緊急ニュース(第三報):新型コロナワクチン治験中断

9月12日(土)

 

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実は2例目の中枢神経障害であった!

 

治験中断は異例であるのか、普通に起こりえる事態なのか、いろいろな意見が表明されています。とりわけ、9月10日付けJAPAN TIMESのAPの記事は、私には納得のいかないものでありました。突然の中止に至ったわけについては、それなりの理由があるはずであるにもかかわらず、発表直後から少しずつ背景情報が集まってきました。

 

Top vaccine trial paused after patient’s illness
トップのワクチン治験は患者の病気で一時中断

 

‟Potentially unexplained illness”
『原因不明の病気の可能性』

 

Temporary holds of large medical studies aren't unusual, and investigating any serious or unexpected reaction is a mandatory part of safety testing.
大規模な医学研究の一時的な保留は珍しくなく、重篤な反応や予期せぬ反応を調査することは、安全性試験の必須項目である。

 

コメント:
そもそも最初から「原因不明の病気の可能性」(‟Potentially unexplained illness”)という表現を繰り返すべきではありません。後段「重篤な反応や予期せぬ反応を調査することは、安全性試験の必須項目である。」という結論部分には異議はありませんが、前段「大規模な医学研究の一時的な保留は珍しくなく」の部分には、違和感を覚えます。珍しいかどうか、というのは数量・頻度概念であるため、その根拠を明確にして論じることが行政・専門家・企業・メディアのすべてに通じる責務ではないかと思います。また、保留の仕方、報道への伝え方、今後の見通しについての見解において、疑問が残ります。

 

以下は、9月10日時点で私が確認できた関連情報のサマリーです。

 

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英オックスフォード大とワクチンを共同開発しているアストラゼネカ有害事象の発生を受けて新型コロナウイルスワクチンの臨床試験を中断した。有害事象が確認された被験者は、横断性脊髄炎(TM)註1と呼ばれる稀な中枢神経炎症性疾患を発症したと報じられている。

 

註1:横断性脊髄炎(TM)

脊髄の一部分が横方向にわたって炎症を起こすことによって発生する神経障害です。「脊髄炎」は、脊髄の炎症を意味し、「横断」とは、単に炎症の発生する部位が脊髄の横断面であることを示します。炎症の発作によって、ミエリン(神経細胞繊維を覆っている脂肪性の絶縁物質)が損傷または破壊されます。これが破壊されることによって、神経系統に傷が付き、脊髄内の神経と身体の他の部分との交信が中断されます。


TMの症状には、数時間から数週間にわたる脊髄機能の喪失があります。これは、通常、腰部の痛みや筋肉衰弱やつま先や脚の異常な感覚などの症状が突然発症することで始まり、その後急速に、麻痺や閉尿や排便制御の喪失などの重度な症状へと進んでいきます。一部の患者は、まったくまたはほとんど障害を残さずに完治しますが、日常生活に支障をきたすほどの永続的障害が残る患者もいます。横断性脊髄炎は、老若男女、および人種を問わず起こる疾病です。遺伝的な要因も見られません。横断性脊髄炎の正確な原因はまだ判明していません。脊髄を損傷させる炎症は、ウイルス感染症、特異免疫反応、または脊髄にある血管への血液流不足によって起こることがあります。

 

横断性脊髄炎は、水痘帯状疱疹ウイルス(水疱瘡や帯状疱疹を引き起こすウイルス)、単純ヘルペス、サイトメガロウィルス、エプスタイン-バー・ウィルス、インフルエンザ、エコーウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、A型肝炎、風疹などのウイルス感染後に発症することがあります。今回のワクチンとの関連については、これらの一連の知見は、「原因不明の病気の可能性」(‟Potentially unexplained illness”)ではなく、「ウイルスやワクチンが原因となっている病気の可能性」があることを示唆します。

 


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9月9日、独立委員会が安全性データをレビューするために臨床試験を一時的に中断したことを明らかにし、試験のタイムラインへの影響を最小限に抑えるよう取り組んでいるとの声明を発表した。
アストラゼネカのパスカル・ソリオ最高経営責任者(CEO)は9日午前に投資家に対し、英国の女性1人に横断性脊髄炎(TM)と呼ばれる神経系の疾患が発現し始めたため同社のワクチン試験は全世界で中断されたと説明した。
このワクチンは世界で最も開発が先行していたワクチンの一つ。アストラゼネカはすでに、世界各国に30億本近くのワクチンを供給することで合意している。これは、ほかのどのワクチンプロジェクトよりも多い。
米紙ニューヨーク・タイムズは関係者の話として、因果関係は明確ではないものの有害事象が確認された被験者は、英国でワクチン接種後に横断性脊髄炎(TM)と呼ばれる稀な炎症性疾患を発症したと報じられていた。アストラゼネカは、詳細は検証中で、最終的な診断は確定していないと報じている。

 

コメント:

