胃食道逆流症(GERD)
胃食道逆流症(GERD)において、咳は食道外症状(咳、喘息、咽喉頭違和感/咽喉頭炎、歯牙酸蝕、中耳炎、副鼻腔炎ならびに睡眠障害等)の1つです。本邦でのGERDの有病率の増加に伴い、GERD咳も増加傾向です。
GERD咳嗽は慢性咳嗽の原因としては、咳喘息に次ぐ高頻度です。しばしば複数の疾患によって引き起こされ難治性咳嗽の病態に関与していますが、大半は咳喘息と合併しています。一方で、典型的な食道症状(胸やけ、おくび、呑酸ならびに非心臓性疼痛)を伴わないことも多く、咳の罹病期間が長期に及び、生活の質を低下させます。
診断に難渋することが多く、Fスケール等の質問票の活用やプロトンポンプ阻害薬(PPI)(に加えて消化管運動機能改善薬の併用がGERD咳嗽の診断・治療に対して有用な可能性があります。
GERDは、胃食道逆流により引き起こされる食道粘膜傷害と煩わしい症状のいずれかまたは両方を引き起こす疾患です。食道粘膜傷害を有するものを「びらん性GERD」、症状のみを認めるものを「非びらん性GERD」として2分類します。
GERD咳嗽の発症機序:
反射性機序によるものが主であるため日中のみに生じることが多いです。
・びらん性GERDでの咳嗽は夜間、臥床時に多く、下部食道括約筋(LES)圧低下による 胃酸や逆流胃内容物による刺激により咳が生じます。
・非びらん性GERDでの咳嗽は昼に多く、胃酸や胃内容物が下部食道の迷走神経受容体を刺激して咳中枢を介する食道気管支反射により咳が生じている可能性があります。
また咳による経横隔膜圧の上昇、胃食道蠕動の障害等が、さらなる酸/非酸、胃内容物の逆流を誘発し、咳を悪化させる悪循環サイクルも示唆されています。
まず、3週以上の咳を主訴に患者が来院した場合、ガイドラインに則り、胸部エックス線撮影を行い、肺癌、肺結核ならびに間質性肺炎等の器質的疾患を除外する。先行感染の有無の確認も重要である。
聴診で喘鳴が聴取されれば、咳優位型喘息を疑い、ICSを中止とする中心とする抗喘息治療を考慮する。
喘息治療を行っても咳が残存する場合、あるいは初診時の時点で喘息の有無を問わずに胸やけ等の食道症状の存在、誘因としての会話時・食後・起床直後・就寝直後・体位変換(上半身前屈時)の悪化、体重増加に伴う悪化ならびに亀背の存在の可能性を疑う
この際にFスケールの点数(7点以上)も参考になる可能性がある
FスケールでFD症状スコアが酸逆流症状スコアよりも高値であれば、PPIと消化管運動機能改善薬の併用療法が有用である可能性が高いです。
もし、末梢血好酸球数(150/μl以下)、呼気NO濃度(正常範囲)、肺機能検査(正常範囲)であれば、診断の補助になります。
GERD咳嗽は診断が困難な疾患の1つではあるが、問診による咳の誘発因子/時間帯、Fスケール等の質問票の情報を用いることで、ある程度、GERDによる咳を疑うことが可能であり、早期に治療介入を行うことができます。
GERD咳嗽の確定診断は、薬物療法(PPI,消化管運動機能改善薬)ならびに肥満・食生活の改善により、咳が消失または緩和することの確認によって行います。
GERDの治療:
1)食事療法を含む生活指導を基本に据えておくことが望ましいです。
禁酒、禁食(就寝前の飲食全般・高脂肪食・チョコレート・炭酸飲料・柑橘類・トマト)
禁煙ならびに減量
2)薬物療法
第一選択薬は高用量のプロトンポンプ阻害薬(PPI)3カ月*間内服
<食道症状に比し、咽喉頭症状や咳の改善には時間を要します>
PPIは第一選択薬とはされるものの、治療反応性は他の遷延性/慢性咳嗽の原因疾患に比して不良であり、単剤での効果はしばしば不十分です。
*PPIは最長でも8週までしか保険適応がみとめられないため、その後はH₂遮断薬(ガスター®など)を処方することが多くなります。
杉並国際クリニックではタケキャブ®の成績が最も良いようです。
ただし、食道症状を伴わない場合はPPI単独治療は行いません。
PPIのみでは効果が不十分なことが多く、その場合には消化管運動機能改善薬を追加します。杉並国際クリニックは以下の薬剤を使い分けています。
・ガナトン® 相互作用が少ないため第一選択としています。
・アコファイド® 食後早期の上腹部膨満感がみられる場合には良く効きます。
・セレキノン® 過敏性腸症候群を合併していケースで用います。
・ガスモチン® 肝障害のない場合に選択します。
しかし、上記の薬剤で経過が改善していく場合は、順次漢方薬に置き換える治療戦略をとっています。
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