『米国トランプ大統領のCovid-19の病状を診る』No2

 

前回はこちら

 

トランプ大統領が隔離期間(2週間)以内に完全回復するか?
ということが注目されています。


以下が、トランプ支持者が期待しているシナリオです。

 

 

1) このまま順調な回復⇒2)PCR検査2回連続陰性⇒3)新型コロナを克服して、選挙戦の最前線へ再登場⇒4)新型コロナを克服した大統領は英雄⇒5)アメリカ人は強い大統領が大好き⇒6)トランプ大統領の再選確実!

 

 

トランプ氏を支持するかどうかという政治的な問題はさておき、一人の患者としてのトランプさんをみていきましょう。

 

[ワシントン 5日 ロイター] - 新型コロナウイルスに感染したトランプ米大統領の医師団は、大統領が早ければ5日にも退院できる可能性があるとの見方を示した。だが容体は依然はっきり分かっておらず、外部の専門家からは、症状は深刻な可能性もあるとの指摘が出ている。


そこで、昨日試みた情報分析を基に新たな情報を加えてみました。

 

 

杉並国際クリニックによる情報整理

 

 10月2日(金)

トランプ大統領の新型コロナウイルスPCR検査陽性の結果判明。
同日の症状としては、発熱の他に呼吸困難感はあったものとみられます。
海外メディアの情報によると、検査時点ですでに、全身倦怠感、咳、発熱などの感冒様症状(主に、急性上気道炎)があったようです。
動脈血中酸素飽和濃度(SpO2)が急激に低下したようですが、これは肺などの下気道にまで炎症が急激に波及したことを示唆します。ただし、その際のデータは未詳です。

 

つまり、急激に肺炎を発症させたとみることができます。
その後、解熱したとのことですが、一過性ではない可能性があり、再度発熱する恐れはあります。
 

抗体検査の陽性が判明した数時間後、すなわち2日(金)に、軍の病院に入院する前に、レジェネロン製薬の治験段階の抗体を用いた抗体療法(2種類の抗体カクテル8g相当)をホワイトハウス内で既に開始されていた、とのことです。

 

これは、実験段階の未承認薬です。日本では絶対に使用できない薬です。
追加情報:ホワイトハウス内には医療施設がある(ピッツバーグ大学医学部ワリド・ゲラッド教授)
 

<米メリーランド州ベセスダでコロナウイルス病(COVID-19)の治療を受けているウォルター・リード国立軍事医療センターへ移動>

 

 

 10月3日(土)

 

トランプ大統領がツイッターで「状態改善」を発表。

 

動脈血中酸素飽和濃度(SpO2)が96%から98%:

このデータが室内大気、すなわち、一切の酸素吸入を行っていない条件下でのデータであれば、正常範囲ですが、トランプ氏は酸素吸入を受けたとの情報もあり、その場合は、全く意味が違ってきます。

 

肺炎を発症させた翌日に完全に治癒しているとは考えにくいといえるでしょう。
「今後48時間は依然として厳しい状況になる可能性」の指摘は、もっともなコメントです。

 

トランプ大統領自身のビデオメッセージの中で「今後、数日間が正念場」というのは率直なメッセージとして受け止めてよいと思います。

 

5日に退院可能の見込みがある、と発表されていますが、慎重に経過を見守る必要があります。

 

 

 

 10月4日(日)

トランプ氏は、4日(日)から5日間、ジアレド・サイエンス社製のレムデシビルの点滴を開始したとのことですから、点滴が終了するのは8日(木)になるはずです。
トランプ米大統領の医師団は、大統領は低酸素レベルを経験した後、ステロイドを開始したが、彼の状態は改善しており、早ければ5日にも退院できる(ホワイトハウスに戻れる)可能性があるとの見方を示した。

 

主治医のショーン・コンリー氏はこの日の記者会見でトランプ氏の容体について、2日午前に高熱が見られたほか、血中酸素濃度が一時低下したため酸素吸入を行ったことを確認し、当初の説明より実際には症状が重かったことを認めた。

 

Dr. Conley declined to provide a definitive answer on whether Mr. Trump had ever received supplemental oxygen, despite repeated pressing.

