代表的な神経疾患:後期(弘毅)高齢者を診る、の巻

9月24日(木)
第4週:神経病・内分泌・代謝病

 

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弘毅という言葉は、度量が広く意思の強いことを意味します。わたしは、後期高齢者になっても、弘毅な人物でありたいと願っている一人であり、そのためもあって万人のための生涯エクササイズである「水氣道®」を開発し、自ら実践を重ねつつ、集積されたエビデンスに基づいて改良を加え続け発展と普及に努めています。

 

医師国家試験の課題となる症例も、かつてより高齢者のケースが増え、しかも一般の検査では見落とされやすい微妙な異常を呈するものが増えているように思われます。それは要介護あるいは要介護予備軍とみられる後期高齢者のテーマなのだと思われます。

 

㉖ 検査所見:1)尿所見:蛋白(-)、潜血(-)。

 

㉗ 検査所見:2)血液所見:赤血球413万、Hb13.3g/dL、Ht38%、
白血球4,500、血小板22万。

 

㉘ 検査所見:3)血液生化学所見(総蛋白6.3g/dL、アルブミン3.8 g/dL)

 

㉙ 検査所見:4)血液生化学所見(AST20U/L、ALT18 U/L)

 

㉚ 検査所見:5)血液生化学所見(CK53 U/L<基準30~140>)

 

㉛ 検査所見:6)血液生化学所見(尿素窒素22㎎/dL、クレアチニン0.9㎎/dL)

 

㉜ 検査所見:7)血液生化学所見(空腹時血糖94㎎/dL、HbA1c5.8%<基準4.6~6.2>

 

㉝ 検査所見:8)血液生化学所見(Na140mEq/L、K4.1 mEq/L、Cl105 mEq/L)

 

㉞ 検査所見:9)血液生化学所見(TSH1.56μU/mL<基準0.2~4.0>、
FT₃2.3pg/mL<基準2.3~4.3>、FT₄1.3ng/dL<基準0.8~2.2>)

 

㉟ 検査所見:10)血液生化学所見(CRP0.04㎎/dL)

 

㊱ 検査所見:11)頭部MRIで軽度の脳萎縮と両側大脳半球白質や視床に軽微な慢性虚血性変化を認める。

 

㊲ 検査所見:12)(頭部MRI)脳の主幹動脈に有意狭窄や動脈瘤を認めない。

 

㊳ 検査所見:13)追加検査で抑うつ傾向と四肢筋量と骨量の低下を認めた。

 

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<再診No1>

 

㉖ 検査所見:

1)尿所見:蛋白(-)、潜血(-)
⇒蛋白尿を原因とする低たんぱく血症や尿潜血を原因とする貧血などの栄養障害の可能性は低いです。

 

 

㉗ 検査所見:

2)血液所見:赤血球413万、Hb13.3g/dL、Ht38%、
白血球4,500、血小板22万。
⇒Hb13.3g/dL>12.0であり、貧血はありません。
白血球や血小板も正常であり、血液病、血液凝固障害などの可能性は低いです。

 

 

㉘ 検査所見:

3)血液生化学所見(総蛋白6.3g/dL、アルブミン3.8 g/dL)

 

血清総たんぱく (TP)検査の目的:

血清中に含まれるたんぱくの総称です。その種類は100種類以上ともいわれ、すべてが血液浸透圧の維持や生体の防御機構などに関与しています。したがって、総蛋白、アルブミン、A/G比や蛋白分画を検査すると、健康・栄養状態や特定の成分が増減する疾患を判断するための指標となります。また肝臓や腎臓の働きに異常が生じると、血清中のたんぱくの代謝が乱れるため、たんぱくの総量を調べることで、肝臓や腎臓の状態を知る目安となります。

 

血清総たんぱく (TP)検査結果の見方

(単位:g/dl)

 

要受診 要注意 基準値 要注意 要受診

5.9以下 6.0~6.4 6.5~8.0 8.1~9.0 9.1以上

 

血清総たんぱく(TP)の検査データは採血前の食事の影響はありません。

高齢になるに従って数値は下がります。

血清総たんぱくだけでは、病気は確定できないので、異常値の場合には更なる検査を行います。

この症例の血清総たんぱくは6.3g/dL<6.5なので、低たんぱく血症、低栄養の傾向があります。

【基準値以下】の場合は、ネフローゼ症候群、急性腎炎、免疫不全疾患、低栄養状態などが疑われます。

 

