リウマチ専門医が遭遇する関節リウマチの注意点 

9月7日(月)
第2週:感染症・アレルギー・膠原病  
  

 

リウマチ科を標榜していると、初診時に診断がついていないケースばかりでなく、診断が確定して、すでに治療を継続中の方が紹介されてくる場合があります。

その場合には、診断が正しいかどうかや合併症の有無を再検討します。

それとともに治療方法が適切かどうか、治療による副反応が発生していないかどうか、患者本人や紹介医が気付いていない他の合併疾患はないか、などを含めて慎重に対応することになります。

今回の症例の出典も第114回(令和2年)医師国家試験問題からです。

 

 

 

❶ 70歳の女性。

 

❷ 発熱と頸部のしこりを主訴に来院した。

 

❸ 8年前に関節リウマチと診断され、

 

❹ プレドニゾロン、メトトレキサート及びNSAIDによる治療を継続している。

 

❺ 1年前から誘因なく発熱が持続するため受診した。

 

❻ 身長155㎝、体重43㎏。

 

❼ 体温38.4℃。脈拍104/分、整。血圧120/80㎜Hg。呼吸数20/分。

 

❽ 口蓋扁桃の腫大を認めない。

 

❾ 両頸部と両腋窩に径2㎝の圧痛を伴わないリンパ節を1個ずつ蝕知する。

 

❿ 心音と呼吸音とに異常を認めない。

 

⓫ 腹部は平坦、軟で、肝・脾を蝕知しない。
⓬ 関節に腫脹と圧痛とを認めない。

 

⓭ 血液所見:赤血球315万、Hb10.2g/dL,Ht32%,白血球2,800(桿状核好中球36%、
分葉核好中球44%、好酸球2%、好塩基球1%、単球8%、リンパ球9%)、
血小板12万。

 

⓮ 血液生化学所見:総蛋白6.6g/dL,アルブミン3.3g/dL, AST 35U/L, ALT23U/L, LD780U/L(基準120~245)。

 

⓯ 免疫血清学所見:CRP2.2㎎/dL, 抗核抗体陰性,
可溶性IL-2受容体952U/mL(基準157~474),
結核菌特異的全血インターフェロンγ遊離測定法〈IGRA〉陰性。

 

⓰ 造影CT:縦隔・腸間膜に多発性のリンパ腫大を認める。

 

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<初診Step1>

❶ 70歳の女性。
⇒ 高齢であるため、基礎疾患や既往歴を詳しく聴取します。しかも、女性なので杉並国際クリニックであれば、骨量を計測して、骨粗鬆症の有無を確認することにな
ります。この女性は5年後は後期高齢者となるため、ロコモティブ・シンドローム
(運動器症候群)やフレイル(心身虚弱)のリスクについての評価と対策が必要で
あると考えられます。

 

ロコモティブ・シンドローム「運動器症候群」とは、「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態 」のことを表し、2007年に日本整形外科学会によって新しく提唱された概念です。略称で「ロコモ」と言います。運動器とは、身体を動かすために関わる組織や器管のことで、骨・筋肉・関節・靭帯・腱・神経などから構成されています。

 

運動器の障害は、運動器自体の疾患によるものと、加齢に伴って起こる
運動動器の機能低下によるものがあります。

 

運動器の疾患:

変形性膝関節症、骨粗鬆症、関節リウマチ、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症、骨折、四肢・体幹の麻痺、腰痛、肩こりなど
加齢に伴う運動器の機能低下:四肢・体幹の筋力低下、体力・全身耐久性の低下、
筋短縮や筋萎縮による関節可動域制限、関節痛や筋痛など

運動器の疾患や、加齢に伴う運動器の機能低下によって、立位・歩行機能やバランス機能、巧緻性、運動速度、反応時間、深部感覚などが低下し、屋内外の移動やトイレ・更衣・入浴・洗面などの日常生活活動に介助が必要な状態となっていきます。

 

身体が思うように動かないことで外出するのが億劫となり、家に閉じこもりがちとなると運動の機会が減り、さらに運動器の機能低下が進みます。容易に転倒しやすくもなり、怪我や骨折のリスクも高くなります。

 

ここで、上記に掲げた運動器の疾患、加齢に伴う運動器の機能低下に列記している項目を再度御確認下さい。そして、このような状態にならないように確実に予防できる方法を実践している、と自信をもって回答できる方はどの位いらっしゃるでしょうか。『水氣道』の実践を継続している皆さんは、水氣道が、これらのすべてに対して有効な活動であることを直ちにご理解いただけるものと考えます。