横断性脊髄炎(TM)は、米国内だけでも毎年、約1400件の新規症例が報告されており、約33,000人の米国人が横断性脊髄炎による障害を持っています。欧米では、ある疾患が2000人に1人の割合で発生すれば、その疾患は希少とみなされます。つまり、0.2%です。米国の人口は約3憶2900万人(2019)であり、その2000分の1は164万5000人なので、明らかに希少疾患に該当します。それでは、日本における希少疾患はというと、人口は1億2593万人(2020・8・1)の2000分の1で62,965人未満であれば希少疾患になります。日本における新型コロナ感染症はどうでしょうか。9月10日現在の国内での新型コロナウイルス感染症者は73,221例であるため、辛うじて希少疾患から外れる計算になります。しかし、最近までは発症率は約0.2%とされ、希少疾患の水準でした。ですから、横断性脊髄炎(TM)は希少疾患とはいっても、それなりの患者数が存在するという理解が必要ではないかと考えます。ですから、希少疾患という言葉の一般的なイメージに惑わされてはならないと思います。

 

 

 

臨床試験登録ISRCTNに掲載された7月12日付の被験者情報によると、アストラゼネカの英試験で参加者1人が横断性脊髄炎(TM)の症状を示した。原因は調査中だとされていた。今回で中枢神経系の問題が生じたのは2件目となるが、神経障害の最初の症状は多発性硬化症(MS)註2が原因とみられ、医療関連ニュースを専門とするSTATの報道によると、女性は回復しつつあり、ワクチンとの関連はないと考えられたと伝えた。

 

同社はすでに被験者が神経系の症状を呈し、7月に臨床試験を一時的に停止したことも確認した。この被験者は多発性硬化症(MS)と診断されていた。なお、メイセル氏は「7月には、被験者1人が未診断の多発性硬化症であることが確認されたことで安全性を検証する間、試験が一時中断した」とした上で、独立した試験監視委員会は「この診断がワクチンと関連がないと結論付けたと説明した。しかし、7月に発表された論文では、治験の中間結果として、痛みや頭痛、発熱、悪寒などの副作用は確認されたが、深刻なものはなかったとしていた。

 

註2:多発性硬化症(MS)

多発性硬化症は中枢神経系の脱髄疾患の一つです。私達の神経活動は神経細胞から出る細い電線のような神経の線を伝わる電気活動によってすべて行われています。家庭の電線がショートしないようにビニールのカバーからなる絶縁体によって被われているように、神経の線も髄鞘というもので被われています。この髄鞘が壊れて中の電線がむき出しになる病気が脱髄疾患です。この脱髄が斑状にあちこちにでき(これを脱髄斑といいます)、病気が再発を繰り返すのが多発性硬化症(MS)です。MSになるはっきりした原因はまだ分かっていませんが、自己免疫説が有力です。私達の身体は細菌やウイルスなどの外敵から守られているのですが、その主役が白血球やリンパ球などですが、これらのリンパ球などが自分の脳や脊髄を攻撃するようになることがあり、それがMSの原因ではないかと考えられています。やはり、ウイルスやワクチンが原因となる可能性を残しているといえます。ただし、親から子に病気が遺伝することはありません。ただし、アレルギー体質が遺伝するように、MSになりやすさを決定する体質遺伝子が遺伝することはありえます。

 

 


アストラゼネカの広報担当者ミシェル・メイセル氏によると、ソリオCEOは今回の症例で最終的な診断は出ていないとした上で、より多くの検査が行われるまで診断は確定しないと述べた。メイセル氏は発表資料で「こうした検査が今後、独立した安全性委員会に提出され、有害事象が検証されて最終診断が下される」とした。アストラゼネカは来週、臨床試験を再開する可能性があると、英紙フィナンシャル・タイムズが事情に詳しい複数の関係者を引用して報じている。ただし、同社は試験の再開時期についてコメントしていない。

 

 

各国のアクション


新型コロナウイルスワクチンを開発している欧米の製薬企業は8日、科学的な安全性・有効性の基準を支持し、プロセスを急がせようとする政治的な圧力には屈しないと宣言した。

 

英国の規制当局は、試験の早期に再開できるかどうか判断するため、情報の収集と分析を急いでいる。英国のマット・ハンコック保健長官は、今回の試験中断が開発プロセスを後退させるかどうかについて「必ずしもそうではない。アストラゼネカによる検証を見極めたい」と語った。

 

英国免疫学会のダグ・ブラウン会長は「人が病気になる理由はさまざまだ。開発チームは今、有害事象の原因が何であり、それがワクチンと関連があるのかを詳細に検討している」と述べた。

 

英国での試験は、5歳から70歳以上の1万2000人以上を対象に5月から行われている。アストラゼネカのワクチンは、アデノウイルスを使って新型コロナウイルスの遺伝子(遺伝情報)の運び役にアデノウイルスを用いて送達し、免疫反応を促すウイルスベクターワクチン。同様のアプローチは、中国のカンシノやロシアのガマレヤ研究所、米ジョンソン・エンド・ジョンソンによっても追求されているが、それぞれ重要な相違点があり、しかも決定的な違いである可能性がある。

