注目の循環器疾患:急の巻

9月30日(水)
第5週:血液病・循環器  

 

前回はこちら      

 

㉖ 検査所見(1)血液所見:赤血球459万、Hb15.1g/dL、Ht44%、白血球11,400、血小板25万

 

㉗ 検査所見(2)血液生化学所見:AST28U/L、ALT24U/L、CK624U/L(基準30~140)、尿素窒素40㎎/dL、クレアチニン0.9㎎/dL、
血糖112㎎/dL、Na142mEq/L、K3.8mEq/L、Cl96mEq/L。CRP2.4㎎/dL。

 

問1 

最初に行う輸液の組成としてもっとも適切なのはどれか。

 

a 5%ブドウ糖液

 

b Na⁺35mEq/L, K⁺20mEq/L, Cl⁻35mEq/L

 

c Na⁺154mEq/L, 濃グリセリン,フルクトース配合液⁺20mEq/L, Cl⁻35mEq/L

 

d Na⁺30mEq/L, K⁺0mEq/L, Cl⁻20mEq/L,L-Lactose⁻10mEq/L

 

e  Na⁺130mEq/L, K⁺4mEq/L, Cl⁻109mEq/L,L-Lactose⁻28mEq/L

 

 

 

問2 静脈路確保の次に行うべき対応はどれか。

 

a 胃洗浄 b 気管挿管 c 血液透析 d 血液濾過 e 活性炭投与

 

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㉖ 検査所見(1)血液所見:赤血球459万、Hb15.1g/dL、Ht44%、白血球11,400、血小板25万

  

<一次データ解析> 
  

Hb15.1g/dL ⇒若干の上昇か? 脱水や発熱による影響が無ければHbはより低値であった可能性があります。
  

白血球11,400 ⇒白血球増多で、炎症の存在が示唆されます。⓲ 呼吸不全SpO₂97%(マスク5L/分酸素投与下)、⓴ 口腔内吐物、㉔ 両胸部でのcoarse cracklesの聴取、等の所見との関連が考えられます。

 

血小板25万 ⇒ 正常範囲であり、炎症反応が亢進していても血小板減少などDIC(播種性血管内凝固症候群)の兆しは見られません。DICによるショックのリスクも高くはありません。

 

<二次データ解析>
  
 Htおよび赤血球数からMCV(平均赤血球容積)を算出
    

MCV=95.9fL ⇒正球性(赤血球のサイズは正常範囲)であり、個々の赤血球の容積異常を伴う可能性は高くないことが見込まれます。

 

 

㉗ 検査所見(2)血液生化学所見:AST28U/L、ALT24U/L、CK624U/L(基準30~140)、
尿素窒素40㎎/dL、クレアチニン0.9㎎/dL、
血糖112㎎/dL、Na142mEq/L、K3.8mEq/L、Cl96mEq/L。
CRP2.4㎎/dL。 
  

<一次データ解析> 

・AST28U/L、ALT24U/L ⇒

 

・CK624U/L(基準30~140)⇒高CK血症。
   

高CK血症の原因疾患:
妊娠、外傷、骨格筋疾患(横紋筋融解症、筋ジストロフィー、多発性筋炎、皮膚筋炎)、心筋疾患(狭心症、心筋梗塞)、脳梗塞、甲状腺機能低下症、悪性腫瘍

  

 

・尿素窒素40㎎/dL⇒>21㎎/dLにて高値。高窒素血症。
   

高窒素血症の原因疾患:
腎炎、腎不全、糖尿病性腎症、アミロイドーシス等、高蛋白食、
消化管出血、飢餓、発熱、感染症、組織の壊死・崩壊重症消耗性疾患、
手術後、甲状腺機能亢進症、脱水、心不全

【薬剤】副腎皮質ステロイド剤、利尿薬、抗菌薬(アミノグリコシド系、
テトラサイクリン系など)、非ステロイド系抗炎症薬、免疫抑制剤、抗悪
性腫瘍薬、造影剤など

 

クレアチニン0.9㎎/dL ⇒ 基準値内にあり、腎機能障害は認められません。

 

血糖112㎎/dL ⇒ 基準値内にあり、耐糖能異常・糖尿病の可能性は低いです。

 

