第5週:血液病・循環器 


私が専門とするアレルギー科・リウマチ科は免疫・炎症疾患のすべてにかかわりがあり、そのために新型コロナウイルス感染症(Covid-19)にも特別の関心を抱いています。

 

アメリカでも27の国立衛生学研究所の一つである、米国国立アレルギー・感染症研究所 (NIAID; National Institute of Allergy and Infectious Diseases) が、ドナルド・トランプ大統領に対し、Covid-19対策などの助言をする立場にあります。すっかり有名になった所長のアンソニー・ファウチは、免疫学を専門とする医師です。

 

新型コロナウイルス感染症(Covid-19)においても、発症の契機は原因が明確なウイルス感染症であっても、重症化病態の中心は非感染性の過剰な炎症であることが指摘されています。つまり、免疫・炎症疾患として捉えることが可能です。このようにアレルギー科・リウマチ科が扱う免疫・炎症疾患は、従来の疾患概念の枠組みを超え、医学のほとんどの領域に及んでいて、免疫・炎症に関わる接着分子に着目した疾患分類によって治療法を選択する時代になってきました。

 

今回は血液疾患を採りあげてみたいと思います。症例の引用は、日本血液学会の血液専門医資格試験の過去の出題問題からです。

 

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❶ 21歳の女性。

 

❷ 他院で9歳時に特発性血小板減少性紫斑病の診断を受け、

 

❸ γ-グロブリン大量療法、プレドニゾロン療法を受けたが、治療抵抗性であったため、

 

❹ 現在は治療を中止し無治療で血小板2万程度を推移している。

 

❺ 経過中出血傾向はほとんどなかった。

 

❻ 現在妊娠28週で血小板2.3万/μL、

 

❼ 出産を希望している。

 

❽ なお、母と弟も血小板減少を指摘されている。

 

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診断について、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の疑い

 

疾患概念:特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は、血小板減少を来す疾患ですが、その原因が血小板に対する自己抗体により血小板が破壊されて生じるものです。

血小板数が10万/μL以下に減少して出血症状を示す血液疾患です。提示の症例では❹ 「現在は治療を中止し無治療で血小板2万程度を推移している。」とのことですので、明らかな血小板減少があります。

この疾患は国内で約2.6万人で、毎年約3,000人が発症し、患者の7割を女性が占めます。

 

提示の症例は、❶ 「21歳の女性。」であり、一応、典型例であると見ることができるでしょう。国内では特発性血小板減少性紫斑病(ITP)とも呼ばれ、むしろこの呼称が主流ですが、病態を反映した病名である免疫性血小板減少症と呼ばれることもあります。
 

そもそもITPの病態は自己免疫疾患です。血小板に対する自己抗体が、脾臓内でのマクロファージ(貪食細胞)による血小板破壊を進めます。なお、血小板の母体となる巨核球に対しても自己抗体が働き、トロンボポイエチン(血小板造血因子)の不足により、血小板産生も抑えられます。
 

つまり、ITPでは、血小板の産生が抑制されることに加えて、産生された血小板も破壊されるという2段階での障害を受けることによって、顕著な血小板の減少を来す疾患ということになります。
 

臨床所見その他については明日以降解説いたします。