線維筋痛症に関する国際学会報告(速報)No9

 

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昨年の3月にウィーンで開催された第1回の線維筋痛症の国際学会に参加してきましたが、残念なことに日本人医師は私一人でした。第2回の今年は、Covid-19パンデミックのため延期に加えてバーチャルでの開催となりました。

 

今回紹介する演題の抄録は、疾患概念のカタログのようであり、演者が言わんとすることのエッセンスはシェーマに示されているようではありますが、判別困難です。期待できる内容であるだけにバーチャル学会の限界を感じます。

 

ただし、small fiber neuropathy(小神経線維病)がキーワードの一つであることが示唆されます。

小神経細胞というのは神経線維の直径が小さい神経を意味しますが、その代表が自律神経です。

したがって、自律神経を疾患の主座として、自己免疫疾患との関連性を論じようとしているのではないかと推定します。

 

 

Autoimmune Dysautonomia

 

自己免疫性自律神経失調症

 


Yehuda Shoenfeld

(イェウダ・シェーンフェルト)

 

Sheba Medical Center, Israel

(シェバ医療センター、イスラエル)

 

 

Summary

 

Yehuda Shoenfeld MD, FRCP ,MaACR ,
Zabludowicz Center for Autoimmune Diseases, Sheba Medical Center, Tel-Aviv, Israel
Chronic fatigue syndrome, fibromyalgia, macrophagic myofasciitis, postural orthostatic tachycardia syndrome, complex regional pain syndrome, post-human papillomavirus vaccine syndrome/human papilloma virus vaccination associated neuroimmunopathic syndrome and sick building syndrome have been noted to share several major clinical features. Three of these disorders are included in the concept of autoimmune/inflammatory syndrome induced by adjuvants (ASIA), which sheds light on their autoimmune pathogenesis. In this paper we summarize the evidence regarding the role of autoimmunity in the seven outlined syndromes with respect to their genetics, autoimmune co-morbidities, immune cell subtype alterations, detection of autoantibodies and presentation in animal models. Furthermore, a symptom cluster of fatigue, dysautonomia, sensory disturbance and cognitive impairment which is common for all the syndromes is identified. We suggest a new concept of autoimmune neurosensory dysautonomia with common denominator of autoantibodies directed against adrenergic and muscarinic acetylcholine receptors with coexistent small fiber neuropathy, which might probably take part in the emergence of these symptoms. Possible modalities of therapy targeting autoimmunity and their efficiency in these seven outlined syndromes are also reviewed. Understanding the suggested concept may assist in identifying the subgroups of patients who may mostly benefit from targeted immunomodulatory therapeutic modalities.
Of therapy targeting autoimmunity in the outlined disorders. ASIA autoimmune syndrome induced by adjuvants, CFS chronic fatigue syndrome, CRP C-reactive protein, CRPS complex regional pain syndrome, FM fibromyalgia, ESR erythrocyte sedimentation rate, HPV human papilloma virus, IVIG intravenous immunoglobulin, MMF macrophagic myofasciitis, ND no data, POTS postural orthostatic syndrome, SCIG subcutaneous immunoglobulin.

慢性疲労症候群、線維筋痛症、マクロファージ性筋膜炎、体位性頻拍症候群、複合型局所疼痛症候群、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種後症候群/HPVウイルスワクチン接種関連神経免疫疾患症候群、シックハウス症候群は、いくつかの主要な臨床的特徴を共有していることが指摘されている。

 

これらの疾患のうち3つは、アジュバント(飯嶋:註1)によって誘発される自己免疫/炎症性症候群(ASIA)の概念(飯嶋:註2)に含まれており、これらの自己免疫疾患の発症機序に光を当てている。

 

本論文では、7つの症候群における自己免疫の役割に関するエビデンスを、遺伝学、自己免疫性合併症、免疫細胞サブタイプの変化、自己抗体の検出、および動物モデルでの提示に関してまとめた。

さらに、すべての症候群に共通する疲労、自律神経失調、感覚障害、認知障害の症状群を同定した。

 

これらの症状の出現に関与している可能性のある自己免疫性神経感覚障害の新しい概念を提案する。

また、自己免疫を標的とした治療法の可能性と、これらの7つの症候群におけるその有効性についても検討した。示唆された概念を理解することは、標的免疫調節療法の治療法が最も有益であると考えられる患者のサブグループを特定するのに役立つであろう。

 

