こころの健康(身心医学):こころの耳Q&A から学ぶNo2

 

 

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厚生労働省:
こころの耳Q&A から学ぶNo2

 

厚生労働省は、

職場のメンタルヘルスに関するよくある質問と答えをまとめました
として、ホームページで、こころの健康に対してわかりやすいQ&Aを掲載しています。それに私が臨床の立場からCとしてコメントを加えてみました。

 

Q.

うつ病は再発するのでしょうか?

 

A.

うつ病は治ることが多いのですが、再発しやすいことも知られています。初めてうつ病にかかって再発を経験する人が6割、一度再発した人のうち二度目の再発をする人が7割、二度再発した人のうち三度目の再発をする人が9割といわれています。しかしながら、日常の思考・行動パターンの見直し(認知行動療法など)や内服により再発防止が出来ることもよく知られています。

 

 

C

最初に「うつ病」は一様で均質な病気でないにもかかわらず、一括りに論じて数字で割り切って回答しているのはいささか残念です。

 

うつ病の原因やタイプによって予後は大きく異なります。

 

うつ病が治りにくい原因は、治りにくく再発しやすいタイプのうつ病は性格や生活環境や習慣に結びついて発症している場合が多いからです。そして、性格や考え方を自分自身で変えるのは難しいからです。

 

私は、こうした病気を従来から<性格環境習慣病>と呼んできました。

 

 

具体例を挙げるとすれば、次に挙げるような行動や心の動きは自分で自分を苦しめ、うつ病が長引く原因になります。

 

劣等感(自分に劣等感を感じていて、いつも人と自分を比べて落ち込んでしまう)、

自責性(ついつい自分を責めてしまう)、

過敏性(人の言葉に敏感に反応してしまう)、などの他、

日常生活のリズムが乱れている人や、炭水化物に偏り過ぎる食事をしている人は、それを改めない限り寛解に至りにくく、薬剤を使用しても改善しにくい傾向があります。

 

次に、「うつ病は治ることが多い」という回答の意味する内容については注意を要します。

 

医師の理解する「治る」と患者さんが考えている「治る」には、しばしば大きなギャップがあります。

 

この回答での「治る」という意味は、高血圧や糖尿病のような「慢性疾患モデル」に立つことを前提とした「治る」だからです。

 

そのような場合に、内科医は「治る」とは言わずに、「コントロールできる」、「寛解状態を維持できる」と言うのが普通だからです。

言い換えれば、うつ病はかぜのように原状復帰できるという意味で「治る」のではなく、胃癌を手術で摘出して「治す」病気でもありません。

 

このような3つの「治る」モデルは、国際医療福祉大学福岡保健医療学部精神医学の原富英教授によって、わかりやすく提唱されています。
  

さらに、「再発しやすいこと」について、高血圧や糖尿病のような「慢性疾患」と同様にうつ病も慢性疾患であると考えれば、ケアを継続していない限り再発してしまうことは理解できると思います。

 

つまり、うつ病も寛解や症状コントロールを目標とすべき病気であるために、用心を忘れたり、必要とする継続的ケアを中断してしまったりすると、再発してしまうことになります。

 

少なくとも数年間は気を付けておかないと、容易に再発してしまいます。
  

最後に「日常の思考・行動パターンの見直し(認知行動療法など)や内服により再発防止が出来ること」はその通りだと思います。

治りにくいうつ病が存在することや再発しやすい事実は、他人の言動に過剰に反応して落ち込むことや、食生活の乱れといった心の動きや行動が習慣化して、あなたが抱える「心の痛み」を繰り返し引き起こしているからです。

ですから、根本的な症状の改善には薬だけではなく、「心の痛み」を癒すことが大切です。

 

その為の有効な方法は、継続的にカウンセリングを受けたり、心身の鍛錬を続けたりすることによって、生活習慣自分では変えにくい性格や心のわだかまりに気づき、そうすることによって、もっと深層にある、気づかないようにして過ごしてきた「心の痛み」に直面する勇気が備わってきます。

 

そこから行動面や身体面でのひずみをも是正することが可能になります。そうした体験を繰り返して、次第に経験を深めていくことによって、日々自分の周りに起きていることの悪い面ばかりでなく、良い面にも目を向ける余裕が育まれていきます。

その過程で、気分も体調も前向きに変化し、安定した性格や体質を獲得することができるようになり、本来あなたが持っていたはずの明るさや前向きさが戻り、落ち着いた気持ちで過ごせるようになります。
 

うつ病を改善するには自分の深層心理や本音と向き合うことができる環境に身を置くことが必要です。その為には落ち着いて自分の気持ちや本音を話せる相談室やカウンセリングルーム、あるいはクリニックのような環境が必要です。