第3週:消化器・肝臓病・腫瘍医学、自己免疫性膵炎(AIP)

 

無症状で経過する病気は数多くあります。中には自然寛解する例のある疾患もあります。そのような疾患の一つに自己免疫性膵炎(AIP)があります。

 

内科系のリウマチ専門医は、中核病院等では「リウマチ膠原病科」と表記されていることも多く、自己免疫疾患を一挙に引き受けています。この自己免疫性膵炎(AIP)は、膵臓を専門とする消化器内科やリウマチ膠原病科が診療を担当しています。

 

AIPには2つの型があります。

1型は高齢男性に多く、しばしば閉塞性黄疸、肝機能異常、糖尿病の増悪などで発症します。

また、膵外病変として、硬化性胆管炎、硬化性涙腺・唾液腺炎(ミクリッツ病)、後腹膜線維症、腎病変など、他臓器のIgG4関連疾患が、同時性・異時性にしばしば合併します。

 

これに対して、2型は中年の男女に多く、急性膵炎様症状で発症することが多く、潰瘍性大腸炎(UC)などの炎症性腸疾患(IBD)が合併することがあります。

 

診断のきっかけは、腹部超音波検査によることが多いです。

膵臓の腫大を見出し、高エコースポットの散在を確認することで、この疾患を疑います。

しかし、限局性膵腫大や主膵管の拡張は膵がんや下部胆管がんなどとの鑑別が必要です。

そのためには造影法を含むCT検査、MR胆管膵管撮影(MRCP)検査や内視鏡的逆行性胆管造影検査などで精密に評価することが必要です。

 

AIPは免疫グロブリンのIgG4関連疾患の膵病変と位置付けられており、これは膵の病変部にIgG4陽性形質細胞浸潤を伴う慢性の膵炎です。

わが国では中高年男性に好発し、血中IgG4、IgGの上昇を認めることが多いです。その他、抗核抗体、リウマトイド因子(RF)などの自己抗体の出現、IgEや好酸球の上昇を伴うことも多いです。

補体C3およびC4もしばしば低下します。これらは、一般の内科医にとってはやや特殊な項目ですが、アレルギー専門医やリウマチ専門医にとってはなじみ深い検査項目です。

 

このAIPという疾患は、無症状で膵内分泌、外分泌機能が保たれている症例では経過観察を行います。

しかし、症状がある例や、無症状であっても膵内分泌、外分泌機能に将来的に課題を残しそうな場合には寛解導入目的でステロイド治療を第一選択とします。その一方で、経過中に膵外IgG4関連疾患が顕在化するほか、膵以外の多臓器に悪性腫瘍を合併する例も報告されておりAIPの治療に際して悪性腫瘍との鑑別は常に念頭に置く必要があります。

 

最終的には精密検査によって診断が確定するとしても、発見のきっかけになるのは日常診療の現場です。逆に言えば、日常の外来診療の水準が向上しない限り、これらの疾患に対する効果的な治療に結びつけることは難しいということになります。

 

地域自治体の健診には基本的な血液検査項目がありますが、残念ながら直接自己免疫性膵炎(AIP)の診断に繋がる項目は含まれていません。

しかし、職場検診や人間ドックでは腹部超音波検査が含まれていることがあるので、ある程度役に立つことでしょう。

ただし、間接的には、血糖、ヘモグロビンA1c、トランスアミナーゼ(AST、ALT)、総ビリルビンなどは1型のAIP、膵アミラーゼは2型のAIPを示唆する可能性があります。

 

私は症状が現れにくい疾患や原因が解明されていない多くの疾患の早期発見のためにも、3カ月に1回(四季の季節ごと)の血液検査と、半年に1回程度の腹部超音波検査は有用な検査だと考えております。