厚生労働省は、
職場のメンタルヘルスに関するよくある質問と答えをまとめました
として、ホームページで、こころの健康に対してわかりやすいQ&Aを掲載しています。それに私が臨床の立場からCとしてコメントを加えてみました。
Q.
夫がうつ病で通院中ですが、うつ病の人は自殺しやすいと聞きとても心配です。 何に気をつければいいでしょうか?
A.
自殺をほのめかす言葉を口にする、遺書を書く、自殺の道具を準備するなどの具体的な自殺への準備は当然ですが、自分の身の回りを整理する場合も危険なサインといわれています。
うつ病で治療を受けている場合には、気分が沈む、涙もろくなる、仕事の能率が悪くなるなどの症状の悪化がみられ、「生きていても仕方がない」という自殺をほのめかす言葉のほかに、「皆さんに申し訳ないことをした」などと自分を責める言葉が聞かれた時も注意が必要です。
また、酒量が増えたり、糖尿病を患っていてもそれまでは自己管理がきちんとできていたのに、食事療法や運動も止めてしまうなどという変化も危険なサインです。
これらのサインを感知したときの対処としては、相手に対して心配していることを伝え、死にたいと考えているかと尋ねてください。そして相手の話によく耳を傾け、絶望的な気持ちをまず受け止めるために聞き役に徹してください。
そして、主治医によく相談し、場合によっては入院治療を考慮したほうが良い場合もあります。
うつ病の経過の中で自殺の可能性は常にあるといえますが、特に注意が必要な時期としては、病状が非常に悪くなった時、病状が少し改善してきた時が危険であるといわれています。病状が悪い時は自殺を考えていたとしても実行できないですが、少し良くなってくると行動力が少し戻ってくるため、そのような状態のときに自殺を考えると実際の行動に至りやすいといわれています。
また、病状がかなり回復して環境が変わる時期、例えば仕事を休んでいた人が再び職場に戻るような時期、も危険であるといえます。このときは、環境の変化とともに、いったん回復した病状が不安定になり自殺が起こりやすいといわれています。
C.
このような質問を家族から受けたときに、私がいつも心掛けていることがあります。それは、「いま、ここで」どなたの相談を受けているのかについて再認識することです。
大切な家族の一人が心を病むと残りの家族もそれなりの影響をうけるであろうことは仕方のないことです。このご相談の主である妻がうつ病である夫を心配することも已むないことです。
しかし、その心配の程度が大きくなりすぎると、妻自身も心を病んでしまいかねないことへの注意を喚起しておくことが大切だと考えています。
しかし、不安の訴え方が明かに病的水準に達したとしても、直ちにその家族を患者として対応しようとすると誤解が生じかねないので慎重な配慮が必要になります。つまり、一言で言えば、目の前で相談を求めている妻の心のケアをさりげなく行いながら、相談内容に一緒に取り組むことが望まれます。そこで、この妻の質問を序・破・急の3段階に構成し直してアドバイスする方法をご紹介いたします。
そこで、
序の段:
自殺防止のため、家族はどのように見守ればよいでしょうか?
自殺行動を助長する危険性を高めるものに飲酒があります。飲酒習慣がある場合には、まずアルコールを遠ざけましょう。
「死にたい」という気持ちが高まるのは、およそ1~2日間とされています。この間は、アルコールを手の届く範囲から遠ざけることとともに、患者さん自身が自殺のために何か準備をしていないかを見張ることが重要です。
アルコールは中枢神経系を抑制するはたらきがあります。そのため、飲酒によって判断力が弱まる⇒行動がコントロールができなくなる⇒自殺行為、という危険性を高めます。
破の段:
自殺の危険性が高まると、どういうサインがあらわれますか?
強いイライラや、もどかしそうな素ぶり、身辺整理行動には要注意です。
具体的に自殺を企てている患者さんには、手紙や写真の整理を始めたり、記念となるような大切なものを人にあげるといった行動がみられるようになります。
また、実際に自殺未遂を経験した人の多くが、行動を起こす直前に強いイライラ感やもどかしさを抱いているとされています。これらの行動がみられたら、自殺の危険性が非常に高まっていると捉えるべきです。
急の段:
「死にたい」といわれたら、まずはどう対処すべきですか?
実行することはむずかしいかもしれませんが、可能な限り冷静な対応をすることです。
「死にたい」と告白して直ちに目の前で自殺行動を取ることは稀です。
そのことを心に留めておくだけで、慌てないで対応し易くなることでしょう。家族としてもその場に居合わせた責任を過剰に感じてしまうと、相手より自分自身の保身に走ってしまいがちになります。そうした態度をうつ病者は、自分が相手から強く疎外されているという印象として心に深く刻み込まれてしまいます。つまり、悪意として敏感に感じ取ってしまうのです。
可能な限り冷静な対応をするためには、「いま、ここで」はまだ緊急事態に至っていないことを心に留めておくことが役に立ちます。そうすることでとても大事な相手に対して「共感」することが可能な状況に戻すことができるのです。
ですから、このような心の準備が必要です。心の準備が無いと、突然のことにあわててしまい、「バカなことをいわないで」などと口走ったり、叱責したり、叱咤激励したりしてしまいます。
本人は、なぜ死にたいほどつらいかを受け止めて理解して欲しいだけなのかもしれません。その気持ちを受け入れずに否定し、そんなことは「いわないで」という拒否の言葉に聞こえてしまいます。
「あなたの言うことなんか聞きたくない」と拒絶してしまうことと同様に受け止めてしまうため、患者さんは更に落ちこみ、孤独を感じるようになります。
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