代表的な消化器疾患「こんなに辛い症状はあるのに、どんな検査をしても異常が見つからない。」No2

9月15日(火)
第3週:消化器・肝臓病・腫瘍医学  

 

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令和の時代を迎えるのと同時に「平成時代の医療」を実践してきた<高円寺南診療所>は「令和時代の医療」の実践に対応すべく<杉並国際クリニック>へと名称を一新し、その内容も令和の新時代に対応できるシステムへと徐々に変革を続けています。

 

それは、予防医療・継続医療・先制医療による生涯現役を目指したいというこれまでの患者さんに対して責任ある対応をするためには、新患の受け入れはキャパシティーを超えない範囲に抑えることが大切だということを悟ったからです。

 

令和元年6月に、新患受付の完全予約制、本年6月に、新患のみならず再診も含めての完全予約制を導入したのは大正解でした。そして来年6月には、さらに一歩前進して、『登録会員制』の導入を検討しています。

 

奇しくも武漢ウイルスが発生し、わが国を含む全世界を襲うパンデミックに巻き込まれています。一時は政府も厚生行政も混乱状態に陥り、パンデミック・パニックに陥りましたが、いち早く「令和時代の医療」の実践に対応すべく準備を進めていた<杉並国際クリニック>は、比較的冷静に対応することができ、一定水準の安全性を達成できています。

 

❶ 35歳の女性

 

❷ 摂食早期の満腹感と心窩部痛を主訴に来院した。

 

❸ 6カ月前から摂食早期の満腹感を自覚し、

 

❹ 特に脂っぽいものを食べると心窩部痛が出現するために受診した。

 

❺ 便通異常はない。

 

❻ 既往歴に特記すべきことはない。

 

❼ 身長158㎝、体重46㎏(6か月間で3㎏の体重減少)。

 

❽ 腹部は平坦、軟で、肝・脾を蝕知しない。

 

❾ 血液所見:赤血球408万、Hb12.8g/dL、Ht39%、白血球5,300、血小板20万。

 

❿ 血液生化学所見:アルブミン4.1g/dL、総ビリルビン0.8㎎/dL、AST21U/L、ALT19U/L、LD194U/L(基準120~245)、ALP145U/L(基準115~359)、
γ-GT14U/L(基準8~50)、アミラーゼ89U/L(基準37~160)、
尿素窒素15㎎/dL、クレアチニン0.7㎎/dL、尿酸3.9㎎/dL、
血糖88㎎/dL、HbA1c5.6%(基準4.6~6.2)、
総コレステロール176㎎/dL、トリグリセリド91㎎/dL、
Na140mEq/L、K4.3 mEq/L、Cl101 mEq/L。

 

⓫ 上部消化管内視鏡検査および腹部超音波検査に異常を認めない。

 

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<初診Step2>

 

この症例の女性のような訴えで来院される方は少なくありません。ここで、前回検討した❸ 6カ月前から摂食早期の満腹感を自覚していたという現病歴について、追加のコメントをします。

 

半年近くに及んで持続している症状をひたすら辛抱して我慢しているような方は令和の時代には大変少なくなってきました。たいていはスマホで検索して、自己診断したり、あるいは、気に入った市販薬を試して様子をみたりするものです。

また、この間に、すでに複数の医療機関を受診していて、たくさんの検査データをファイルして持参される方、これまでの受診歴を隠そうとする方、人さまざまです。

大病院志向・専門医志向は平成10年から20年頃にかけて顕著だった記憶があります。

「大学病院で半日待たされて通いきれないことを悟り、やむなく近所の町医者に」ということを臆面もなく平気でおっしゃる方も少なくありませんでした。

こうした、かつての皆様の言動態度に触発されて切磋琢磨して現在に至っているのですから、心より感謝申し上げたく思っています。

 

そこで、大いに問題であると思ったことは、必須のはずの問診が省かれ、診察も始まらないうちから、検査漬けにされ、薬漬けにされた、という患者さんたちの声です。

 

たとえば、以下のような最も基本的な情報が欠如したまま検査が行われているケースもあります。

これは、大病院の外来担当医の責任ばかりとは言えません。検査の結果が出てから問診を始めるというスタイルが蔓延していることも事実です。

むしろ、そのような医療を強いられざるを得ない医療システムになっているのが当たり前になっているのです。

令和の新型コロナ時代の現実を体験してもなお「赤ひげ」ファンタジーに陶酔しているような患者さんは、ついつい<無いものねだり>をしてしまいがちです。

予防やセルフケアを怠り、お気軽な理想の医療に依存してしまいがちな安易な習慣から自立しておかなおと、今後はとても危い時代になります。

 

