第3週:消化器・肝臓病・腫瘍医学、自己免疫性肝炎(AIH)

 

 

令和の時代になっても、世の中の人々の多くは、「症状なければ病気なし」と信じ込んでいるように思われます。

このようなタイプの人に、予防医学の必要性を説くのは容易ではありません。

 

わたしは、貴重な外来診療の時間を、そのような不毛な説得に充てることは30年目をもって卒業させていただくことにしました。

その代わりに勤勉で誠実な皆様のための時間をより多く確保し、可能な限りの奉仕をすべきだと考えるようになりました。このサイトも、そうした皆様のために公開しています。

 

「予防は保険が効かないのでしょう?」という程度の価値観の方は、高円寺南診療所の初期の時代は多数派を占めていましたが、杉並国際クリニックでは少数派となりました。

健康のための投資を節約した結果、節約できたのが健康寿命だけだった、というのでは余りに寂しい話です。

 

それでも私自身は、必要不可欠な予防や健康増進については健康保険でカバーされれば、トータルとしての医療費が削減され、介護保険の支出も大幅に低下するのではないかという意見を持っています。

勤勉に健康管理に努めているような人々が、自分たちだけでなく国を支えている主役なのです。

ですから、国や自治体は国民の予防活動をもっと支援しなければ、品格ある文化は生まれないし、経済的にも繁栄は期待できないし、公正な政治は実現しないものと考えています。

 

さて、皆さまが受けていらっしゃる健康診断などで肝機能異常が指摘されたことがあるでしょうか。

全身倦怠感、食欲不振、黄疸などの症状を伴っていれば急性肝炎を疑います。

また、診断時に肝硬変へ進展している症例では、くも状血管腫、下腿浮腫、腹水をみとめることがあります。

しかし、圧倒的に多いのは無症状である場合です。「症状なければ病気なし」と信じ込んでいるような方は、健康診断を受けることも少なく、永年<医者知らず>を自慢してさえいることが少なくないものです。

それでも、たまたま受けることになった健診で肝機能異常が指摘されたとたんに心配になり夜も眠れないという方がいらっしゃいます。

 

当クリニックで経験する肝機能障害のほとんどは脂肪肝で、アルコール性肝障害、薬剤性肝障害それからウイルス性肝炎がほとんどです。

 

まず問診が大切であって、輸血歴、薬物・サプリメント服用歴(要注意!)、飲酒歴などを尋ねます。

最近では、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が注目されています。

 

しかし、免疫・炎症性疾患に詳しくなくてはならない、アレルギー・リウマチ専門医としては、見落とせない肝疾患があります。その代表が自己免疫性肝炎(AIH)です。

 

AIHは、中年以降の女性に好発し、慢性、進行性に肝障害を来し疾患です。

この病気は、何らかの機序により自己の肝細胞に対する免疫寛容が破綻し、自己免疫反応によって生じます。

わが国では遺伝的素因としてヒト白血球抗体(HLA)-DR4との相関があります。発症の誘因としては、先行する感染症や薬剤服用、妊娠・出産との関連が示唆されています。

 

血液検査では、健診項目に含まれるトランスアミナーゼ(AST,ALT)の異常が発見のきっかけになることが多いです。

追加すべき項目としては、自己免疫抗体(抗核抗体、抗平滑筋抗体、さらには抗LKM-1抗体)、免疫グロブリンIgGなどです。

 

その結果、自己免疫性肝炎(AIH)を疑うべきであるならば、単純CT、最終的には肝生検によって確定診断を得ます。

 

発症パターンには急性と慢性のいずれもがあります。急性発症では抗核抗体陽性やIgG高値を認めないことがある一方で、急性肝不全の対応が予後の改善に重要なので留意します。

 

わが国におけるAIHの10年生存率は90%以上と良好ですが、約20%が肝組織の線維化が進んだ肝硬変例であり、肝細胞癌も3~5%に合併することを忘れてはいけません。

 

AIHの治療目標は、トランスアミナーゼとIgG値の正常化、組織学的炎症と線維化の改善、そして持続した寛解状態を得ることです。

 

「症状なければ病気なし」は完全に否定されるべき誤った信念(思い込み)です。健康診断の機会は、職場、自治体のものを問わず逃さないようにして、積極的に活用してください。