統合医療(東洋医学・心身医学)、新型ウイルス感染症の漢方戦略(転の巻)

 

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初期段階から重症感のあるケースや、発症初期までの治療方法で治癒せず、身体のより内部に闘争部位が入り込み重症化したケースでは、身体を冷やすことは極力避け、長期戦に臨める生薬を増量して服用します。


 補腎、健脾、養陰を基礎薬によって腎気(生まれつき備わっている治癒力のエネルギー)をはじめとする気や血を充実させ、これらの治癒資源が生産部位から効率的に全身に提供し、身体全体に気血が巡り、十分に行き渡ることができるように助けます。

 

 

 

Step3感染持続期

4日目にも発熱もしくは倦怠感などの症状が続いている時期


この時期に入ると新型コロナウイルス感染症の可能性が高くなるので要注意です。症状のパタンも一様ではなく、COVID-19に罹患していても熱がさほど高くないのに倦怠感が強いこともあるようです。

また強い倦怠感が出て、熱や倦怠感が数日続いて咳が出てくる人もいます。症状が7日間前後続いた後に、約8割は自然軽快して治ります。

 

しかし、この間で見落とされているのは、精神的負荷による免疫力低下です。

まだその実態が⼗分に明らかでなく、重篤化し死に⾄る恐れのあるCOVID-19 のような病に罹患することはそれだけで⾼ストレス下にあるといえます。加えて、罹患者は隔離化に置かれ、 家族や友⼈等親しい者とのコミュニケーションから断絶されることになります 。

 

COVID-19 罹患確定者の場合、「周囲に感染を広げてしまったのではないか」、「社会に戻った後、周囲からどのようにみられるだろうか(差別・偏⾒の問題)」という不安や⼼配は強く、気分の落ち込みや⾃責感、周囲の⽬に対する過敏な反応や他者とかかわることへの恐怖につながり、免疫力や抵抗力や回復力を損なってしまう場合もあります。

 

 

旧くて新しい常識⑥ 

漢方なら気管支炎にも対応可能です

普通の感冒では肺炎に至ることは、とても稀です。しかし、COVID-19 罹患者では約2割は肺炎を合併します。始めは倦怠感と息苦しさだけで、咳がひどくない肺炎もあるようです。それでも肺炎を発症して数日すると痰がいっぱい出てきて激しい咳が出るようになっても自然軽快する場合があるようです。


咳よりも息苦しい呼吸困難が主な場合には、痰が多く生じて気道に停滞して、顔がほてり、同時に足腰が冷えることがあります。これは腎陽虚といって腎の陽気の不足によるものです。感染初期で余力が残っている段階で用いることができる「麻黄(まおう)」という生薬成分は、「腎」や「脾」に負担をかけるため、体力を消耗して抵抗力が弱まってくる感染持続期に用いると生命力の余力を消耗して生命を危機にさらす可能性があるためにはお勧めできません。その場合は、麻黄剤が使えない高齢者や虚弱者にも定評のある漢方薬を使います。


積極治療秘薬Ⅰ:『蘇子降気湯(そしこうきとう)』 

杉並国際クリニックでは、漢方薬による予防の徹底強化により、明らかなCovid-19はまだ一例も発生していません。そのため、今に至るまで感染持続期の対応を経験しておりません。ただし、積極的治療のための漢方薬については、すでに幾つかを検討済みです。そのうちの一つがこの『蘇子降気湯』です。

 

この薬には、「麻黄」や「柴胡」などの攻撃要素のある生薬を含まないため、正気を消耗せずに連用できます。主薬は紫蘇子(しそし)と半夏(はんげ)であり、この組み合わせは呼吸困難を伴う咳を鎮める他、痰を切り、下半身の冷えを治します。また「厚朴(こうぼく)」、「前胡(ぜんこ)」、「陳皮(ちんぴ)」といった補助的生薬がこの作用を強化します。さらに「当帰(とうき)」は血行を促進するとともに血液の質を改善します。「桂皮(けいひ)」「腎」の熱を増強する作用があり上半身ののぼせをとりますが、肺炎を合併するなど腎気が著しく弱まったリスクの高い人への使用は避けたいと考えます。

 

 

旧くて新しい常識⑦ 

漢方なら軽症肺炎にも対応可能です

軽症のウイルス肺炎は必要に応じて酸素投与しながら改善するのを待つのが主な治療です。漢方薬には、感染初期からオートファジー機能(ウイルス感染細胞を貪食する機能)を高めて、細胞内のウイルスそのものを消化分解してしまうので、抗ウイルス薬と併用できます。副作用が少ないので妊婦さんにも使用できます。さらに、肺胞内に溢れた痰を排除する作用、つまり「痰飲の毒」を除く作用が高い漢方薬を用いれば、早い回復が期待できることが、中国から報告されています。


また咳に加えて喀痰や気道分泌物などによって気道が詰まって苦しくなるまで重症化する場合もあります。このような場合には、漢方だけに頼るのは危険です。急に悪化する可能性があるので、肺炎の徴候が少しでもあれば、病院を受診して西洋医学的対応の補助として、漢方薬も併用することが良いことは、武漢のレポートにもあるとおりです。 
 

重症化して死に至る致命率は、80歳以上の高齢者15%、循環器疾患10%、糖尿病7%、慢性呼吸器疾患6.5%、高血圧6%、悪性腫瘍の治療中:5.6%、健康成人0.9%という報告があります。