血清アルブミンの基準値は3.7~5.5g/dL であるため、この症例の血清アルブミンは正常範囲内です。

ところで血清総蛋白(TP)は血清アルブミン(Alb)と血清グロブリン(Glb)によって成り立っています。

したがって、TP=Alb+Glb

ここから血清グロブリン(Glb)を計算することが出来ます。

 

血清グロブリン(Glb)=TPーAlb=6.3-3.8=2.5 g/dL

 

そこで血清アルブミン・血清グロブリン比(A/G比)を算出してみます。

A/G比=3.8/2.5=1.52(基準値1.1~2.3)

この症例は、低たんぱく血症、低栄養の傾向がありますが、軽微であると考えられます。

 

 

㉙ 検査所見:

4)血液生化学所見(AST20U/L、ALT18 U/L)

⇒肝機能の指標は正常の範囲内です。

 

   
㉚ 検査所見:

5)血液生化学所見(CK53 U/L<基準30~140>)

⇒筋肉組織の病的崩壊は来していません。

 

 

㉛ 検査所見:

6)血液生化学所見(尿素窒素22㎎/dL、クレアチニン0.9㎎/dL)

⇒腎機能の指標は正常範囲内です。

 

 

㉜ 検査所見:

7)血液生化学所見(空腹時血糖94㎎/dL、HbA1c5.8%<基準4.6~6.2>)

⇒糖質代謝の指標は正常範囲です。特に空腹時血糖値は89㎎/dL<基準値は80~99mg/dL>であり、低血糖症状を来す可能性は低いです。

 

またHbA1cのデータと併せて糖尿病は否定的です。
        

 

④ 現病歴:

2)食後の全身倦怠感の原因は、食事により血糖値は94㎎/dLからさらに上昇するため、少なくとも低血糖による全身倦怠感ではないと考えます。

 

 

㉝ 検査所見:

8)血液生化学所見(Na140mEq/L、K4.1 mEq/L、Cl105 mEq/L)

⇒これらの電解質は正常範囲です。
         

●血清浸透圧計算方法
血清浸透圧は、血清中のナトリウム(Na)、 ブドウ糖および尿素窒素(BUN)の濃度を用いて次の予測式で計算できます。単位は mOsm/L です。

 

血清浸透圧=2(Na)+血糖/18+尿素窒素/2.8
     =2×140+94/18+22/2.8
     =293.1>290 ⇒血清浸透圧の若干の上昇

 

<基準値:280~290 mOsm/L >
         

高値となる原因としては、脱水症・アルコール中毒 尿崩症・高Na血症・糖尿病 意識障害・高尿素窒素血症 発汗・発熱などがありますが、この症例では、若干の脱水症や発汗によりもたらされた可能性はあると思われます。

 

 

㉞ 検査所見:

9)血液生化学所見(TSH1.56μU/mL<基準0.2~4.0>、
FT₃2.3pg/mL<基準2.3~4.3>、FT₄1.3ng/dL<基準0.8~2.2>)
⇒甲状腺機能の指標は、いずれも正常範囲です。

 

 

㉟ 検査所見:

10)血液生化学所見(CRP0.04㎎/dL)

⇒炎症性疾患の存在は否定的です。

 

 

㊱ 検査所見:

11)頭部MRIで軽度の脳萎縮と両側大脳半球白質や視床に軽微な慢性虚血性変化を認める。

⇒後期高齢者としては年代相応の変化であり、アルツハイマー変化は否定的です。

 

 

㊲ 検査所見:

12)(頭部MRI)脳の主幹動脈に有意狭窄や動脈瘤を認めない。
⇒後期高齢者にありがちな脳動脈硬化性所見は顕著でありません。

 

 

㊳ 検査所見:

13)追加検査

13-A:「抑うつ傾向」⇒抑うつによる不活発は低栄養、サルコペニアを招き、一方、活動性の低下は引きこもり、閉じこもりから抑うつを助長する、といった悪循環が形成されます。

 

13-B:「四肢筋量の低下」⇒抑うつによって活動性が低下すると、骨格筋の廃用性萎縮がすすみ、サルコペニアをもたらします。

筋量が低下すると、筋力も低下します。㉑ 現病歴で6)「立ち上がり時や歩行時にふらつきの自覚はなかった」にもかかわらず、㉕ 現症では8)「神経診察で下肢筋力低下」を認め、さらに追加検査では、下肢のみならず、上司にも筋量の低下を認めています。

