【号外】Covid19 デルタ株の感染力が水痘(水ぼうそう)に匹敵する <感染力の真の意味について>

 

デルタ株が増えています。新型コロナウイルスの従来株と比較して感染力が強いことが世界的な脅威になっています。

 

米CNNテレビの報道で、米疾病対策センター(CDC)のワレンスキー所長は、新型コロナウイルスでインド由来のデルタ株が「これまで知られた中で最も感染力の強いウイルスの一つ」との見解を示しました。その感染力は、水痘(水ぼうそう)に匹敵するとの見方を示しました。

 

CDCの内部文書では、水痘(水ぼうそう)に匹敵する感染力を具体的に示し、感染者1人当たり8~9人程度に感染させるとしました。そして、デルタ株は中東呼吸器症候群(MERS)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、季節性インフルエンザなどより感染力が大幅に強いことを指摘しています。
 

この感染力は、基本再生産数(R₀)という指標であらわされます。これは、その病原体に免疫を持っている人がまったくいない集団において、1人の感染者が何人に感染させるかという数値です。つまり、数が大きいほど感染力が強いということになります。

 

これまで、新型コロナウイルスの基本再生産数(R₀)は従来株で2.5ぐらい、デルタ株は5~8ぐらいだとされていましたが、実際には水痘(水ぼうそう)と同等だとすれば8~10に改訂されたことになります。それだけデルタ変異株は感染力が強く、これまでの見解を訂正して、明確に空気感染するということを意味します。

 

しかし、実際の再生産数は2021年7月下旬の時点での東京では1.3程度でした。ただし、この場合の「再生産数」とは基本再生産数(R₀)ではなく、実効再生産数(Rt)の数値なのです。この違いは、基本再生産数(R₀)はまったくノーガードで、一切の感染防御対策を実施しなかった場合に最大限にどれぐらい感染者数が増えるかを示すのに対し、実効再生産数(Rt)は現実の世界で実際にどうだったのかを示すものだからです。

 

基本再生産数(R₀)と実効再生産数(Rt)の数値のギャップは、現実の世界では、人流抑制やマスク着用などの感染対策が取られているからです。また既感染やワクチンによって免疫を持っている人が一定数存在するからです。

 

政府コロナ分科会の尾身茂会長は5月21日の記者会見で、変異ウイルスによる感染拡大について「新しいデータが出てくれば訂正する必要があるが、こんな風に考えるといまのことが説明できるのではないのか」と前置きしたうえでではありますが、感染者が呼気から出すウイルスの排出量が多くなっており「いままでよりも感染しやすくなっていることはほぼ間違いないと思う」と語っていました。一方で、空気感染については「ちょっとすれ違って感染する、そういうことが私は起きていないと思う。それが起きているなら、いまこんな感染の状況では絶対にない」と語っていました。

 

しかし、この見解は、基本再生産数(R₀)と実効再生産数(Rt)の違いを御存じのはずの尾身先生としては、いささか政治的配慮に傾いた見解を述べてしまったのではないか、と思われてなりません。

 

実効再生産数(Rt)が1以上で続くのは、感染者数が指数関数的に増加することを意味し、きわめて危険な状態です。これまでは緊急事態宣言や、感染者数が増加して不安になった人たちの自粛によって、実効再生産数は低下しました。ただ、東京は7月12日から4回目の緊急事態宣言が発令され、ワクチン接種も始まっているにもかかわらず効果が表れていません。日本ではすでに約35%の方が少なくとも1回目のワクチン接種を受けていますが、緊急事態宣言も不安からの自粛もどちらも慣れが生じてしまうことは問題です。残念ながら東京オリンピックに伴う「お祭りムード」は感染対策にはマイナスの影響を与えます。ワクチンだけに頼って実効再生産数が1以下になることは、当面の間は期待できず、別の新たな対策が必要です。

 

実効再生産数(Rt)が1より大きいか小さいはきわめて重要です。

今後、最悪のシナリオが展開されたとしても感染者数は無限には増えません。対策を行わなくてもどこかで自然に減少します。爆発的に感染が拡大し、多くの人が(ときには後遺症を残しつつ)治癒するか死亡して免疫がない人が減れば、実効再生産数は自然に低下していくからです。これは、パンデミック初期の武漢や北イタリア、最近ではインドやインドネシアで起こった医療崩壊です。医療崩壊を避けるためには実効再生産数を下げる必要があります。

 

感染者数や重症者数の発表以上のみならず、死亡者数をはじめ後遺症患者数、実効再生産数(Rt)にも注目する必要があります。重症者数や死亡数は感染者数のピークから遅れて上昇するからです。実効再生産数(Rt)が1以上であれば何かしら有効な対策を追加すべきです。日本の感染者数が「自然に」減少する前に、なるべく早期に実効再生産数(Rt)が1未満となるような積極的に免疫力を増強させる予防法や積極的なセルフケア法の推進など有効な対策を推進していく道筋が見いだせることを願います。