Na142mEq/L、K3.8mEq/L、Cl96mEq/L ⇒ 特段の電解質異常は認めません。

  
CRP2.4㎎/dL ⇒ 高度増加により、炎症性疾患の存在が示唆されます。
              

 

⓲ 呼吸不全SpO₂97%(マスク5L/分酸素投与下)、

 

⓴ 口腔内吐物、㉔ 両胸部でのcoarse cracklesの聴取、

 

㉕ 白血球増多等の所見との関連が考えられます。

   

 

<二次データ解析> 

 

 AST/ALT比=1.17>0.87かつAST、ALT<500 IU/L

 

⇒ 肝疾患(肝硬変、肝癌、アルコール性肝炎、アルコール性脂肪肝)、
心疾患(心筋梗塞、うっ血性心不全)、骨格筋障害、溶血性貧血

 

 

 尿素窒素・クレアチニン比 44.4>10 ⇒ 腎外性(脱水など)

 

 血漿浸透= 2×Na + 血糖値/18 + 尿素窒素/2.8 =304.5>290(Posm)

⇒ 高浸透圧の原因:本態性高Na症、糖尿病、高尿素窒素血症、急性脱水症、
発汗、発熱、口渇中枢障害、尿崩症、意識障害、アルコール中毒、浸透圧利
尿薬の使用時

 

 

 問1 この患者に対して最初に行う輸液の適切な組成は?

輸液剤は、含まれる電解質の濃度により、まず、低張電解質液、等張電解質液、高張電解質液に分類されます。その際にはKの濃度(含まないものあり)に注意します。次に電解質以外の成分を検討します。グルコースの濃度(含まないものあり)や乳酸イオンを含むものなど製品により組成に多少の違いがあります。

リンゲル液は0.9%食塩水である生理食塩液より血漿に近い電解質組成を有する輸液剤(生理食塩液には含まれていない電解質のカリウム等も含む)で名称の「リンゲル」は創製者の「S.Ringer」に由来します。そして乳酸加リンゲル液とは通常のリンゲル液より血漿に近い電解質組成を持つ輸液でナトリウム、カリウム、カルシウム、クロールと体内で重炭酸イオンに変換される乳酸イオンを含むものです。

 

× a 5%ブドウ糖液
   (⇒グルコースのみで、電解質を含まない低張液)
    グルコースは不要ですが、電解質は必要です。

 

× b Na⁺35mEq/L, K⁺20mEq/L, Cl⁻35mEq/L
(⇒維持液:Kを多く含み、水分や電解質の一日必要量に対応した組成の低張電解質液)
  脱水を伴う場合の初期投与としては等張電解質液を用います。

 

 

× c Na⁺154mEq/L, 濃グリセリン,フルクトース配合液⁺20mEq/L, Cl⁻35mEq/L
 (⇒濃グリセリンは浸透圧利尿薬。高張液。頭蓋内圧亢進時に使用)
   頭蓋内圧亢進の所見はみられません。

 

× d Na⁺30mEq/L, K⁺0mEq/L, Cl⁻20mEq/L,L-Lactose⁻10mEq/L
(⇒開始液:Kを含まない。尿排泄が無く血清K値が不明な未透析患者、脱水や救急患者で基本病態が判明するまでの間のみ使用)
  脱水を伴う場合の初期投与としては等張電解質液を用います。それに加えて、Kを含めて血清電解質濃度は正常範囲であるため、最小限のK補給は望ましいです。

 

〇 e Na⁺130mEq/L, K⁺4mEq/L, Cl⁻109mEq/L,L-Lactose⁻28mEq/L
  (⇒細胞外液補充液:等張電解質液である乳酸加リンゲル液)
脱水症に対する初期輸液は細胞外液補充液としての役割が期待されるため、輸液の組成は細胞外液の組成に近い電解質で構成されるもの、すなわち等張液を用います。なお、乳酸リンゲル液に含まれる乳酸ナトリウムは体内で代謝を受けて重炭酸イオン(HCO3ー)に変換され細胞外液の補正を行うことに役立ちます。

 

 

 

 問2 静脈路確保の次に行うべき対応は?