このような段階では筋量低下の低下は、まだ顕著ではないことが予測されます。ただし、栄養障害の程度は軽度であるにもかかわらず、筋量低下が下肢のみならず、上肢にまで及んでいる点では、廃用性萎縮だけでなくサルコペニアの状態に至っているのではないかと疑ってみることが必要だと考えます。

 

高齢者にみられる筋力低下の特徴

高齢者にみられる筋力低下には大きく2つのタイプがあります。いずれも高頻度で高齢者に認められるもので、立ち上がり動作や歩行、階段昇降などの日常生活活動(ADL:activities of daily living)動作の制限にかかわるとされています。

いずれも筋萎縮や筋力低下を呈するという症状は両者で共通していますが、その病理変化が少し異なるのが特徴です。下の図は、健常人の骨格筋の断面図のイメージです。

25-0

 


1つは加齢変化によるもので、サルコペニア(≒加齢性筋萎縮・筋力低下)といいます。

サルコペニアでは筋線維の数も横断面積も減少するとされています。

サルコペニアの場合には筋線維の数自体が減少しているため、廃用性筋萎縮ほど早期の回復を期待することは困難です。

下の図は、サルコペニアの断面図のイメージです。上の健常人のものと比較してご覧ください。比較のポイントとしては、全体の断面積の大きさ、筋線維の色の濃さ、スキマの拡がり、に着目してください。

25-1



もう1つは廃用(≒不動)による廃用性筋萎縮・筋力低下です。

廃用性筋萎縮の場合には筋線維の数はあまり変わらず横断面積のみ減少すると考えられています(図)。

廃用性筋萎縮の場合には筋線維の数自体は残存しているため、比較的早期の回復を期待することができます。下の図は、廃用性筋萎縮の断面図のイメージです。最上段の健常者のものすぐ上のサルコペニアのものと比較してご覧ください。比較のポイントとしては、全体の断面積の大きさ、筋線維の色の濃さ、スキマの拡がり、に着目してください。

25-2



ただし、廃用性筋萎縮と加齢性筋萎縮の両者を明確に識別することは難しく、また識別する意義もそれほど重要なものではありません。ただし、医療現場ではこの2つの筋力低下が併存しているケースが多いことを理解しておく必要はあります。

サルコペニアと廃用性筋萎縮が併存することで、その回復過程にも配慮が必要になります。

医療機関での入院期間で回復するのは主に廃用性筋萎縮のほうであり、ある程度改善してもまだサルコペニアの影響は強く残存していることになります。そのため、退院後の在宅や介護保険領域での継続した運動療法が必要になります。
 

 

13-C:「骨量の低下」⇒男性では、骨粗鬆症の罹患率ならびに骨折発生率は、女性の約3分の1と推計されます。

しかし、骨折後の死亡リスクの上昇ならびに生活障害の度合いは、男性が女性より深刻です。

男性では、加齢に伴う海綿骨の減少は主として骨形成の低下によりもたらされ、骨梁の菲薄化が生じる(男性型)ものの、梁の数の減少(女性型)ならびに骨梁の連結状態は比較的維持されます。

男性では加齢に伴い、血中遊離エストロゲンも遊離テストステロンもともに有意に減少するが、骨量の減少は主としてエストロゲンの減少によりもたらされます。

ビスフォスフォネート製剤あるいはPTH製剤の骨密度増加効果はほぼ女性と同等であり、椎骨骨折の予防効果を示唆する報告もみられます。

 

 

<まとめ>

「こんなはずではなかった。」「まさか、このような状態になるとは・・・」といって嘆く高齢者や、早々と現実を受け入れて諦観の境地に至る高齢者、人はさまざまです。

ここで「諦観の境地」と書きましたが、本当に悟りの境地に至れる人は極わずかです。しかも、諦める必要のない段階で諦めてしまうことは必ずしもお勧めできません。なぜなら、諦観の境地に至ったかのように見える人も、しばしば後悔するからです。

 

むしろ自らの可能性を知って、より楽しく充実した毎日を過ごしていただきたいものです。水氣道®はそれを可能にします。それが私の「弘毅高齢者」の勧めでもあります。