『聖楽院』便り

 

当日のレッスン

 

Spirate pur,spirate(どうか吹いておくれ)はステファノ・ドナウディ(Stefano Donaudy, 1879年~1925年)によって作曲されました。

 

ドナウディはシチリア島のパレルモ生まれのイタリアの作曲家ですが、Donaudyという姓はイタリア人ではなく本来はフランス人の姓のようです。フランスでは<ドノディ>と発音されていたのではないかと思われます。

 

1896年からパレルモ音楽院でツエリに作曲を師事したのちナポリで学び、終生この地に住みました。音楽院入学前から主にオペラを発表していたましたが、卒業後6篇のオペラを器楽曲などの他に作曲しました。しかし、現在ではそれらのオペラはあまり上演されていないのが残念です。

 

それでも、ドナウディは今日トスティと並ぶ歌曲作曲家としてわが国でも名高く、代表作の「36 Arie di Stile Antico(古典様式による36のアリア)」は、17、18世紀のイタリア古典歌曲のスタイルで書かれています。そのため時代を代表する作曲家ではありませんが、それでも粋で香り高い作品が多いです。


私が45歳で本格的に声楽を始めるために入門したのが東京音楽大学の五日市田鶴子先生でしたが、五日市先生が私の声質に適しているとして紹介してくださったのがドナウディの歌曲で、Spirate pur,spirateも懐かしい一曲です。

 

そして、この「Spirate pur,spirate(どうか吹いておくれ)」は前述の「36の古い様式による歌」として出版された36曲のうちの1曲です。

 

 

原語(イタリア語)歌詞に日本語訳(訳:飯嶋正広)を添えました。

 

Spirate pur,spirate      

どうか吹いておくれ、吹いておくれ

 

attorno a lo mio bene,    

私の最愛の女性の周りに、

 

aurette,e v'accertate     

そよ風よ、そして見極めておくれ

 

s'ella nel cor mi tiene.

彼女が心に私で満たしているのかを。

 

s'ella nel cor mi tiene.      

彼女が心に私で満たしているのかを。

 

Spirate, spirate,         

吹いて,吹いて,

 

Spirate pur,   

どうか吹いておくれ,

 

Spirate aurette.   

吹いておくれ,そよ風よ。

 

Se nel suo cor mi tiene,

彼女の心が私で満たされているかどうか、

 

Se nel suo cor mi tiene,

彼女の心が私で満たされているかどうか、

 

v'accertate,aure beate,

見極めておくれ、幸せなそよ風よ、

 

aure lievi e beate!    

軽やかで幸せなそよ風よ!

 

Spirate pur,spirate      

どうか吹いておくれ、吹いておくれ

 

attorno a lo mio bene,    

私の最愛の女性の周りに、

 

aurette,e v'accertate     

そよ風よ、そして見極めておくれ

 

s'ella nel cor mi tiene.

彼女が心に私で満たしているのかを。

 

s'ella nel cor mi tiene.

彼女が心に私で満たしているのかを。

 

Spirate, spirate,

吹いて,吹いて,

 

Spirate pur, 

どうか吹いておくれ,

 

Spirate aurette.  

吹いておくれ,そよ風よ。

 

 

 

この曲は、今年の8月8日(日)に水戸芸術館(館長:小澤征爾)で開催予定であった「茨城の名手・名歌手たち第30回オーディション」出場に向けて、同郷の若手ソプラノの川上茉梨絵さんに選んでいただいた自由曲の一つでもありました。

 

残念ながら、このオーディションは新型コロナ感染症蔓延防止のための緊急措置により、開催の前日に中止が発表されました。

 

茨城県立水戸第三高等学校音楽科を卒業後、東京藝術大学音楽学部声楽科を首席にて卒業し、同大学院修士課程音楽研究科声楽(オペラ)専攻修了した川上さんは、高校時にこの「茨城の名手・名歌手たち第16回」に声楽部門最年少でオーディションに合格しています。私は、同じく最年長で合格を目指していた次第なのでした。