 水氣道稽古の12の原則(12)意識性の原則(その2)

 

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心や精神と身体の繋がりは、心身医学や身体心理学(身心医学)で研究されています。心理学(心や精神の機能の科学)と生理学(身体の機能の科学)の境界も明確ではなく、むしろ連続性があります。

 

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今回は、身体心理学に関して皆様にお勧めの一冊をご紹介いたします。

 

動きが心をつくる<身体心理学への招待>

 

春木豊 著

 

講談社現代新書 

 

定価:本体860円(税別)

 

この本は、私の著書ではなく、しかも、水氣道に関する本でもありませんが、水氣道を理解する上で有益な基礎知識を比較的平易な表現で説明しています。水氣道の本質を理解していただく上で、皆様のお役に立つ本です。

 

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運動生理学おける古典的な基本法則として、ルー(Roux)3原則 が知られています。

 

これは「身体(筋肉)の機能は

①適度に使うと発達<活動性肥大の原則>し、

②使わなければ委縮(退化)<不活動性萎縮の原則>し、

③過度に使えば障害<長期にわたる過剰活動による器官の特殊能力減退の原則>をおこす」という3つの原則を束ねる法則として、ルー(Roux)の法則と呼ぶにふさわしいものです。
  

 

意識性の原則をトレーニングに活かすには、目的(ゴール)を明確にしおことが重要になります。

 

何よりもトレーニング計画を生み出すのは意識に他なりません。そして「トレーニング計画の立案」とは、トレーニングの目的を明らかにし、トレーニングの期間および内容(運動強度、運動時間、頻度)を決定するものです。
  

 

まずは目的を意識してそれを明確にします。たとえば、運動のパフォーマンス(重量挙げやジャンプの距離の記録)を高めるには外部(目指す結果)に集中すると結果が良く、筋肉の発達を高める為には内部(自分自身や筋肉の動き)に集中するのが良いようです。

 

次に、意識の方向性を明確にします。たとえば、筋肉量を増やしたいボディビルダーがベンチプレスをする時に胸の筋肉に意識を向けるように指導されます。

 

しかし、同じベンチプレスでも高重量を扱いたい訓練者は筋肉ではなくバーベルのシャフトや動きの軌跡に意識を向けたほうが目標を達成しやすいことになります。

 

さらに、意識の焦点を明確にします。トレーニング効果を最大化するには、パフォーマンスや動き・筋肉それぞれ必要なときに意識の集中を使い分けられることが重要です。

 

水氣道の稽古では、トレーニングの目的別に意識を変えていきます。水氣道の稽古では目的に応じて臨機応変に意識を切り替える方法を習得することになります。その場合、意識の焦点を必要に応じて、内部と外部両方に集中することが自在にできるようになることでパフォーマンスを最大化することができます。

 

 

内部に焦点を当てる方法(量の増大:補陰)

 

一般的なスポーツ理論では、筋肉量の増大が望ましい目標である場合、アスリートは内部に集中すべきであるとしています。

 

水氣道の稽古では、内部集中を促進させるために、筋肉の緊張、体の動き、テクニック、フォームに集中するよう指示することがあります。その理由は、内部集中を高めると、筋肉の発達や動作の学習に効果を高めることができるからです。

 

内部に注意する利点は、通常、筋肉の成長または筋力の増加を目的とするトレーニングプログラムに有効です。

 

水氣道の稽古やスポーツに限らず、高齢者の機能訓練や入院後のリハビリなどでも、ただ動作を伝えるだけでなく意識するべき筋肉や動作のポイントを口頭で伝えることでトレーニングの成果を高められる可能性があります。

 

『強く』とか『パワフルに』などの声かけは、内部的に注意を向けるよう指示する役割を果たします。

 

 

 

外部に焦点を当てる方法(質の向上:補陽)

 

外部に注意を向けたい場合には、外部に焦点を当てる必要があります。具体的には外部(パフォーマンスや結果)に意識を集中させます。重量挙げの記録や他の競技パフォーマンスは、特定の焦点または内部焦点よりも、外部集中を高めることによって精度が向上することがいくつもの研究で示されています。 

 

外部に焦点を当てるための具体的な方法としては、一般的には鏡を設置して自分の動きが確認できるようにしたり、ビデオ録画を行ったりする方法が有効です。しかし、水氣道では、水に身も心も委ねることができるために、鏡などを用いなくても、直接自分の身体感覚を通して、自分の動きを確認することができ、録画によって行為の後に確認するのではなく、動作中にリアルタイムで自分の姿勢や動きを感受することができるという利点があります。

 

水氣道の上級者はまた、下級者の学習を強化するために、フィードバックすべきです。追加で情報提供することによって、フィードバックが強化される場合があります。