カフェインに限らず薬物の経口摂取による中毒処置の目的は、

1) 摂取された者ものの吸収を抑えること

2) すでに吸収されたものを速やかに除去すること

3) 中毒によってもたらされた全身状態の悪影響を抑えること

などです。

 

最終的には救命が優先されるべきであることから、3)に対する処置は可能な限り早期に開始する必要があります。
救急医療における初期対応としては、疾患が内因性、外因性を問わず、五官を用いた初期評価とバイタルサインの測定、脳の活動(意識障害の評価)を行いながら、A(気道の確保)、B(呼吸の確保)、C(血液循環の確保)を順次行います。

 

初期評価を済ませ、すでに静脈路確保がなされC(血液循環の確保)の準備ができた段階にあって、残されている課題は、A(気道の確保)およびB(呼吸の確保)です。

 

重篤な状態に陥るのは、過量摂取などによって急性中毒を起こした場合です。カフェインには特異的な解毒剤や拮抗薬はないため、血中濃度を低下させる対症療法を行って時間と共に回復を待つことになります。

 

重症で緊急を要する場合は救急病院に搬送後、集中治療室または冠疾患集中治療室にて全身管理を行い、各致死的症状に対応しなければなりません。血液吸着および血液透析、胃洗浄が有効な場合もあります。

 

本症例では重症には至っておらず中等度の意識障害、プレ・ショック状態、誤嚥による両側の肺障害が生じています。この段階では、全身状態の悪化を防止するためには、消化管内容物や血液の中和や解毒より、呼吸器管理を優先させてなければなりません。

 

 

×a 胃洗浄 ⇒ 胃内容物にカフェインが残存している場合に、胃管を通して洗浄液で胃内を洗浄する方法ですが、嘔吐や誤嚥による再増悪のリスクを回避してから行うべきです。

 

〇b 気管挿管 

 

×c 血液透析 ⇒ カフェインは低分子物質であるため、透析膜を通過できるので除去は可能であるが、これを優先させる必要はありません。

 

×d 血液濾過 ⇒ 分子量が大きいものの除去を目的とするものであり、そもそも分子量の小さいカフェインの除去には向きません。

 

×e 活性炭投与 ⇒ 消化管内に残っている薬物を活性炭に吸着させ排便させる
方法ですが、胃洗浄より効果が劣り、しかも優先すべき必要はありません。
  

なお、この症例より重篤で、危機的中毒量を摂取している場合、全身痙攣や重度の不整脈、精神運動の過剰亢進で錯乱や過呼吸を起こしていることが多いです。そのような場合には、まず横隔膜の痙攣による呼吸不全を防ぐため、筋弛緩剤やバルビツール酸系薬の投与と酸素吸入で急速対応します。また、重い不整脈に対しては心拍を監視して心室細動に注意を払うほか、各精神症状を緩和します中毒患者にとってはこの症状が最も不快であることが多く、興奮や不安などの症状にはジアゼパム静注などで緩和するのが良いようです。

 

それでも十分な効果を得られない場合は、ベンゾジアゼピンなどの追加投薬などで対応します。この際、ドパミン拮抗型の鎮静剤(抗精神病薬)は使用しませn。バイタルが正常に戻り、医師が大丈夫と判断した場合は対症療法は終了しますが、入院して十分に体を休め、点滴静注で栄養補給や心身のバランスを整えます。

 

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救急外来での処置後に集中治療室においてエコー下で右内頸静脈から中心静脈カテーテルを留置する方針となった。局所麻酔後にカテーテル留置のための穿刺を行ったところ鮮紅色の血液の逆流を認めた。穿刺針を抜去したところ同部位が急速に腫脹し始めた。血圧92/60㎜Hg。心拍数130/分,整。

 

 

問3 直ちに行うべきなのはどれか。

 

a 赤血球輸血  b 昇圧薬の投与 c 局所の圧迫止血 
d  逆流した血液の血液ガス分析 e 反対側でのカテーテル挿入手技の継続

 

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㉘ 「カテーテル留置のための穿刺を行ったところ」1)鮮紅色の血液の2)逆流

 

1)<鮮紅色の血液>は、酸化ヘモグロビン濃度の高い動脈血であることを示唆します。それは大動脈系か肺静脈系のいずれかです。

 

2)<血液の逆流>は、血管内圧が高いことを示唆し、穿刺を試みた右内頚静脈よりも、むしろ動脈を循環する血液であることが示唆されます。

 

 

