からだの健康(心身医学):「骨粗しょう症」診療に対する新しい見かたと対策No1

 

今年の当クリニックの診療を振り返ってみると、大きく変化し、充実させることができた領域の一つが「骨粗鬆症」に関しての診療でした。それは、医学の進歩を日常診療に反映させるための当然の結果であるといえます。

 

骨粗しょう症は、かつては単に骨密度が低下して骨折しやすくなる病気とされていたため、予防にあたっては「骨密度」を中心に考えられていました。当クリニックでは、従来からMD法*で計測してきました。

 

*MD法(Microdensitometry法);

手の横にアルミニウム板を置き、一緒にエックス線写真を撮影し、画像の濃淡の差をコンピューターに読み取らせて解析する方法です。

 

 

また、新型コロナ感染症等の対策として計測をはじめることになったのが偶然のきっかけで発見できたこともあります。

 

それは自然免疫の維持強化を助け、しかも骨形成に不可欠な栄養素である血液中のビタミンD(25OHVD)の濃度が低下しているにもかかわらず、骨密度が正常または高値である方も少なからざる症例数にのぼっていたということです。

 

この事実からも、骨密度の他に骨質を確認する必要があることに気づくことができました。しかも、近年、骨密度が正常範囲であるにもかかわらず、骨折リスクが高い患者さんがいることがわかてきました。

 

その原因を調べると、人によって「骨質※」に違いがあることが明らかになってきました。骨密度検査で正常範囲の結果が出ても骨折リスクが高いことがあります。

 

※骨質:

❶ 骨の微細構造、❷ 微小骨折の有無、❸ 石灰化の密度、および ❹ 骨代謝回転(リモデリング)の速さ、により示されます。

 

そこで、骨粗しょう症の定義は「骨強度が低下し、骨折しやすくなる骨の病気」とあらためられました。つまり骨粗しょう症は、骨密度の低下と骨質の劣化(異常な過老化による微細骨折からはじまる)、その両方が影響しあって骨折リスクが高まる病気といえます。

 

そして、「骨強度」には骨密度が70%、「骨質」が30%関係している、

と説明されるようになりました(NIHステートメント2000)。

 

「骨」といえばカルシウムばかりを連想しがちですが、骨の重量の20%、体積では50%を占めるのはコラーゲンという蛋白質です。骨を鉄筋コンクリートの建物にたとえるならば、カルシウムはコンクリートで、コラーゲンはコンクリート内に埋まっている鉄筋となります。

 

鉄筋(コラーゲン)の強さを左右するのは、鉄筋同士をつなぎとめるコラーゲン架橋です。架橋というのは、結びつきのことです。これはいわば梁(はり)の役目をして、建物全体の強さにまで影響を及ぼしています。さらに、このコラーゲン架橋には「善玉架橋」と「悪玉架橋」があります。

 

コラーゲン架橋が規則正しく、しっかりしている生理的架橋を「善玉架橋」、バラバラになっている非生理的架橋を「悪玉架橋」といいます。悪玉架橋が増加すると、コラーゲン同士のつなぎ止めが弱くなり、しなやかさが失われ、硬くてももろい、折れやすい状態となってしまいます。

 

この「善玉コラーゲン架橋」は、骨を作る“骨芽細胞”から分泌される酵素反応を介して正常な生体反応によって形成される生理的架橋です。これに対して、「善玉コラーゲン架橋」は酵素反応を介さず場当り的に形成される非生理的架橋です。

 

それでは、骨質をどのように評価し、日常の臨床に役立てていくことができるのかについて、可能なことを次号で紹介させていただくことにいたします。