 

(コンリー医師はトランプ氏が酸素補助を受けたかどうかについて再三の質問を受けながら明確な回答をすることを拒んだ)ウォールストリートジャーナルより
トランプ氏は、入院先の病院の外に車で短時間出て、支持者に手を振った。
トランプ氏自身がツイッターに投稿した4日の動画では「非常に興味深い体験だ。新型コロナ感染症について大いに学んだ」などと述べていた。

 

 

 10月5日(月)
  
 発症の誘因

1)マスク嫌い、2)大規模集会出席、3)米国全土での移動(気象環境の格差)、

4)季節(夏から秋、急激な気温低下)、5)蓄積疲労、6)精神的ストレス(ストレス性潰瘍、不眠症)、7)ホワイトハウス内部の反トランプスパイの暗躍、

 

 

 トランプ大統領の死亡リスク因子

1) 高齢、2)肥満(BMI>30)、3)男性、4)基礎疾患

 

 基礎疾患についての背景(トランプ大統領の常備内服薬)

① アスピリン® サリチル酸系・・・

日本では血小板凝集薬として使用される血栓予防(狭心症、一過性脳虚血発作など動脈硬化症を基礎とする疾患に) 

 

② リピトール® スタチン・・・

抗コレステロール血症治療薬。トランプ氏の血清コレステロールは正常値内にコントロールされているとのことです。

 

③ 亜鉛・・・細胞性免疫を高めるミネラル。

 

④ ビタミンD・・・骨粗鬆症、副甲状腺機能低下症、慢性腎不全にも用いられますが、おそらくは免疫力強化の目的の他に、転倒による骨折防止も考慮していたのかもしれません。

 

⑤ ファモチジン・・・ヒスタミンH₂受容体拮抗薬に分類される消化性潰瘍治療薬の一つ。ガスター®という商品名で日本でも広く用いられています。トランプ氏は胃十二指腸潰瘍(胃潰瘍の可能性が高い)、逆流性食道炎を患っている可能性があります。

 

⑥ メラトニン・・・人の脳から分泌される睡眠ホルモンで、加齢により生産が減少します。常習性のない自然の睡眠薬と言われています。認知症の予防にも効果があります。強い抗酸化効果があり、動脈硬化対策にもなります。その他にも免疫力を高める作用や成長ホルモンの分泌を高める作用が報告されています。トランプ氏は単なる動脈硬化の進行防止ではなく、不眠症に悩んでいたか、自らが認知症になることを恐れていた可能性があります。

 

 

 推定される基礎疾患

 

1) 肥満症、2)動脈硬化症、3)脂質異常症(高コレステロール血症);血清脂質は正常範囲にある。4)心疾患(高血圧、狭心症?):軽症の心疾患
< 慢性の呼吸器疾患や糖尿病はない>ことが発表されました。

 

 

 治療の内容

 

主治医:ショーン・コンリー医師

 

⑥ 安静

 

⑦ 酸素吸入(2日に実施)

 

⑧ 回復患者採取血清抗体療法:
抗体検査の陽性が判明した数時間後、すなわち2日(金)に、軍の病院に入院する前に、レジェネロンという治験段階の2種類の抗体カクテル8g(未承認薬)を用いた抗体療法をホワイトハウス内で既に開始されていたとのことです。
⇒ 何と大胆な!大統領をモルモット代わりにするのは驚き、
それとも大統領がボランティアを買って出たものか!?
レジェネロン社によると、トランプ氏は、他に治療法がない重篤な疾患の患者に未承認の医薬品を使用することを認める「思いやり使用要請」 (a compassionate-use request)のもとで実験薬を受け取ったといっています。

 

⑨ レムデシビル® 毎日1回の点滴:
⇒ 新規ヌクレオチドアナログのプロドラッグで、抗ウイルス薬。ギリアド・サイエンシズが開発し、エボラ出血熱及びマールブルグウイルス感染症の治療薬として、後に、一本鎖RNAウイルス(RSウイルス、フニンウイルス、ラッサ熱ウイルス、ニパウイルス、ヘンドラウイルス、コロナウイルス(MERSおよびSARSウイルスを含む))に対して抗ウイルス活性を示すことが見出されました。2020年5月1日、アメリカ合衆国で緊急使用を認めた新薬であり、日本では「特例承認制度」を用いて2020年5月7日に正式に新型コロナウイルスへの治療薬として承認されましたが、特定の医療機関でのみ使用できるに過ぎません。
 

トランプ氏は、4日(日)から5日間、ジアレド・サイエンス社製のレムデシビルの点滴を開始したとのことですから、点滴が終了するのは8日(木)になるはずです。

 

⑩ デキサメサゾン(ステロイド剤):
⇒ 古くからある薬剤です。重症例で使用されますが、いわゆる急性間質性肺炎に対して処方されることもあります。ロイター通信も、この薬剤は強力な抗炎症薬であり、低酸素血症を伴うような重症例で用いる(ジョンス・ホプキンス大学、感染症専門医アメシュ・アダリャ医師)ことを示唆しています。
  

