水氣道稽古の12の原則(14)弱点優先の原則(その1)

 

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 自分の強みを伸ばすことを考えるときに役立つツールとして「SWOT分析」が知られています。SWOT分析は事業の戦略立案などに用いられるフレームワークであり、「Strength:強み」「Weakness:弱み」「Opportunity:機会」「Threat:脅威」の頭文字をとったものです。

 

水氣道における「弱点優先の原則」を説明する上で、この分析法が役に立つので簡単に紹介いたします。

 

 SWOTを構成する4つの要因は、まず、内部要因と外部要因とに2大別することができます。内部要因(自分でコントロール可能な要因)として「強み」と「弱み」は、外部要因(自分の努力では変えられない)として「機会」と「脅威」に分けられます。

 

 次いで、目標達成にプラスになりかマイナスになるかによっても2大別することができます。

 

 内部要因の「強み」とは目標達成にプラスになると思う自分の資質、これにたいして「弱み」とは目標達成にマイナスになると思う自分の資質です。

 

 外部要因の「機会」とは、うまく活用すれば目標達成にプラスになる外部要因、これにたいして「脅威」とは、そのまま放置すれば目標達成にマイナスになる外部要因です。

 

 事業の経営戦略では、「強み×機会」に注目し、「強み」によって「機会」を最大限に活用するためにできることを考える、あるいは「強み×脅威」に注目し、「強み」によって「脅威」の悪影響を回避するためにできることを考えると良いとされています。

 

それでは、水氣道も「SWOT分析」を用いて、事業の経営戦略と同様の考え方に基づいた稽古をしているのか、ということを解説しておきたいと思います。

 

答えから先に申し上げるならば、水氣道でも「SWOT分析」と同様の分析を定期的に行なっていますが、運用の仕方は、先に挙げた事業の経営戦略とは異なります。
 

 

まず「SWOT分析」自体の課題があります。

第一に、内部要因を個人の「資質」に帰着させ、しかも自分でコントロール可能な要因と操作的に定義されている点です。しかし、一般的に考えられている「資質」は必ずしもセルフ・コントロールが可能というわけではありません。当然ながら、誰にでもセルフ・コントロールが難しい「資質」要素があります。

 

第二に、自分の「資質」が目標達成にプラスになるかマイナスになるかの評価主体を自分自身においている点です。自主的に、主体的に自己分析を試みて、自己評価することには意味がありますが、用意周到になされたものでなければ往々にして誤った判断をしてしまうことになってしまうのではないでしょうか。それを避けるためには、客観的に、可能であれば数値化したデータによって評価可能なツールを用いて判断することが前提になります。

 

第三に、自分の努力では変えられないと定義する外部要因についての考え方には疑問が残ります。「機会」にしろ「脅威」にしろ、その原因が自然発生的な場合には限定されず、人為的に引き起こされるケースも少なくないのが実際の社会だと思えるからです。つまり、表面上は外部要因とみなされる要因の中にも、その原因において自分たちが関与して発生するケースがあるということです。自分たちが関与した結果として生じた現象であれば、自分たちの努力で変えられないことばかりではないはずです。

 

第四に、外部要因とされる「機会」と「脅威」の鑑別の仕方についての疑問です。これらはいずれも自分の努力では変えられない要素と定義されていますが、目標達成にプラスになると思えるのが「機会」であるとしても、その機会が与えられたのは偶然であるとばかりはいえません。日々の努力の積み重ねによって「機会」が与えられることも少なくありません。このことは、「脅威」についても当てはまるのではないかと思います。

 

水氣道の考え方は、「弱み」を「強み」に、そして「脅威」を「機会」に転換していくことにあります。そのためには、自分たちにとって何が本当の「弱み」なのか、また「脅威」なのかを正しく理解できるようになることが前提になります。つまり、「弱点の発見と補強により脅威を克服できるようになる」ことが水氣道の稽古戦略なのです。これを「弱点優先の原則」と呼ぶことにしています。

 

そこで、次回は、「水氣道における弱点優先の原則」について、より具体的に考えてみたいと思います。