 

しかし、ロコモティブ・シンドロームは、たしかに今後ますます重要性が増していくであろう概念なのですが、整形外科指導医らによる着想に基づくものなので運動器に限局されています。

 

『水氣道』の目指すものは、運動器機能の維持増進にとどまらず、認知機能の維持増進、さらには創造的活動の開花に及んでいます。そのような意味では、以下に紹介させていただく『フレイル』が、より包括的な概念であると言えるでしょう。

 

フレイルは、海外の老年医学の分野で使用されている英語の「Frailty(フレイルティ)」が語源となっています。

 

「Frailty」を日本語に訳すと「虚弱」や「老衰」、「脆弱」などを意味します。

 

日本老年医学会は高齢者において起こりやすい「Frailty」に対し、正しく介入すれば戻るという意味があることを強調したかったため、多くの議論の末、「フレイル」と共通した日本語訳にすることを2014年5月に提唱しました。
    

フレイルは、厚生労働省研究班の報告書では「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像」とされており、健康な状態と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間を意味します。

 

多くの方は、フレイルを経て要介護状態へ進むと考えられていますが、高齢者においては特にフレイルが発症しやすいことがわかっています。
    

高齢者が増えている現代社会において、運動機能低下をきたすロコモティブ・シンドロームのみならず心身の脆弱性をもたらすフレイルに早く気付き、正しく介入(治療や予防)することが大切です。
    

日本水氣道協会の20年に及ぶ水氣道®の活動は、超高齢社会を背景として、いち早くロコモティブ・シンドロームやフレイルの予防に向けての生涯エクササイズの場と方法を伝授し続けています。

 

 

❷ 発熱と頸部のしこりを主訴に来院した。

 発熱
⇒  関節リウマチ(RA)では微熱がみられることがあります。中等度以上の発熱の場合は、RA以外あるいはそれに関連する炎症性疾患や感染症の合併を疑います。

 

 頸部のしこり
⇒ 頚部腫脹(けいぶしゅちょう:首の腫れ)をきたす原因には数多くの疾患があります。しかし、頚部腫瘤(けいぶしゅりゅう:首のしこり)の多くは頚部リンパ節が様々な原因で腫脹することによります。

首には片側だけでも数十個以上のリンパ節があり、炎症や癌の転移で腫れてきます。元の病変が存在する場所によって腫れるリンパ節群がおおよそ決まっていますので、触診だけでも病変の部位を推測することができます。

頚部リンパ節腫脹の原因は耳鼻咽喉・口腔・歯科領域の感染による炎症性のものが殆どですが、耳鼻咽喉とその隣接領域からの癌が転移した場合や、肺・食道・乳腺などの胸部臓器や胃・大腸・肝臓・胆管系・膵臓・泌尿生殖器などの腹腔臓器からの遠隔転移、あるいは悪性リンパ腫などの場合もあり注意しなければいけません。

頚部の腫瘤(しこり)が2~3週間以上続いたり、徐々に大きくなったりする場合には、声が嗄れる、飲み込みにくい、飲み込むときに痛む、耳が痛い、耳の聞こえが悪い、体重が減ってきた、などの症状があるときにはガンである可能性がありますので、診察を受けた方が良いでしょう。

 

 

❸ 8年前に関節リウマチと診断
⇒70歳―8年=関節リウマチ(RA)の診断は62歳。

したがって、RAの発症はそれ以前から、またRAの治療歴は8年以内ということが推定できます。

❹ プレドニゾロン、メトトレキサート及びNSAIDによる治療を継続している。
  ⇒メトトレキサート(MTX)は関節リウマチ治療の標準薬で中心的な役割を果たす治療薬です。また、NSAIDは非ステロイド抗炎症薬で鎮痛剤として用いられています。「関節リウマチ治療ガイドライン2014(日本リウマチ学会編)」の関節リウマチ(RA)の治療アルゴリズムでは、ステロイド剤であるプレドニゾロンは、MTXなどに加えて短期間のみ少量使用してもよいとされています。RAの診断がついて8年を経てもプレドニゾロンを必要とする症例は、治療コントロール良好であるとはいえないだけでなく、ステロイド性骨粗鬆症の管理が必要となります。