トランプ氏は日曜日(4日)に低酸素状態に陥ったため、このステロイド剤を投与したところ、反応良好で月曜日(5日)には退院できるかもしれないと報道しています。感染症専門医のダニエル・マッキレン医師は、報道されているような楽観的な見込みより、重症である可能性があることを言及しました。また、米国感染症学会は、この薬剤を中等症以下の患者に用いると、むしろ有害な場合があるという見解を発表しています。

 

トランプ氏のCOVID-19の深刻さに疑問を呈する専門医たちの見解
治療に関わっていない外部の医師らは、コンリー氏の説明以上にトランプ氏の容体は深刻だとみています。体重や年齢を考慮すると、トランプ氏は重症化のリスクが比較的高いグループに入るからです。

 

医師たちは、これらの薬はどちらも病気が悪化するのを防ぐために、病気の初期段階では意味があると言ってきたが、米国感染症学会は、デキサメタゾンは一般的に病状が悪化している人のために準備されているものであることを指摘し、トランプ氏の病態が軽くはないことを示す最大の証拠だとしています。また医師たちは、治療に対して良好な反応を示したCOVID-19患者は比較的早く退院することができるが、それでも注意深く観察する必要があると述べました。

 

 

 ラーヘイ病院医療センターの感染症専門家であるダニエル・マクキレン博士は「報告されていほど楽観視できる容態ではないだろう」と述べました。

 

 ジョンズ・ホプキンス大学の感染症専門医であるアメッシュ・アダルジャ博士は、「トランプ氏が補助酸素を必要としなくなり、通常の活動に戻ることができれば、医師は彼を退院させることができるだろう。ただし、最大の問題は、悪化の危険性があるのか、それとも順調なのかということだろう。」と語りました。

 

 ボストンのマサチューセッツ総合病院の感染症内科医であるラジェッシュ・ガンディ医師は「COVID-19の患者の中には、症状が出てから約1週間後に症状の悪化や息切れ、その他の合併症を発症する人もいます。」といいました。

 

 カリフォルニア州の UC デイビス健康で感染症部長のスチュアート ・ コーエン博士は、「トランプ氏が高リスク群であったため、初期治療としては積極的な方法で行ったのではないかとし、COVID-19はしばしば2つの段階を持つことが特徴である」と説明しました。-❶ ウイルス感染そのものと、❷ 場合によっては臓器障害を引き起こす可能性のある体の免疫システムの過剰反応である。「人々は1週間までは平気でいられるが......その後、すべてが急速に悪化していくケース。それが誰に起こるかを予測するのは常に難しい」」と言います。

 

 ニューヨークのノースウェル・ヘルスの最高医療責任者であるデイビッド・バッティネリ博士は、トランプ氏が月曜日に退院する可能性があることは「全くもってあり得る話ではあるが、完全な回復には時間がかかるだろう。そして彼が外出して14日未満で選挙運動の歩道にあることは非常に可能性が低いだろう」と注意を促しました。

 

 

 

 杉並国際クリニックの現状分析

 

 昨日の段階で、私が疑問に感じていたことが、少しずつ明らかになってきました。最大の疑問は、トランプさんの主治医であるコンリー氏の説明は矛盾に満ちているということです。トランプさんの動脈血中酸素分圧濃度(SpO₂)の%濃度のデータがどのような条件下での値なのかが判明しない限り、トランプさんの呼吸障害の重症度は不明です。コンリー医師が明言を拒んたということは、おそらく、酸素供給下でようやく健常者のデータに近づけることができたということなのではないでしょうか。

 

 通常、酸素供給重症患者のみに通常使用されるステロイド薬「デキサメタゾン」を治療に取り入れていることもその有力な傍証であるという意見を述べる米国の専門医も複数登場してきました。また、4日に投与を開始したばかりで、投与期間5日の抗ウイルス薬「レムデシビル」を使った治療もまだ2日しか行っていないにもかかわらず、5日に退院可能であるという見解は医師として常識外です。

 

 この点については、米国の複数の専門医も私と同様に考えていることが確認できました。もっとも、ホワイトハウスは医療設備も完備しているとのことから、退院とはホワイトハウスでの入院治療をすることを暗に示しているのかもしれません。肝心の5日の情報がほとんど入ってきてこないのも不穏です。当面の間、新型コロナ感染症に強い関心をもつ医師の一人として目が離せそうにありません。