アルベール・カミュ作 『ペスト』を読むNo2

 

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アルベール・カミュ(1913~1916)の『ペスト』の冒頭には、ダニエル・デフォー(1660頃?~1731)からの引用文が読者の注意をひきつけます。

 

デフォーは「ロビンソン=クルーソー」
で有名な英国の小説家で、1722年には『ペスト』を発行しました。

 

これはデフォーによる観察録風の小説です。のちにロンドンの大疫病として知られるようになる1665年のロンドン最後のペストの大流行について、一人の男の経験談がつづられているようです。デフォーは週刊誌「レビュー」を主宰するジャーナリストとして政治評論においても活躍しました。

 

 

Il est aussi raisonable de représenter une espèce d’emprisonnement
par une autre que de représenter n’importe
quelle chose qui exist réellement par quelque chose qui n’existe pas. 
DANIEL DE FOE

 

とある一種の監禁状態を他の一種のもので表現することは、
それが何であるにせよ、現存するものを現存しないもので表現するのと同様に理に適っている。 
ダニエル・ド・フォ

 

 

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この原文について、私はカンヌ出身の新進気鋭の若手写真家で、現在日本で活躍しているJeremy君に感想を求めたところ、「現存しないものを表現するなかに現実がある。さらには、現実とはあ現存しないものである。」というニュアンスを感じるといったような印象を受けるとのことでした。

 

カミュによるデフォーの引用は仏文で紹介されていますが、もとは英文だったと思われます。英・仏の異なる時代で『ペスト』という同じタイトルの小説が世に残されているということは、興味深いことです。デフォーによる作品がすでに知られているため、カミュとしては同じタイトルの小説を書くにあたって、冒頭に先輩であるデフォーの警句を引用したことは十分に理解できることです。

 

そこで、私としては、のっけから少々困ったことになりました。それは、まずデフォーのこの警句の出所が気になりだしたというこです。もとの英文にたどり着きたいというこだわりです。ひょっとすると、デフォーの『ペスト』の中に見出せるかもしれません。次に、デフォーの『ペスト』がカミュの『ペスト』よりおよそ200年も以前に書かれた作品だとしたら、まず、デフォーの『ペスト』を呼んでおくべきなのではないか、というこだわりです。カミュの冒頭のこの引用も、それを勧めているかのような暗示に満ちているからです。

 

ともあれ、カミュのペストを訳読していくことは決定事項なので、デフォーのペストも並行して読んでいく、ということで自分自身を納得させた次第です。
それでは、来週から、いよいよ物語を読み始めていきたいと思います。