㉙ 「穿刺針を抜去したところ同部位が」3)急速に4)腫脹し始めた。
3)急速に、4)腫脹しはじめた、いずれも皮下出血の所見ですが、静脈出血であれば腫脹しても緩徐であるため、右内頚静脈に伴行する右内頚動脈からの出血であることが、さらに強く疑われます。

 

㉚ 血圧92/60㎜Hg 
⇒ 救急搬送時の血圧 ⓰ 血圧98/78㎜Hgより、更に低下しているため、出血性ショックが始まっている可能性があります。

 

㉛ 心拍数130/分,整
  ⇒ 救急搬送時の心拍数、⓯ 148/分、整より、減少しているため、出血による循環血液量の低下は、まだ顕著ではない可能性がありますが油断せずに出血性ショックに至らないように、しっかりと止血することが肝要です。

 

 

 問3 直ちに行うべき処置は?

中心静脈カテーテル挿入による動脈への誤穿刺は今でも起こり得ます。動脈穿刺の中でも、内頚動脈穿刺による出血は自然には収まらず様々な合併症の原因になるので、止血が重要になります。最近では頸部超音波(エコー)ガイド下で穿刺をするようになってきたので医療機関での穿刺による事故は減少しましたが、超高齢社会を迎え在宅医療でこの処置を行う際には、必ずしもエコーガイド下で行えないので、それなりのリスク発生は覚悟しなければならないと考えます。

×a 赤血球輸血 ⇒ 貧血を認めず、出血量も限られているため不要です。

 

×b 昇圧薬の投与⇒ 血圧は低めですが昇圧を要する程ではありません。 

 

〇 c  局所の圧迫止血 

×d  逆流した血液の血液ガス分析⇒酸素投与下ではあるが、動脈血中酸素分圧濃度 (SpO₂)は維持され、血中の電解質等も正常範囲にあるため、血液ガスの状態はある程度安定していると考えられるので、直ちに実施すべき緊急性はありません。

 

e 反対側でのカテーテル挿入手技の継続 ⇒ 右内頚動脈誤穿刺による動脈血出血による右頸部が腫脹している環境下で、緊急に左側から穿刺を行うことは更なる危険が伴うので推奨できません。気道圧迫による気道閉塞、静脈圧迫による脳灌流傷害など、さらに重篤で不可逆的な合併症を引き起こす危険性を回避すべきです。

 

 

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<まとめⅡ>

最近、カフェインは、眠気予防薬ばかりでなく、栄養ドリンクや清涼飲料水などとして、薬物という意識を持たないまま容易に大量に入手可能になっています。そのため、過剰摂取や自殺目的による若者のカフェイン中毒が増加傾向にあり、ゲーム依存と共に社会問題化しています。

 

救急医療においては、薬物による意識障害なのかどうかも鑑別できない段階で、次々と全身管理のステップを踏んでいかなければなりません。薬物中毒であるらしいことがわかっても、原因薬物の特定はすぐにはできません。ですから、救急医療においては、中毒への治療は、必然的に原因療法よりも、まず全身状態に対する対症療法によって確実な救命をはかることがポイントになります。つまり、手際よい対症療法を行ないながら全身状態を把握し、原因を突き止めていくという作業能力が要求される局面だということになるでしょう。

 

 

<参考>
カフェイン中毒の予後
重症に至らず、中毒者の心身から不快感が消失したならば、経過観察と休養で良いです。しかし、離脱症状で苦しむことがあります。多くの場合、精神的、肉体的に過労状態となっていることが多いため、栄養を取って心身を休ませることが第一です。

 

離脱症状
摂取を中断した場合の離脱症状としては頭痛が一般的であり、12 - 48時間以内に出現し、2 - 4日以内に消退します。他の症状としては眠気、集中力の減退、疲労感、不安、抑うつ、運動遂行能力の低下、発汗、吐き気(嘔気)、カフェイン摂取の渇望などがあります。禁断性の片頭痛に対しては鎮痛薬で対応できるが、通常短期間(数日)のうちにすべて治まります。一般用医薬品の鎮痛剤には、カフェインも含まれている場合があるので注意を要します。 かつてDSM-III分類が使用されていた頃には、カフェインをなしにするのが困難となるのはごく少数なので、診断分類はないとしつつも離脱中の日中の眠気など、カフェイン誘発性過眠症については記載されていました。DSM-5分類において、カフェイン離脱は新たな診断名になりました。