特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の主症状は出血です。皮下、粘膜および深部の出血に大別されます。
その他に所見がある場合は、むしろ鑑別疾患に役に立ちます。
血小板を破壊するのは脾臓なので、脾機能亢進に伴い脾臓腫大(脾腫)傾向になることはありますが、蝕知可能な脾腫がある場合は、むしろ肝硬変、悪性リンパ腫、サルコイドーシスなどを考えます。また、関節痛、レイノー現象、光線過敏症があれば、膠原病関連ITP(二次性ITP)を考えます。それでは、提示の症例を見てみましょう。
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❶ 21歳の女性。
❷ 他院で9歳時に特発性血小板減少性紫斑病の診断を受け、
❸ γ-グロブリン大量療法、プレドニゾロン療法を受けたが、治療抵抗性であったため、
❹ 現在は治療を中止し無治療で血小板2万程度を推移している。
❺ 経過中出血傾向はほとんどなかった。
❻ 現在妊娠28週で血小板2.3万/μL、
❼ 出産を希望している。
❽ なお、母と弟も血小板減少を指摘されている。
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特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の主症状は出血に関して、❺ 経過中「出血傾向はほとんどなかった」とあります。それでは、血小板数がどのくらいに減少すれば出血傾向がみられるのでしょうか。
血小板が5万/μL以上では無症状であることが多いとされます。血小板が3万~5万/μLになると打撲後の皮下出血である紫斑を認めます。
この症例の血小板数は❹ 現在は治療を中止し無治療で「血小板2万程度」を推移しているとあるので、打撲を経験すれば紫斑が認められた可能性があります。
逆に言えば、打撲などのけがをしないように慎重に過ごしていれば紫斑は生じないかというと、そうではありません。
血小板数が1万~3万になると、打撲が無くとも皮下出血(点状出血と紫斑)を認めるとされます。
したがって、❻ 現在妊娠28週で血小板2.3万/μL、❼ 出産を希望している、というように、このような状態のままで妊娠を継続し、出産となると出血のリスクが高まります。また、更なる血小板数減少はさらに大きな生命リスクとなります。
血小板数が1万/μL以下に減少すると、粘膜出血(鼻血、口腔内出血)を合併し易くなります。また、子宮筋腫や子宮内膜症の女性患者では、過多月経による鉄欠乏性貧血を合併することもあります。その他の粘膜出血としては膀胱出血による血尿、消化管出血を認めることがあります。
粘膜出血のなかでも、口腔内出血や不正性器出血を合併した場合、稀ではありますが深部出血(脳、肺、消化管)を合併することがあり、その場合には死亡することがあるので注意を要します。
ですから、❻ 現在妊娠28週で血小板2.3万/μL、と言うのは、とても危険な状態であるということができます。ITP患者は健常者と同じように妊娠できます。原則として自然分娩が可能ですが、難産により緊急帝王切開が必要になることを想定しておく必要があります。
そのような場合に備えて分娩前に血小板数を5万/μL以上に増やしておくことが望ましいとされています。
なお、ITP患者から生まれた新生児の約1割は一過性に血小板減少を示します。これは胎盤を通じて、母体から血小板に対する自己抗体が新生児(胎児)に移行して発生します。そしてITPは遺伝しないとするテキストもありますが、先天性血小板減少症という類型がある以上、遺伝性についても考慮すべきであると考えます。
❽ なお、「母と弟も血小板減少を指摘」されているという症例情報が、先天性血小板減少症あるいは遺伝性を示唆する情報では内科と考えます。
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