概略された疾患における自己免疫を標的とした治療法について。

ASIA(自己免疫症候群)、CFS(慢性疲労症候群)、CRP (C反応性蛋白)、CRPS(複合性局所疼痛症候群)、FM(線維筋痛症)、ESR(赤血球沈降速度)、HPV(ヒト乳頭腫ウイルス)、IVIG(静脈内免疫グロブリン)、MMF(大食細胞性筋膜炎)、ND(データなし)、POTS(体位性頻脈症候群)、SCIG(皮下免疫グロブリン)。


註1:アジュバント

アジュバント (Adjuvant) とは、ラテン語の「助ける」という意味をもつ 'adjuvare' という言葉を語源に持ち、ワクチンと一緒に投与して、その効果(免疫原性)を高めるために使用される物質のこと。

広義には主剤に対する補助剤を意味するが、一般的には主剤の有効成分がもつ本来の作用を補助したり増強したり改良する目的で併用される物質をいう。

 

免疫学の分野ではアジュバントは抗原性補強剤とも呼ばれ、抗原と一緒に注射され、その抗原性を増強するために用いる物質である。

 

予防医学の分野では、ワクチンと併用することにより、その効果を増強するために使用される。

 

免疫学の分野ではアジュバントとは、抗原と抗原性を共有することのないままに、免疫を強化する物質の総称である。

ただし、アジュバントは、薬剤としての効果を期待すればするほど、薬害が不可避であることが知られている。またアジュバントが引き起こす病気(症状)、いわば「アジュバント病」ともいえる状態である。

 

註2:自己炎症性疾患

自己炎症性症候群(autoinflammatory syndrome)は、自己炎症性疾患、自己炎症疾患、自己炎症症候群とも呼ばれる。体質的に発熱などの炎症症状を繰り返す疾患である。

 

周期性発熱、原因不明の発熱・炎症所見を特徴とする一連の遺伝性疾患に対して、1999年、米国国立衛生研究所のカストナーらによって提唱された疾患概念。

 

確定診断には遺伝子検査が有用。典型例では臨床症状と検査所見で診断可能であるが、非典型例が存在することにも留意する必要がある。

 

自己炎症性症候群の責任遺伝子は自己免疫関連遺伝子のことが多く、遺伝子変異を伴うものを「(狭義の)自己炎症性症候群」、伴わないものを「(広義の)自己炎症性症候群」と定義している。

後者に分類されるものとして、全身型若年性特発性関節炎、PFAPA(周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・リンパ節炎症候群)、成人スチル病、ベーチェット病、痛風、偽痛風、シュニッツラー症候群、Ⅱ型糖尿病、慢性再発性多発性骨髄炎がある。

 

用語解説(飯嶋):

1)疾患概念

 ASIA(自己免疫症候群:アジュバント誘発性自己免疫疾患)

正式名称は、アジュバント誘発性自己免疫 / 自己炎症症候群

(Autoimmune/autoinflammatory syndrome induced by adjuvant)

イスラエルの免疫学者シェーンフェルド氏によって 2011 年に提唱された。

 

 CFS(慢性疲労症候群)

健康な生活を送っていた人が日常行動を損わしめるような著しい疲労感、倦怠感を生じ、かつ持続することを主徴とした原因不明の疾患。2005年より日本疲労学会においてより客観的に診断できる基準の策定が検討されている。また全身痛を主症状とした線維筋痛症とは近縁の病態とされる。

 

 CRPS(複合性局所疼痛症候群)
CRPSは契機となる外傷後などに,その外傷に比して不釣り合いな強い痛みやアロディニアのほか,浮腫,発汗異常,萎縮性変化などを伴う疾患です1)。CRPSの原因と発症機序は明確になっていませんが,単一の原因によって発症するというよりは複数の要因が複雑に関連して発症する多因子疾患であると考えられています。

 

ワクチン接種によってCRPSを発症したとする症例報告がありますが、ワクチン成分は様々で,CRPSは些細な外傷や採血行為によっても発症することから、ワクチン成分よりも針刺し行為(注射)という痛みを伴うイベントが原因として考えられています。


CRPSを発症しやすい条件として,女性,複雑骨折,上肢遠位の骨折,外傷後の強い痛みが知られています2)。CRPSを発症しやすい心理傾向や性格はない3)とされますが,患肢の過度な不動化のように外傷後早期から運動機能の低下が観察される患者はCRPSを発症しやすいとした報告2)があります。

また,患肢運動により痛みを惹起することに対して恐怖心を持っている患者では運動機能が低下していること4)等から,痛みに対する恐怖心を持ちやすい性格傾向の患者では患肢をかばう行動が顕著になりCRPSを発症しやすいのではないかと考えられます。

 

特に,小児・思春期の患者においては,患者だけでなく痛みや運動に関連する家族の不適切な恐怖心がCRPSの発症に関連5)することが考えられており,逆に,家族が患肢の運動を行うように患者に対して積極的に働きかけるとCRPSの発症率が少ないとする報告6)もあります。

 

その他,医療行為を含む第三者行為によって発症したCRPS患者を診療する機会が少なくないことから,心理社会的要因(被害者感情,経済的補償など)も誘因になると考えられています7)。

 

【文献】

1) Sumitani M, et al:PAIN. 2010;150(2):243-9.

