『嘱託臨床産業医』の相談箱

 

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臨床産業医オフィス

 

<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>

 

産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者

 

飯嶋正広

 

 

産業医による就業上の措置に関する意見のあり方について(No3)

 

―手順や判断基準に関する課題-

 

産業医は、精密検査の結果に基づいて、医学的に「要治療」、「要保健指導」、「要観察」(これには、一定期間後の血圧測定、血液生化学検査などの指示も含まれます)、「特別な対応不要」、に仕分けします。しかし、この業務は、企業外の外部の健康診断サービス機関の医師が既に判定済であることがほとんどです。
 

そこで、産業医の業務は「通常勤務」、「就業制限」、「就業禁止」のいずれに該当させるかという就業区分において意見を述べることが中心になります。その際、判定の前提として、労働者の考えや希望を聴取しておくことは不可欠であるとされています。しかし、実際にこれを実践することは容易ではありません。

 

産業医は産業医学及び臨床医学の面から情報を収集していますが、いずれも十分な情報は存在せず、産業医は自らの経験を基に就業上の措置について判断しているのが現状です。

 

なお就業区分は、産業医の意見を尊重すべきものですが、最終的には事業者が決定するものであり、健康診断の事後措置として法的な意義をもちます。

 

このような背景からすれば、産業医の行う、有所見であることの説明、精密検査を受けることの勧奨、精密検査の結果に基づく医学的措置に関する指導は、事業者としても軽視できない枢要な措置であるということができます。

 

一般健康診断の有所見者に対して疾病の診断や治療を受けさせるまでの法的義務は事業者にはありません。

しかしながら、労働安全衛生法では、健康診断の実施義務者が事業者になっているので、健康診断結果については、事業者がそのすべてを知ることができます。

ただし、労働安全衛生法第104条では「健康診断の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知りえた労働者の心身の欠陥その他の秘密を漏らしてはいけない」と規定されており、違反行為者のみでなく、事業者にも6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることになっています。
 

わが国の産業医のほとんどを占めているのは、常勤の専属産業医ではなく、非常勤の嘱託産業医です。

嘱託産業医は、企業との契約内容にもよりますが、自身が担当するほぼすべての事業所の労働者の健康診断結果を確認しています。そのうえで、医学判定の確認と見直しを行い、医療職による保健指導を行う対象者、受診勧奨を行う対象者、リスクが高く就業制限を含めた措置が必要な可能性があるため面談等による介入が必要な対象者に面談を行っています。

 

なおリスクが高い労働者に対しては、就業上の措置に関する意見を述べる必要があります。そのため、いったん就業判定を保留にし、受診結果を確認した後に「就業可」とする等の手順を踏むことが多いです。

また「就業制限」をかける際には、深夜業や出張の多さ等業務の有害性の程度を考慮し、またこれまでの健診データの推移や、本人の自己管理能力にも考慮しながら介入をします。また 事業所の個別性にも対応し、安全衛生体制の成熟度や担当者の姿勢、産業医活動可能時間に合わせてさまざまな介入方法を工夫しています。

 

中小企業における産業保健サービスの提供は、産業保健以外に専門分野を持つ医師(日本医師会認定医、非専業産業医)や健康診断実施機関として事業所と接点の多い労働衛生機関の医師がどの位の数の労働者に、どの程度の質で事後措置に関与できるかが今後の課題であると思われます。

なお、このような技術は具体的な手順な留意点について解説した教科書やマニュアルは周知のものとなっていないため、主にOJTの中で経験的に学んでいく場合が多いのが現状です。