からだの健康(心身医学):「骨粗しょう症」診療に対する新しい見かたと対策No5

 

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骨粗鬆症の予防と効果的な治療の指針となる骨代謝マーカーについて(基礎編)

 

Q6.

骨代謝マーカーの測定値は、年齢や性別によっての推移というのはあるのでしょうか?

 

A6.

性差に関しては各マーカーであります。各マーカーの基準値も性差別に示されています。骨代謝マーカーの評価をするときは基本的に性別ごとの基準値をもとに評価することになります。

 

 

Q7.

骨代謝マーカーの測定は、どのような役にたつのですか?

 

A7.

骨代謝マーカーにはいろいろありますが、これまでの研究結果から、こういった骨代謝マーカー値が上昇した場合には、骨折の予測因子になることや、あるいは骨密度とは独立した骨折の危険因子であることも判明しています。また、骨代謝マーカーと骨吸収抑制薬による骨密度上昇効果との関連性や、非椎体骨折(註)抑制効果との関連性についてもこれまで明らかにされています。

 

註:

骨粗鬆症性の骨折では椎体骨折が最も多く, また薬剤の骨折予防効果の標準的指標であるため, それ以外の骨折を非椎体骨折と呼びます。この非椎体骨折の代表は, 橈骨遠位端骨折, 上腕骨近位端骨折, 骨盤骨折, 大腿骨頚部, 転子部骨折です。

 

骨代謝マーカーを調べる目的には以下の5つが挙げられます。

 

①  骨密度の低下を予測する。

骨代謝マーカーの上昇と骨密度の低下には負の相関があると、複数の研究結果が報告しております。
つまり、マーカーが上昇すると骨密度が低下する可能性があるということができます。

 

② 骨折の発症リスクを予測する。

骨折予測因子(骨折しやすいかどうかに関わる要因)には、年齢、骨密度、既存骨折の有無、が独立した因子として挙げられます。
つまり、年齢が高くなればなるほど骨折しやすくなる、同年齢でも骨密度が低い方は骨折しやすい、と言うことができます。
そして、骨代謝マーカーも(特に女性では)独立した骨折予測因子です。
つまり、骨代謝マーカーの上昇は、骨折リスクを上げることになります。

 

③ 治療効果を調べる。

実際の臨床で骨代謝マーカーを測定する一番の目的は治療効果判定、つまり、現在使用中の薬剤が本当に効いているのかどうかを調べることです。
例えば、亢進した骨吸収を抑制する治療を検討した場合、治療前の骨吸収マーカーの値がどの程度で、治療開始後にその値は正常範囲内に低下したのか、などの検討に用います。

 

④ 患者さんの治療継続に繋がる。

骨粗鬆症の治療において、骨代謝マーカー計測も同時に行いその結果を患者さんにフィードバックすると、特にマーカーが低下した人(=治療効果が出ている人)では、しっかりと治療を継続してくれる患者さんが増えるという報告があります。
このように、骨代謝マーカーで骨代謝回転を評価することによって、治療の必要性や有効性をある程度理解することが可能になります。また、この骨代謝マーカーの値を患者さんに直接示すことで患者さんの病識が高まることになり、服薬アドヒアランスの向上につながるのではないかと考えられています。  
また、しっかりと治療を継続することで骨折予防に繋がり、入院・手術加療が減るため医療費削減効果もあるといわれています。

 

⑤ 休薬後の経過を観る。

治療が効果を発揮し、一時期的に内服などの治療を中止する場合があります。その際に骨代謝マーカーを定期的に計測することで、正常範囲を超えた場合に治療を再開するなどの指標として利用することもあります。

 

 

Q8.

骨代謝マーカーの測定は保険診療で認められているのですか?

 

A8.

骨粗鬆症と診断された患者さんでは、治療開始時と、治療を開始してから6カ月以内と、2回、骨代謝マーカーの測定が保険上は認められています。

 

 

Q9.

実際に治療薬を選択されるとき、 骨代謝マーカーはどのように使われるのですか?

 

A9.

治療薬の選択を行う際には、骨代謝マーカーを測定し、もし骨代謝マーカー、特に骨吸収マーカーが高値であれば、これは骨代謝回転が亢進している、すなわち、骨吸収が亢進していることを意味しています。こういった場合にはビスホスホネートとか、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)、あるいは最近ではデノスマブ、そういった骨吸収を抑制する薬を選択することが理にかなっていると考えることができます。

 

 

Q10.

骨粗鬆症診療における骨代謝マーカーの臨床的意義についてご教示ください ?

 

 

A10.

薬物の投与前に骨代謝マーカーを測定することによって、骨代謝回転の状態を知ることができます。そのデータに基づき、理論上は合目的的な薬物の選択が可能になります。

 

 

治療薬の選択と骨代謝マーカーのまとめ

 

選択する治療薬の特徴に合わせて、計測すべきマーカーを選択します。

 

骨吸収を抑制する治療薬:

カルシトニン製剤、ビスホスホネート製剤、イプリフラボン製剤(オステン®)、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)、抗RANKLモノクローナル抗体(デノスマブ)

➡︎ 骨吸収マーカー(NTX)

 

骨形成を促進する治療薬:

活性化型ビタミンD₃、副甲状腺モルモン製剤(テリパラチド) 

➡︎ 骨形成マーカー(BAP)

 

 

骨質を改善する治療薬:

ビタミンK₂製剤(グラケー®)

➡︎ 骨質マーカー(ucOC)

 

のように計測を行なっています。