鼻閉を伴う例では、その傾向がより明らかであることを多数経験しています。

 

次回は、この課題に対して、検討を加えていきたいと思います。