国家試験より易しい肝臓専門医認定試験問題No1

第3週:消化器・肝臓病・腫瘍医学 


専門医に問われることは、実際には悩ましいケースも存在しますが、一応正確な診断と標準的な治療ができることが前提ですとされます。さらに求められるのはその際に派生して生じる様々な臨床的課題をどのように予測し、予防し、また課題が発生した場合は、どのように対処するか、ということになります。

しかし、それ以上に大切なのは、他の領域との連携能力です。肝臓に関しては私が専門的に診ている関節リウマチとも無関係ではありません。
 

以下は、肝臓専門医認定試験問題です。一見、暗号の羅列の様でとっつきにくそうですが、短いものなので、なるべくわかりやすくご紹介いたします。

 

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45歳の男性。B型慢性肝炎に対しアデホビルとラミブジン併用療法を行なっている。
3カ月前の検査では赤血球450万/μl, ヘモグロビン14.1g/dl, 白血球4,800/μl,血小板18.9万/μl, AST25IU/l, ALT28IU/l, γ-GTP32IU/l, HBV-DNA検出せず,

であったが、最近、筋力低下、骨の痛みが生じたため受診した。


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すでに<B型慢性肝炎>という診断がついた症例です。


これは慢性ウイルス性肝炎の一種で、肝炎ウイルスによる肝の持続性炎症が6か月以上続く病態です。潜在性に発症し慢性肝炎となって初めて診断されるものと、急性肝炎からの移行例があります。この症例はB型肝炎ですが、これは一般に成人のB型肝炎ウイルス(HBV)の初感染による肝炎です。劇症化することがあり注意を要します。また、この症例のように慢性化することもあり、治癒した場合には中和抗体であるHBs抗体が陽性となり、終生免疫を獲得します。

 

当該出題症例では、すでに治療も行われていて、「アデホビルとラミブジン併用療法」ということです。診断も治療内容も明らかにされているという点で、この肝臓専門医認定試験問題は代表的な医師国家試験問題より易しいといえます。

 

医師国家試験問題は、医学全体を問われるので、そもそも、どの領域の病気についてのヒントすら与えられないケースも少なくないからです。しかしながら、専門医は、たとえ正確な診断を下し、適切な治療を開始できていても、万事OKということではないところに難しさがあります。
 

さて、この症例ですが、まずはいきなり慢性肝炎を診る肝臓専門医の視点から始まるのではなく、一般内科医の立場から背景となるデータを検討します。
 

<一般血液検査データ>

赤血球450万/μl, ヘモグロビン14.1g/dl, 白血球4,800/μl,血小板18.9万/μl これらの一次データはすべて基準の範囲内です。
 

なお、血小板が10万/μl 以下になると肝硬変を疑います。
  

二次データとして、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)
=Hb(g/dL)/RBC(×104/μL)×1000

=14.1/450×1000=31.3

(基準値:男28.0~34.6)

 

 <血液生化学検査データ>

AST25IU/l, ALT28IU/l, γ-GTP32IU/l これらの一次データはすべて基準の範囲内です。AST<ALTのパターンを示していますが、これはB型慢性肝炎をはじめとする慢性ウイルス性肝炎に多く、肝硬変に近づくとAST>ALTのパターンになります。
   

二次データとして、AST/ALT比=25/28=0.89>0.87
このパターンは、肝硬変、肝癌、アルコール性肝炎、アルコール性脂肪肝、心筋梗塞、うっ血性心不全、骨格筋障害、溶血性貧血などでみられます。

 

そもそもわが国におけるB型肝炎ウイルス(HBV)感染者は約130万人と推定されています。私が専門としているリウマチの患者数は全国で約60~70万人程度ですから、頻度としては、およそその2倍の頻度であり、決して少なくはありません。約130万人のHBV感染者のうち10~15%が慢性肝炎に移行して肝硬変、肝癌に至ります。