ワクチン接種の可否について、私はこれまで仮説段階に過ぎない私見を述べることには慎重な立場でした。つまり、ワクチン接種を推奨することも抑止することも差し控えて参りました。
しかし、皆様の健康管理のために必要な医療情報を得るための問診であるとはいえ、クリニックでの診療中にワクチンの接種状況について確認すること自体が、患者の皆様にワクチン接種を間接的に推奨しているかのような影響を与えてしまうことに気が付きました。
しかし、クリニックの場を離れた私的なインテリジェント・エクササイズ集団である水氣道の稽古に参加されている同士(=会員)の皆様にだけは「コロナワクチンは十分には効かないので、仮にワクチンを接種しても油断しないでください!」と控えめにお伝えしてきました。デルタ株が主流になってからは、その他の皆様にも慎重にお伝えしています。
今回は、今年の5月下旬から、わたしが最も注目し続けてきた阪大医学部の荒瀬教授の研究報告をご紹介したいと思います。
この間、主要マスコミが積極的に取り上げて、政府においても十分検討され始めることを期待しておりましたが、一向にその気配がないまま解散・総選挙に突入する模様です。残念ながら、厚生労働省の公式サイトの質疑応答の内容でさえ最新の医学情報を反映しているとはいえません。
以下の紹介論文は内容が専門的で高度であるため、予め4つのキーワードを提示させていただいたうえで、論文の要約(全文)と考察(抜粋)に解説を試みました。
荒瀬論文の婉曲で慎重な言い回しに、真実を伝えることのご苦労のほどが伝わってくるような気がします。
用語解説:あらかじめ以下の4つのキーワードを把握していただけると、論文紹介がわかりやすくなります。
*1:ACE2=新型コロナウイルスが細胞へ感染するときの細胞表面受容体。
*2:RBD(Receptor Binding Domain)=受容体結合領域
新型コロナウイルスのスパイクタンパク質(Spike)がACE2と結合する領域。 閉じた構造のRBDはACE2に対する結合性が低いが、開いた構造のRBDが増えるとACE2に対する結合性が高くなり、感染性が高くなる。
*3:NTD(N-Terminal Domain)=N末領域
スパイクタンパク質(Spike)のアミノ酸のN末の領域。
阪大の荒瀬教授がその機能を解明中の領域。
*4: ADE(Antibody Dependent Enhancement)=抗体依存性感染増強
ウイルス粒子に抗体が結合することで感染が増強する現象。
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COVID-19関連追加(2021年8月25日)
抗NTD感染性増強抗体とDelta 4+について
★当院HP関連ファイル:
・新型コロナウイルス感染症まとめver3-2(2021年7月7日)ADEについて
【SARS-CoV-2 Delta変異は,野生型スパイクワクチンに対する完全な耐性を獲得する準備が整っている】
<Abstract(要約)>とその注釈⇒:飯嶋
mRNAベースのワクチンは,SARS-CoV-2のほとんどの一般的な変異ウイルス(⇒デルタ変異株以前の変異株)に対して効果的な防御を提供する。
しかし,今後のワクチン開発においては,ブレイクスルー変異ウイルスを特定することが重要である。
本研究では,Delta変異ウイルスが,抗N末端ドメイン(NTD)中和抗体(⇒ウイルスを解毒する抗体)から完全に逃れる一方で,抗NTD感染性増強抗体(⇒感染力を高めてしまう抗体)への反応性を高めることを発見した。
Pfizer-BioNTech社(⇒ファイザー社)のBNT162b2免疫血清はDelta変異ウイルスが,Deltaウイルスの受容体結合ドメイン(RBD)に4つの共通変異を導入すると(Delta 4+),BNT162b2免疫血清の一部が中和活性を失い,感染性が増強(⇒ワクチンが効かないだけでなく、むしろ感染力を高める)された。
BNT162b2免疫血清の感染性増強には,Delta NTDにおいて唯一の変異(unique mutations)が関与していた。
野生型スパイクではなく,Deltaスパイクで免疫したマウス血清は,感染性を高めることなく,一貫してDelta 4+変異ウイルスを中和した。
GISAIDデータベースによると,3つの類似したRBD変異を持つDelta変異ウイルスが既に出現していることから,このような完全なブレイクスルー変異ウイルスを防御するワクチン(⇒現在実施されているワクチンでは防禦できない)を開発することが必要であると考えられる。
<Discussion(考察)>の要点(抜粋・注釈⇒:飯嶋)
Delta変異(⇒新型コロナウイルスのデルタ株)は感染性が強く,完全ワクチン接種した人へのブレイクスルー感染がしばしば観察される(Lopez Bernal et al., 2021)。
このことから,完全ワクチン接種した人(⇒2回のワクチン接種を完了した人)の中和抗体は,Delta変異を防御するのに十分ではないと考えられる。(⇒それならば、3回目のブースター接種をすればよいのか?)
ほとんどの中和抗体はDelta RBDに結合し,感染を中和した。したがって,RBD変異だけでは,Delta変異に対するBNT162b2免疫血清の中和力価の低下を説明できない可能性がある。
Delta変異ウイルスは,広く使用されているmRNAワクチンの抗原成分である野生型スパイクタンパク質によって惹起される抗NTD中和抗体に対して完全に抵抗性(⇒ワクチンはまったく効果が無いということ)であることが示された。
一方,ほとんどの抗NTD増強抗体は,Deltaスパイクを野生型スパイクと同じレベルで認識し,一部の抗NTD増強抗体は,野生型疑似ウイルスと比較して,Delta疑似ウイルスによる感染性増強(⇒ワクチン接種でかえって感染力を高めてしまうということ)を示すことがわかった。
中和抗体の結合を無効にし,増強抗体の結合を維持するNTDの変異は,ウイルスにとって有益である(⇒人類にとっては有害である)と考えられる。
BDに4つの追加変異があるDelta変異は,NTDに唯一の変異(unique mutations)があるため,ほとんどのBNT162b2免疫血清で中和されなかった(⇒効果がなかった)。
さらに重要なことは,Delta 4+の感染性は,一部のBNT162b2免疫血清によって増強された(⇒より感染し易くなった)ことである。
Deltaスパイクを発現するmRNAワクチンの開発は,新たに出現するDelta変異の制御に有効であると考えられる。
しかし,中和抗体ではなく増強抗体のエピトープは,Delta変異を含むほとんどのSARS-CoV-2変異ウイルスでよく保存されている。
そのため,野生型のSARS-CoV-2に感染したことがある人や,野生型のスパイクタンパクからなるワクチン(⇒日本国内で接種が推奨されているファイザーやモデルナのワクチン)で免疫したことがある人では,SARS-CoV-2変異ウイルス由来のスパイクタンパクを追加で免疫することで,中和抗体よりも増強抗体が高まる(⇒免疫を得るどころか、かえって感染を招き重症化させてしまう)可能性がある。
メジャー変異ウイルスで観察されたRBD変異を含むが,増強抗体エピトープを欠く全スパイクタンパク質(whole spike protein)は,ブースターワクチンとして検討する必要があるかもしれない(⇒現在使用されているワクチンで3回目の追加接種するのは慎重に再考すべき!すでにワクチンを接種した方は、今後、新たに開発されたワクチンの成果を待って追加接種することが必要となる可能性がある!)。
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