 

2) Birklein F, et al:Nat Rev Neurol. 2018;14(5): 272-84.

 

3) Convington EC:Progress in Pain Research and Management 6. IASP press, 1996, p192-216.

 

4) Osumi M, et al:Med Hypotheses. 2018;110: 114-9.

 

5) Simons LE:Pain. 2016;157(Suppl 1):S90-7.

 

6) Braus DF, et al:Ann Neurol. 1994;36(5):728-33.

 

7) Ochoa JL:J Neurol. 1999;246(10):875-9.

 

【回答者】住谷瑞穂 神尾記念病院、住谷昌彦 東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部部長/麻酔科・痛みセンター准教授

 

 

 POTS(体位性頻脈症候群)

体位性頻脈症候群(Postural orthostatic tachycardia syndrome, POTS )は起立不耐症(Orthostatic Intolerance, OI)の1つである。起立不耐症は、身体が横になっている状態から立位へと動かした時に、心臓に戻る血液量が著しく減少して、立ちくらみや失神などの症状が現れる。

 

POTSでは、立位により心拍数が急上昇して立ちくらみや失神などの症状が現れる。横になると症状がやわらぐ。年齢によらず発症しますが、米国では15歳~50歳の女性に好発しやすい(75~80%)と言われている。月経前に症状が悪化する場合がある。

 

POTSは妊娠、手術、身体的精神的外傷、ウイルス感染後の発症がしばしば見られ、失神やめまいで労作が難しい場合がる。立位で心臓に戻る血液量が減少する原因や、頻脈となる原因はまだはっきりわかっていない。しかし最近の研究では、神経障害性、高アドレナリン性、身体機能低下性などのさまざまなメカニズムがあると考えられている。

 

POTSは起立不耐症状が特徴的で起立時に心拍数が急上昇する。

 

また以下のようなさまざまな症状があらわれることがある。

目がぼやける、立ちくらみ、めまい、失神、動悸、頭痛、集中力の低下、疲労感、
胃腸障害(吐き気、腹痛、腹部膨満感、便秘、下痢)、息切れ、頭部・頸部・胸部の不快感、脱力、睡眠障害、活動困難、四肢の冷えや痛み、不安感

 

参考

 

1. The National Institute of Neurological Disorders and Stroke, NINDS Postural Tachycardia Syndrome Information Page

 

2. Genetic and Rare Diseases Information Center, GARD Postural orthostatic tachycardia syndrome

 

 

 マクロファージ(大食細胞)性筋膜炎

あまり一般的ではない疾患名です。今後注目される可能性はあります。

 

 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種後症候群/HPVワクチン接種関連神経免疫疾患症候群

HPVワクチン接種後に発症することが話題になっている症候群です。未だ一般的には認められていないようですが、今後の検討が望まれます。

 

 シックハウス症候群
近年、住宅の高気密化などが進むに従って、建材等から発生する化学物質などによる室内空気汚染等と、それによる健康影響が指摘され、「シックハウス症候群」と呼ばれている。その症状は、目がチカチカする、鼻水、のどの乾燥、吐き気、頭痛、湿疹など人によってさまざまである。

シックハウス症候群の原因としては、住宅の高気密化・高断熱化などが進み、化学物質による空気汚染が起こりやすくなっているほか、湿度が高いと細菌、カビ、ダニが繁殖しやすくなる。

それだけではなく、一般的な石油ストーブやガスストーブからも一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物などの汚染物質が放出される。たばこの煙にも有害な化学物質が含まれている。

シックハウス症候群は、それらが原因で起こる症状である。人に与える影響は個人差が大きく、同じ部屋にいるのに、まったく影響を受けない人もいれば、敏感に反応してしまう人もいる。

 

生活環境におけるシックハウス対策(厚生労働省HP)

 

 

2)炎症指標関連:

以下のいずれも線維筋痛症では異常を認めないのが普通です。

 

 CRP (C反応性蛋白)

 

 ESR(赤血球沈降速度)

 

 

3)治療法関連

 IVIG(静脈内免疫グロブリン)

 

 SCIG(皮下免疫グロブリン)