認定内科医、心療内科指導医・専門医、アレルギー専門医、リウマチ専門医、認定痛風医
飯嶋正広
神経病学、アレルギー・膠原病学、感染症学
毎週木曜日は、昨年からの、こころの健康(身心医学)というタイトルを引き継ぎ、上半期は最近、進歩と変化の目覚ましい神経病学、アレルギー・膠原病学、感染症学について、私が気になる話題を取り上げていく予定です。
このなかでアレルギー・膠原病学の領域は、アレルギー専門医・リウマチ専門医としての永年の私の専門領域に相当します。とくに、リウマチ専門医の扱う臨床領域は、関節リウマチに限局されず膠原病全般に及んでいるのですが、いまだに十分理解されていないのが実情です。関節リウマチは、膠原病を代表する疾患であることだけでも知っておいていただけたらと思います。
また、感染症学については、一昨年から引き続き世界的なCOVID-19問題として今年も引き続き慎重にモニターしつつ対応を考えていかなければなりません。この感染症とアレルギー学は免疫学という共通のベースがあるため相互に密接な関係があります。COVID-19問題に関するメディア露出で一躍世界的に有名になったアンソニー・ファウチ氏は、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)の所長です。その名の通り、アレルギーと感染症は互いに隣接領域として研究が進められているのです。
ところで、こころの健康(身心医学)というタイトルは少し、あるいはかなり、奇妙であり、不可解な印象を持たれる方も少なくないものと拝察いたします。しかし、これには訳があるのです。
世間では、<こころのケア>などというソフトで暖かそうな表現が好まれる傾向があるようにも見受けられますが、そもそも<こころ>とは何なのでしょうか?これは哲学や宗教の世界で扱う領域なんでしょうか?<こころのケア>を生業とする心理カウンセラーが哲学者や宗教家を兼ねた存在であったとしても何ら不思議はありません。
しかし、医師が<こころのケア>を担当するのであれば、それとは別の科学的バックグラウンドやベースを持っていなければならないと、私は考えています。それでは、その科学的バックグラウンドやベースとは何かということが問題になってきます。
私は上記の命題を考察するに際して、<こころ>を支えている基盤を考えることにしました。なぜならば、<こころのケア>を求めて相談に来られる方々は、等しく自分が悩まされている、あるいは気になっている諸問題を抱えておられるからです。
つまり、みずから気づいている、気づけている意識の世界の課題に焦点を当てていますが、その原因となっていることが多い潜在意識や無意識の世界には到底考えが及んでいません。実は、この辺りが<こころのケア>を有効なものとするための臨床的実践の鍵なのであります。
率直に申し上げて、私自身は<こころのケア>という言葉は好んで用いることはありません。また、心療内科の専門医、しかもそのエキスパートである指導医であることから、<こころのケア>の専門家として紹介されることがありますが、いつも違和感を覚えています。その淵源はどこに由来するのかというと、それは<こころ>の概念が自他の間において一致していないからだと考えています。
私が心療内科医として実践してきたのは<こころのケア>ではなく、<たましいのケア>です。このような表現をすると、さらに誤解が拡大してしまう懸念があるので、ここで改めて簡単に説明させていただきます。
私にとって、<こころのケア>は意識世界を対象にして人文科学的な理解で行うケア、これに対して<たましいのケア>とは無意識の世界にまで立ち返って可能な限り科学的な基礎に還元して理解していこうとするケアの在り方なのです。つまり、これは<身>の科学に基礎を置くということです。
心療内科は私の専門領域の重要な柱なのですが、この領域は一般の方だけでなく、医療従事者の間でさえ極めて紛らわしく、しばしば混同され誤解されています。
とくに混同されやすいのは精神神経科や神経内科(脳神経内科)です。
そして、機会があるごとに、それらの違いや区別について私は根気強く繰り返して説明してきましたが、最近に至っては、そのような試みは徒労に終わるだけで実益がないことに気が付きました。
そのように考えるようになったのは、心療内科の位置づけが精神神経科領域と脳神経内科領域の両方に及んでいること、むしろそのことが心療内科医の強みでさえあることを改めて認識したからにほかなりません。
私は、<こころのケア>を求めて来院される方を素直に受け入れつつ、心療内科医として<たましいのケア>を提供していますが、こうしたアプローチが奏功しているからです。
そもそも人体の脳神経系の解剖(構造)と生理(機能)の理解が無ければ医師としての科学的なアプローチはできないのですが、少なくとも医師であるからには脳神経系は意識世界と無意識世界の両方の世界に対して構造的基礎を与えていることを忘れてはならないと考えています。
最後に、アレルギー・膠原病学の領域は、免疫学を基礎としているため、感染症学にも通底しているのですが、そもそも、免疫作用とは「自己と非自己とを認識する作用」です。私たちの体内に存在するあらゆる物質が、自己に属する者なのか、異物(非自己)なのかを絶えず監視しているのが免疫の働きなのです。
つまり脳神経系だけが認識作用を独占しているのではなく、免疫細胞も原初的な認識・識別能力を持っているということになります。私たちは、そうした免疫細胞の認識を直接知覚することはできませんが、別の表現をするならば、これらの免疫の働きを無意識のこころ、これを<たましい>の働き、と私は呼んでいるのです。
次週から、約半年の間、木曜日のこのコラムは神経病学、アレルギー・膠原病学、感染症学をテーマとして取り上げていきたいと思います。
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