第1週:呼吸器・腎臓病、咳嗽の臨床No3

アレルギー関連咳嗽(咳喘息・アトピー咳嗽/喉頭アレルギー)

 

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 咳喘息
咳喘息は喘息の亜型であり、「喘鳴や呼吸困難を伴わない慢性咳嗽が唯一の症状、呼吸機能はほぼ正常、気道過敏性は軽度亢進、気管支拡張薬が有効な疾患」と定義されます。


咳喘息という疾患概念は、近年、随分広く浸透してきました。この疾患は慢性咳嗽患者の約半数を占めます。そのため、迅速かつ正確に診断し、早期に的確な治療を行うことによって、これまでのように長年、咳嗽で困っている患者の生活の質(QOL)を速やかに改善させるだけではなく、典型的な喘息への移行を抑えるという観点からも重要です。咳喘息は、喘息と同様に、典型例では夜間から早朝に悪化します。

 

その多くは好酸球性気道炎症を伴い、典型的喘息と同様に気道の構造再編(リモデリング)も生じ得ます。咳感受性の亢進が喘息の難治化へ関与することが注目され、咳は喘息の病態生理や治療戦略を考えるうえでの重要な指標でもあります。したがって、診断に際し、特に気管支拡張薬の有効性を確認することが重要です。また、気道過敏性亢進、呼気一酸化窒素上昇、末梢血/喀痰好酸球増多は診断の参考となります。

 

治療は、吸入ステロイド薬をベースに、必要に応じて、気管支拡張薬やロイコトリエン受容体拮抗薬を併用します。特に吸入ステロイド薬治療の遅れが数年後の喘息発症に関わるとされています。

 

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咳喘息の診断基準

 

 下記1~2のすべてを満たす

 

1. 喘鳴を伴わない咳嗽が8週間以上*持続聴診上もwheezesを認めない

 

2. 気管支拡張薬(β₂刺激薬など)が有効

 

*:3~8週間の遷延性咳嗽であっても診断できるが、3週間未満の急性咳嗽では原則として確定診断しない.

 

 

 参考所見(特に後2者は有用)

(1) 末梢血・喀痰好酸球増多、FeNO濃度高値を認めることがある

 

(2) 気道過敏性が亢進している

 

(3) 咳症状はしばしば季節性や日差があり、夜間~早朝優位のことが多い

 

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咳喘息の治療は、診断確定後には、典型的喘息と同様にステロイド吸入療法を行ないます。

 

治療にあたっては、重症度(軽症、中等症以上)の評価が大切です。そのうえで長期管理薬と発作治療薬とを組み合わせます

 

 軽症とは症状が毎日ではなく、日常生活や睡眠が妨げられるのは週1回未満、夜間症状も週1回未満の場合です。長期管理薬としては中用量(400μg/日)の吸入ステロイド薬(ICS)、これが使用できない場合には長時間作用性β₂刺激薬(LABA)を代替療法として用いることとされます。発作時治療は短時間作用性β₂刺激薬(SABA)を頓用し、効果不十分の場合に限って数日間のみ経口ステロイド薬を併用します。

 

杉並国際クリニックで推奨する吸入ステロイド薬は以下の2種類です。

 

・オルベスコ®声を酷使する方、免疫力が低下した方に対して安全(嗄声、口腔内カンジダなどの局所副作用が問題となる場合に安全)

 

・パルミコート®妊娠可能な年代の女性、妊婦に対して安全(先天奇形発現、妊娠合併症に影響されない)

なお、当クリニックにおいては長時間作用性β₂刺激薬(LABA)単独使用は避けています。

 

 中等症以上での長期管理薬としては、吸入ステロイド薬(中容量から高用量)とLABAの併用、またはロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)、テオフィリン徐放性剤、その他の抗アレルギー薬

 

 難治例では抗メディエーター薬(トロンボキサン受容体拮抗薬など)が著効することがあります。

 

杉並国際クリニックでは、ブロ二カ®を第一選択としますが、アレルギー性鼻炎を合併している場合にはバイナス®を用いています。

 

 

 アトピー咳嗽/喉頭アレルギー
咳嗽は、最も頻度の高い症状の一つです。しかし、難治性咳嗽の病態は十分に解明されていないことが多く、そのため精度の高い病態診断が確立していません。したがって容易に原因を特定することができないことも多いです。そこで臨床の現場においては治療的診断を行うことが役立ちます。

 

アトピー咳嗽、喉頭アレルギーは、わが国における頻度の高い慢性咳嗽の原因疾患であり、日常診療では治療的診断が行われます。喉頭アレルギーは、喉頭中心にⅠ型アレルギー病変を認め、アトピー咳嗽では、中枢気道に限局した好酸球性下気道炎症を認めます。