 

❺ 便通異常はない。

 

⇒ 異常の有無だけでなく、排便回数や頻度、便の性状について尋ねておくことは必要です。杉並国際クリニックでは、7段階のブリストル便性状スケールで評価することがあります。便秘や下痢といった日常的な表現も、その意味するところは個人ごとに微妙に異なります。1週間も排便が無くとも平気な方や、許容範囲の軟便を下痢と判断して悩む方もおられます。

 

 

❻ 既往歴に特記すべきことはない。

 

⇒ 「既往歴:特記すべきことなし」と書かれている紹介状は鵜呑みにしないようにしています。アレルギー(食物・薬物)などが確認されていないことや、メンタル疾患についての問診がなされていなかった、ということをしばしば経験しています。身体症状の訴えのみの患者さんに対しては、とくにそのような傾向があるような気がします。

 

心身医学・心療内科学的な視点を持っていれば、習慣的に心身相関に配慮した問診を試みます。かつて、市販薬の毒掃丸のテレビCMで「ゆううつな便秘、気になるニキビ・・・毒掃丸」というのがありました。たしかに、ゆううつ・無気力傾向のある方には便秘、不安・緊張傾向のある方には下痢が多いのではないかと思います。

 

患者さんご本人も、慣れてしまっていて病気との関係性に気が付かなければ積極的に教えてくれないものなのですが、日常診療的には、患者さん本来の気質や体質を把握することで大切な手がかりが得られることがあります。

 

 

❼ 身長158㎝、体重46㎏(6か月間で3㎏の体重減少)。

 

⇒身長、体重は最も基本的な身体データです。即、体格指数(BMI)を計算しましょう。
   

受診時のBMI:体重46㎏ ゆえにBMI(現在)=46/(1.58)²=18.4<18.5
よって、受診時現在では低体重
   

発症時のBMI:体重49㎏ ゆえにBMI(6カ月前)=49/(1.58)²=19.6<22.0
発症時のBMIは普通体重と評価されるが至適体重(標準体重)には及んでいません。
   

したがって、栄養障害の判定のためには健常時体重比だけでなく、至適体重(標準体重)比を確認しておく必要があります。

 

この症例の女性の標準体重はBMI=22 ゆえに

標準体重(至適体重)

=22×(身長m)²
= 22×1.58²
=54.9(㎏)

 

健常時体重比:

%健常時体重=現在の体重/健常時体重×100
=46/49×100=93.9>92(%)

 

栄養障害の判定<栄養不良を認めず>

 

 

標準体重比:

%標準体重=現在の体重/標準体重×100

=46/54.9×100=83.8(%)
栄養障害の判定<80~90%:軽度>

 

体重減少率:

体重減少率(%)=(健常時体重-現在の体重)/健常時体重×100

 

6カ月での体重減少率(%)=(1-46/49)×100=6.1%
      

栄養障害の判定<5~10%:中等度>
     

1か月で平均1%強の体重減少が6カ月続いていたことになります。
     
   

体重減少は、臨床上では栄養不良・栄養障害・栄養失調症などに結びつく大切な指標です。上記の栄養評価は、<栄養不良を認めず>、<栄養不良(軽度)>、<栄養不良(中等度)>とそれぞれが異なる結果になります。

 

したがって、正しい臨床評価のためには、何を基準とするのかが大切です。臨床データは個人差が大きいことが少なくないため、患者個人の変化率で評価することが有用であり、現病歴においては、主訴と同様に期間を考慮すること、正常範囲だけでなく標準(理想・至適)値を参考に比較することが大切です。

 

いずれにしても、臨床検査では、貧血や低たんぱく(低アルブミン)血症、脂質栄養障害、低血糖などの有無などを中心に確認することになります。

 

 

❽ 腹部は平坦、軟で、肝・脾を蝕知しない。

 

⇒ 低体重の患者さんの腹部は平坦であることが多いですが、逆に栄養障害のために腹水などが貯留して膨隆していることもあります。腹部が「平坦」でかつ軟らかいと、腹部臓器を触診しやすくなります。正常では肝・脾は触れないので、打診で凡その大きさ等を行います。なお腎は正常でも触診できることがあります。

 

これらは最も初歩的な診察内容なのですが、信頼関係が十分に成立していない段階で、とくに不安感や警戒感の強い方などでは、初診時には確認できないこともあります。問診を兼ねて丁寧に視診を行い、脈診や頸部リンパ節や甲状腺の触診、肩の凝りの状態などから、次第に診察を進めて慣れてきてから、ということもあります。