 

英国アストラゼネカはチンパンジーのアデノウイルスを使っていることに注目している。アストラゼネカがベクターとしてチンパンジーのアデノウイルスを選択しているのは、ヒトアデノウイルスへの過去の暴露によって、免疫がベクターを攻撃するリスクを回避するためだ。

 

 

ロシアでも試験が計画されていて、全世界で5万人の登録を目指している。ロシア初の新型コロナウイルスワクチンとして承認されたガマレヤ研究所のワクチンを支持する人からは、ガマレヤ研究所がヒトのアデノウイルスをベースにしている。ロシア政府系のロシア直接投資基金(RDIF)総裁のキリル・ドミトリエフ氏は「ヒトのアデノウイルスを使ったプラットフォームは、ほかの新しいプラットフォームと比べて安全性が高く、研究もなされている」とロイターに語った。 

 

 

米国での後期試験は、3万人の登録を目標に先週開始。米モデルナは電子メールで出した声明で、進行中のワクチンの試験に「何らかの影響があるとは認識していない」としている。しかし、米国立衛生研究所(NIH)のフランシスコ・コリンズ所長は9日、米上院委員会の公聴会で、ほかにも同様の事例がないか確認を進めていると語った。コリンズ所長は「まず安全性を重視しており妥協はしないとわれわれが語るのを聞けば、誰もが安心するはずだ」とした上で、「これは1件の有害事象に基づき、それがワクチンと関係があるかないか分からないが、何か懸念すべき証拠があれば直ちに中断し、確認するという慎重なアプローチの最善策だ」と述べた。

 

 

ドイツのルーコケアはアストラゼネカと同様のワクチンを開発しているが、まだ早期段階で、大規模試験に入れば安全性の問題が出る可能性が高いことに同意した。同社のミハエル・ショールCEOは「2万人に接種するとすれば、いずれかの時点で重篤は有害事象が発生するのは当然だ。ワクチンとの関連性が明確に否定されれば、試験は継続される」と指摘。「炎症などの免疫関連疾患は、特に精査の対象となるだろう」と付け加えた。

 

 

 

インド血清研究所は、アストラゼネカのワクチンの試験は進行中で、何ら問題に直面していないと述べた。

 

 

ブラジルと南アフリカでも臨床第3相(P3)試験が行われている。
韓国は、国内企業が参加する同ワクチンの供給について、詳細を把握した上で製造計画を検討するとしている。保健省のユン・テホ氏は、このような臨床試験の中断は「さまざまな要因が相互に影響し合うため」珍しいことではないと述べた。

 

 

 

日本でも初期の試験が始まった。第一三共の真鍋淳社長は14日までに共同通信のインタビューに応じ、英製薬大手アストラゼネカなどが開発中で自社も製品化に携わる新型コロナウイルスワクチンについて、日本国内への供給は「来年の東京五輪には間に合わせたい」と語った。第一三共はアストラゼネカのワクチン原液を容器に充填する製剤化を担う予定。

真鍋氏は「決定的な治療薬が見つからない中、一番期待が高まっているのがワクチン。スピード感が重要となる」と述べた。自社でもメッセンジャーRNAと呼ばれる人工遺伝子を用いたワクチンを開発中で、来年3月ごろの臨床試験開始を目指している。

真鍋氏は「ワクチンは100パーセント効くわけでなく、改良を進めれば抗体が長く続くなど改善の余地もある。いろんなワクチンが存在する方が良い」と話した。

安全保障上の観点から、医薬品が国にとって重要な基幹技術になるとして「(ワクチンや治療薬開発の)技術は持っておくべきだ」と自社開発の意義を強調した。

真鍋氏は、新型コロナは根絶が難しく、今後は季節性インフルエンザのようにウイルスとの共生を求められる可能性があると指摘。今後のワクチンや治療薬開発は「国で司令塔をつくり、産学官共同で整備を進め、海外との連携も深めなくてはならない」と述べた。

 

日本はすでにアストラゼネカ社から1億2千万回分の供給を受けることで合意している。

しかし、英製薬大手アストラゼネカなどが開発している新型コロナウイルスのワクチンで深刻な副作用が疑われる事例が発生し、米国での治験が一時中断された問題で、厚生労働省は9日、日本での治験も中断されたと同社から報告を受けたことを明らかにした。

副作用の内容や供給計画に影響が出ないかどうかなど、厚労省は同社から詳細な情報を収集している。

 

ワクチンと副作用に詳しい北里大の中山哲夫特任教授(臨床ウイルス学)は「詳しい情報が得られていないので評価はできない」とした上で、「中断ということは重大な副反応が出た可能性がある。開発は安全性の確認というステップをきちんと踏んで進めないといけない」と話している。

 

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会もワクチンは投与後に免疫が過剰に働く「抗体依存性増強(ADE)」などの重い副作用が起こりうると以前から指摘しており、国内でも慎重に安全性を確認していくことが求められる。