 

診断には咳喘息や胃食道逆流症等との鑑別が必要となりますが、合併例も多く経験されます。

 

各疾患の治療可能な特性(treatable traits)を見出すことが重要です。

 

診断的治療で改善が得られない場合は、合併症や他疾患にも注意を払う必要があります。

 

 

 アトピー咳嗽を疑うポイント

咽喉頭の掻痒(イガイガ)感を伴うことが多いです。咳嗽が多い時間帯は、就寝時、深夜から早朝、起床時、早朝起床後の順位多いです。誘因としては、上気道感染、気温・湿度・気圧の変化、会話や電話、ストレス、受動喫煙ならびに運動等が挙げられます。

 

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アトピー咳嗽の診断基準

 

診断基準1~4のすべてを満たす.

 

1. 喘息や呼吸困難を伴わない乾性咳嗽が3週間以上持続

 

2. 気管支拡張薬が無効

 

3. アトピー素因を示す所見(注1)または誘発喀痰中好酸球増加の1つを認める

 

4. ヒスタミンH₁受容体拮抗薬または/およびステロイド薬にて咳嗽発作が消失

 

註1.アトピー素因を示唆する所見

1) 喘息以外のアレルギー疾患の既往あるいは合併

2) 末梢血好酸球数増加

3) 血清総IgE値の上昇

4) 特異的IgE抗体陽性

5) アレルゲン皮内テスト陽性

 

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アトピー咳嗽の治療で重要なのは、診断が即、治療に通じることです。
まず咳喘息との鑑別診断目的で気管支拡張薬が無効であることを確認します。
次いで初期診断的治療目的でヒスタミンH₁受容体拮抗薬を1~2週投与します。
杉並国際クリニックではアレグラ®もしくはアレジオン®の成績が良好です。
咳嗽が改善すれば、アトピー咳嗽と治療的診断をします。

 

改善があっても不十分な場合はステロイド薬(可能な限り吸入、例外的に内服)の併用を検討するとともに、他の疾患がないか再検討しています。

なお、長期予後では典型的喘息へは移行しないとされています。

 

 

 喉頭アレルギーを疑うポイント

喉頭アレルギーは、鼻や口腔より吸入された抗原により喉頭粘膜に引き起こされたⅠ型慢性アレルギー疾患です。しかし、その抗原の種類によって、季節性喉頭アレルギーと通年性喉頭アレルギー(慢性)に分類されます。

 

花粉症による喉頭アレルギーは以前より良く知られており、

・成人スギ花粉症患者の40%超に喉頭症状、約30%に咳嗽を認めます。

・シラカンバ花粉症の55%に季節性喉頭アレルギーを認めます。

 

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通年性喉頭アレルギー(慢性)の診断基準

1. 喘鳴を伴わない8週間以上持続する乾性咳嗽

 

2. 8週間以上持続する咽喉頭異常感
(痰のからんだような感じ、掻痒感、イガイガ感、チクチクとした咽頭痛など)

 

3. アトピー素因を示唆する所見(注1)の1つ以上を認める

 

4. 急性感染性喉頭炎、非特異的喉頭感染症(結核、梅毒、ジフテリアなど)、
喉頭真菌症、異物、腫瘍など、その他の咳や異常感の原因となる局所所見が無いこと(典型的所見としては披裂部蒼浮腫状腫脹を認める)(注2)

 

5. 症状にヒスタミンH₁受容体拮抗薬が有効(注3)

 

注1:アトピー素因を示唆する所見

1) 喘息以外のアレルギー疾患の既往あるいは合併

2) 末梢血好酸球増加

3) 血清総IgE値の上昇

4) 特異的IgE陽性

5) アレルゲン皮内テスト即時型反応陽性(1つ以上認める)

 

 

注2:必要に応じて耳鼻咽喉科専門医による喉頭内視鏡所見による確認が望ましい。また、下気道疾患、胃食道逆流症、後鼻漏症候群の鑑別も必要に応じて行う。

 

注3:有効とは自覚症状の50%以上の改善とする。

*季節性の診断基準は下線部を「原因花粉飛散時期の前後を含めた」に読み替えたものである。

 

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喉頭アレルギーの治療は、ヒスタミンH₁受容体拮抗薬が基本となります。杉並国際クリニックでは、まず、予防段階から漢方薬を開始しておき、季節性タイプにはアレグラ®もしくはアレロック®、通年性タイプにはジルテック®を追加すると少量で高い有効性が得られています。効果不十分の場合には吸入ステロイド薬を追加することがあります。また、スギ花粉症、水様性後鼻漏を合併している場合には点鼻ステロイド薬を併用します。