週間特集: <コロナ蔓延下での実母入院騒動の顛末記> 報告からNo1

 

Covid-19の感染拡大を巡って、相変わらず先の見えない報道が、毎日流されています。感染者数、発症者数、入院・重症者数、死亡者数などが毎日更新されています。

また、経済全般に対する悪影響や不景気による自殺者の増加が懸念されていますが、問題はそれだけではありません。独居老人の健康管理が危機的な状況に陥っています。

これは外出制限による高齢者本人の生活不活発病の誘発による基礎疾患の増悪や新たな生活習慣病の発生に留まりません。高齢者の健康状態は短時間で急変することがあります。とりわけ高齢者の家族が遠隔地居住している場合は、深刻な問題になります。

 

「都・県の境をまたいでの移動の自粛」を呼び掛ける政府・自治体・専門家集団は、とりわけ独居高齢者と家族との絆を分断し、高齢者を危機に陥れています。こうした水面下で発生している問題について、よりきめ細やかな対応が
求められることになるはずです。
 

昨年5月の段階で、NHKはすでに新型コロナに感染した独居老人の孤独死を採りあげていますが、今年はさらに深刻度が増してくることでしょう。なぜなら、新型コロナに感染した高齢者ばかりでなく、感染していない高齢者の急変に対して、「見守り」が困難になるからです。

 

 

母は85歳で地方で一人暮らしです。「お産の他で入院したことはない」というのが自慢でした。そんな彼女が1月15日(金)に、突然、体調を崩し、<振戦、意識障害、歩行不能>の状態に陥ってしまいました。緊急的な医療が必要であった彼女が入院にこぎつけるために想像を絶する経験を致しました。


是非とも皆様の御参考にしていただきたいとの希望により、院長から特別な許しを得て、このブログにご報告させていただくことにしました。


初日:

2021年1月15日(金)朝7時、遠方に住む母の姉からの電話で、母が「電話に出ないので心配」という電話連絡を受け、兄に連絡し、安否の確認のために出向いてもらうことにしました。

兄が実家に到着する直前の午後7時頃、母の隣家の方から、私の母が「玄関の前で下着姿のまま震えているので、すぐに来て欲しい」との電話連絡が入りました。

間もなく東京から急遽駆け付けた私の兄が、連絡を寄越してくれた母の隣家の方と相談のうえ、救急車を呼ぶことにしました。

 

血圧(130/70㎜Hg)・脈拍数・呼吸・体温(35.3℃)などのバイタル・サイン(生命徴候)に異常がなく、動脈血酸素分圧濃度も正常であるとの理由で、救急隊員から搬送不可と言い渡されて、自宅待機を余儀なくされました。兄が何を問いかけても母は「大丈夫」の一点張りで、自分の名前を尋ねられても、娘(私)や孫たちの名前を質問しても力なく「大丈夫」という言葉を繰り返して呟くばかりでした。


救急隊員の判断である「バイタルに異常がない」というのは正確ではありません。なぜなら、ふだんの意識レベルよりもかなり低下していたからです。意識水準もバイタルサインの不可欠の一要素だからです。この意識水準の現場での評価方法次第で助けられる命を見落としてしまう可能性があるということを、直に経験しました。


日本の救急隊員や医療従事者は世界的にみて優秀であり、かつ、誠実であることは言うまでもありません。しかし、残念ながら救急隊員の「搬送可否」の判断基準や、医療機関の「入院可否」の評価基準は、先進国の水準には達していない可能性があります。

 

たとえば、救急要請に駆け付けた隊員は、傷病者の生命徴候(バイタルサイン)をチェックします。バイタルサインとは、身体観察で直ちに観察、評価できる身体徴候であり、生命活動の基本機能を反映するものです。具体的には、脈拍・血圧・呼吸・体温・意識レベルの5項目です。最近では、新型コロナ感染症による肺炎が問題にされるためか、動脈血酸素飽和度もチェックするようです。


これらのバイタルサインのうち、意識水準の評価は、他の4項目よりも技術を要します。日本ではJCS(ジャパン・コーマ・スケール:日本昏睡尺度)が広く使われていますが、国際的にはGCS(グラスゴー・コーマ・スケール:グラスゴー昏睡尺度)が有名です。


JCSでは、意識障害を、その程度、および経時的変化を客観的に評価することが容易であり、病状を誰でも把握できる指標であるというメリットがあります。これは頭部外傷や脳血管障害(クモ膜下出血)の急性期の脳ヘルニアの進行を評価することを目的にしています。


これに対して、GCSは外傷性脳障害による意識障害を評価することを目的にしています。外傷性脳障害、クモ膜下出血、細菌性髄膜炎、蘇生後脳症などの疾患症例の予後推定に有用だとされています。


明かに外傷性脳障害でない母に対しては、JCSによる評価が相当であると判断されても仕方がないのですが、実は、JCSには欠点があり、そこに大きな落とし穴があったことが後々明らかになってきました。

JCSの欠点とは、開眼機能、言語機能、運動機能のそれぞれの評価においてGCSの精度と比較して決定的に劣る点にあります。明かな外傷性脳障害でない場合でも、GCSはより有用であるということを学びました。

 


母を例として、2つの尺度による評価を比較してみます。

 

<JCSでは>

刺激しないでも覚醒している状態(1桁)

0清明
1意識清明とは言えない
2時・人・場所がわからない(見当識障害)
3自分の名前・生年月日が言えない

Restless(不穏)

⇒ 母は、すべて自分の名前を尋ねられても「大丈夫」しか言えず、その他の問いに対しても同様の反応でした。したがってJCS評価による意識水準は「3」ということになります。不穏をきちっと評価すれば「3R」と表記すべきかもしれません。

ただし、刺激することによって覚醒する状態(2桁)には至っていないため、この評価法では、軽度で一過性の意識障害であって、緊急性がないと判断されても仕方がありません。


しかし、JCSでは「呼びかけには反応するものの、閉眼のままである」ことの臨床的所見は無視されてしまうことになるのです。また、母は「終始動くことができず身体を硬直させたままの状態」でしたが、それも評価には反映されないということになります。

 


これに対して、

<GCSでは>

〇 開眼機能:開眼しない・・・E1

 

〇 言語機能:意味のない単語を発する・・・V3

 

〇 運動機能:病的屈曲(除皮質硬直)・・・M3

 

以上の3つの機能の合計点(3~15点)で評価します。

 

母の合計スコアは7点となり、GCS7(E1V3M3)と評価することができます。

これは15点満点中の7点というスコアですから、GCSでは母の意識障害(脳障害)の存在を強く示唆することになります。
  

私は現場に立ち会ったわけではなく、この日の様子を知ったので、上記の比較は、後で確認して行ったものです。私は、現場に立ち会っていた兄の情報から察して、当初から、脳梗塞の可能性も考慮していたため、母に「『地竜(ぢりゅう)』をのませて」と兄に頼みました。水に溶かしてスプーンで少量ずつのませて貰いました。これが、後ほど役に立ったことが判明していきます。
 

兄からのSOSもあり、翌朝、なるべく早い時間に母の所へ向かうことにしました。