『嘱託臨床産業医』の相談箱

 

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臨床産業医オフィス

 

<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>

 

産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者

 

飯嶋正広

 

 

 

働き方改革関連法での変更点と産業医の役割

 

(その選任方法、重要性)について(第4回)

 

 

今回ご紹介する産業医の役割を、心療内科(心身医学)医の立場から振り返ってみることは実りの多いものです。

実際に産業医としての経験を積んでいくと、医療機関内での保健診療のみでは十分に活用できにくい予防医学、環境医学、社会医学をはじめとする様々な視点や視野が広がり、それがまた日常診療に役立っています。

 

昨今では、全人的医療(身体・心理・社会・実存)の実践者としての心療内科医にとって、産業医としてのフィールド活動を継続することは不可欠な柱であるとさえ認識するまでに至りました。

 

 

産業医の役割について

 

事業所での産業医の役割は多岐に渡ります。

今回は産業医の主な役割について、ご紹介します。

 

 

衛生委員会の出席・衛生講話

従業員50人以上の事業省は、必ず衛生委員会を設置しなければなりません。それに伴い同時に産業医は衛生委員会への出席が求められます。衛生委員会は毎月1回程度開催することが望ましく、産業医は構成員として意見を述べます。

また、産業医は健康管理や衛生管理を目的とした社員向けの講習である衛生講話を行います。

衛生講話では従業員の健康管理・衛生管理における職場の課題に応じた内容が講習内容となります。

 

 

職場巡視

産業医は毎月1回職場を巡回し、従業員が働く職場環境の安全性が確保されているかを確認する職場巡視を行います。

企業の事業によって、内容は異なりますが、主に「整理・整頓・清掃・清潔」の環境の維持、適切な温熱環境、照度、トイレの衛生環境、休憩室の確保、AED・消火器の場所、室温などがチェック項目となります。

 

 

健康診断結果のチェック

産業医は実施された健康診断結果に基づいて、就業判定を行い、就業制限・休職が必要な社員への意見書を作成します。また、事業主は産業医の押印がされた「健康診断結果報告書」を管轄する労働基準監督署に速やかに提出しなければいけません。

 

 

健康相談、休職・復職面談の実施

産業医は健康相談を希望する社員への健康相談や、休職希望または欠勤・遅刻・早退が続く社員への休職面談、職場復帰を希望する社員への復職面談を実施します。復職面談では病状の回復程度を把握し、職場復帰の判断を行います。

 

 

ストレスチェック制度の実施・高ストレス者への面接指導

 

ストレスチェック制度とは、2015年12月から対象の事業所において義務付けられた制度です。産業医は労働者に自分が抱えているストレスの度合いを知るテストを実施します。

また、ストレステストの回収や、任意で「医師による面接指導が必要」とされた労働者に対する面接指導を行います。

面接指導後は必要に応じて事業者に就業上の措置に関する意見を述べ、労働環境の改善を促します。

 

長時間労働者への産業医等による面接指導とは

2019年4月の働き方改革関連法では、長時間労働者に対する面接指導等が強化されています。

今回の法改正により、医師による面接指導の対象となる労働者は以下の内容に変更されています。

時間外、休日労働時間が1カ月当たり80時間を超えた労働者
高度プロフェッショナル制度対象労働者(1月当たり100時間を超える場合)
上記に該当する労働者は、産業医による面接指導を実施します。

 

 

 

今月のまとめ

2019年4月に施行された働き方改革関連法では「産業医・産業保健機能の強化」と「長時間労働者に対する面接指導等」が強化されている。

 

事業者には産業医を選任する義務がある。

 

産業医の職務は「労働者の健康管理」を目的としており、主に「衛生委員会の出席・衛生講話」、「職場巡視」、「健康診断結果のチェック」、「健康相談、休職・復職面談の実施」、「ストレスチェック制度の実施・高ストレス者への面接指導」、「長時間労働者への産業医等による面接指導」の6つの役割を担う。

 

産業医活動は、全人的医療の担い手である心療内科医にとっては不可欠の課題である。